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日本映画の未来は奴らに託した!!渋谷に集結した若き精鋭たち

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
PFFアワード2013グランプリ受賞作「夜とケイゴカー」

自主映画と聞くと何だか地味っぽいし、素人が作った映画に付き合うほど暇じゃないし。。。そうお思いの映画ファンの皆さん。これが意外に面白いんです!去る9月14日から20日まで、東京・渋谷のシネクイントで開催された第35回ぴあフィルムフェスティバルに参加してみて、この楽しさをいち早くYahooビュアーの方々にお伝えしたくて、熱が冷めないうちにアップしようと思った次第です。(注・今回は親密度を意識して"ですます調"にしました)

欠点すら魅力に変える才能と情熱が画面に充満!!

警備員がストーカーに変身する「夜の法則」
警備員がストーカーに変身する「夜の法則」

さて、フェスティバルの目玉であるPFFアワードの最終審査に残った16本の自主映画がいかに粒ぞろいだったかを、まず報告しなくてはいけません。学習院大学を卒業後、出版社に勤務しながら夜間ゼミで映画作りのノウハウを学んだという平野麻美監督の「震動」(映画ファン賞)は、ハンデを乗り越えて行こうとする恋人たちの関係の変化を完璧な会話で構成したウェルメイドなメルヘンだったし、泉谷智規監督が高校時代の学友を集めて作った「女島」(審査員特別賞・ジェムストーン賞受賞)は、闇社会で逆転した日中関係を血みどろのバイオレンスで描いた皮肉な暴力活劇でした。また、最年少22歳の山下洋助監督が立教大学の卒業制作で作った「夜の法則」(審査員特別賞・日本映画ペンクラブ賞受賞)は、夜の闇の中でストーカーと連続殺人鬼が格闘するスリルと興奮が観客を直撃する衝撃のクライムアクションとして圧巻の出来。ここに並べた形容詞は決して大袈裟ではなく、作り手の才能としたたかな計算と、同時に、欠点すら魅力に変えてしまう愛嬌と情熱の強さに押し切られた結果だと、解釈して頂いてけっこうです。だって、どれも終映後「貴重な時間を返せ!」と叫びたくなる一部プロの日本映画の数倍は面白いんだもの。ホントですよ!

授賞式は歓喜の渦に巻き込まれた!!

そんな中、俳優の森山未來さんを始め5人の最終審査員がグランプリに選んだのは、山形出身の市川悠輔監督がネットで募集したスタッフとキャストと共に作った「夜とケイゴカー」でした。親の持ち物であるしょぼい軽自動車に相乗りしてドライブを始めてみたものの、予定がことごとく覆ってどんどん惨めになっていく男子2人の痛いロードは、突拍子もない展開といい、突如現れるカメラの影といい、かっこいい映画的な幕切れといい、良い意味でプロっぽくない継ぎ接ぎが魅力的なPFFグランプリに相応しい映画だったと思います。

中村義洋監督(左)と筆者@レセプション
中村義洋監督(左)と筆者@レセプション

授賞式も熱かったです。最終審査員の中井美穂さんがグランプリ作品のタイトルを読み上げた瞬間、思わず歓声を上げたのは「夜とケイゴカー」の主演俳優、板倉武志さん。壇上に上がっても涙が止まらず、「撮影中に怪我をして迷惑かけてばかりだったので、授賞できてホントに嬉しいっす!」と絞り上げる姿を見て、出来れば来年も日本映画ペンクラブ賞の審査員としてこの"映画の輪"の中にいたいと、こっそり思ってしまいました。授賞式後のレセプションでは、同じく最終審査を務めたPFFのOBである中村義洋監督と「夜の法則」イチオシで意気投合。監督は「今の素人は僕らの時とは比べものにならないほどレベルが高い」と仰っていました。でも、彼らがプロデビューできるかどうかは微妙です。日本映画が活況と言われているのは一部のみ。映画ビジネスが厳しい状況にあることに変わりはないのです。それでも、彼らはきっとやってくれるに違いない。ここに紹介した名前を是非記憶に刻んでおいて下さい。間違いなく、近い将来、原作やドラマの知名度に頼りがちな現・日本映画界のずるい体質に風穴を開けてくれるはずですから!!!

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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