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決戦の秋(とき)来たる――豊島将之竜王(31)に藤井聡太三冠(19)が挑む竜王戦七番勝負開幕

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月8日。東京都渋谷区・セルリアンタワー能楽堂において第34期竜王戦七番勝負第1局▲藤井聡太三冠(19歳)-△豊島将之竜王(31歳)戦の対局が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 竜王戦は将棋界最高の賞金額。七番勝負を制した側には優勝賞金4400万円が贈られます。また七番勝負敗者は1650万円です。

 近年、竜王戦第1局はセルリアンタワー能楽堂が対局場になっています。

 8時46分頃、豊島竜王。47分頃、藤井挑戦者が姿を見せ、席に着きます。両者ともに秋らしい色合の和装。将棋界の歳時記では「竜王戦」は秋の季語です。

 両対局者ともに駒を並べ終えたあと、立会人の中村修九段が声をかけます。

中村「それでは第34期竜王戦、第1局にあたりまして、振り駒をしていただきます」

 本局の記録係は広森航汰三段。広森三段は盤側の机の反対側に周り、白布を敷き、豊島竜王側の歩を5枚取ります。

広森「豊島竜王の振り歩先です」

 普段の対局であればそのまま記録係が振り駒をするところですが、大きな対局では主催者側関係者や地元首長などがその役を務めることもあります。本局では野村ホールディングス・寺口智之副社長が振り駒をおこないました。白布の上には表の「歩」が1枚、裏の「と」が4枚出ました。

広森「と金が4枚出ましたので、藤井三冠の先手番でお願いします」

 藤井挑戦者は瞑目。対局開始のときを待ちました。

 9時。

中村「それでは定刻となりましたので、藤井三冠の先手番でお願いします」

 両対局者は「お願いします」と深く一礼。持ち時間8時間、2日制の対局が始まりました。

 藤井挑戦者は湯呑を手にし、熱いお茶を一服したあと、手ぬぐいでていねいに手を拭きます。しばし瞑目。そして初手、2筋、飛車先の歩を伸ばしました。

 対して豊島竜王も8筋、飛車の前の歩を一つ進めます。

 5手目。藤井挑戦者は角の横に金を上がります。戦型は相掛かり。大方の予想通りといったところでしょうか。

 9手目。藤井挑戦者は端9筋の歩を突きます。ディープラーニング系のコンピュータ将棋ソフトが好むところから「DL流」とも呼ばれる形で、藤井挑戦者がいち早く採用して有名になりました。最近は藤井挑戦者がディープラーニング系のソフトをいち早く研究に用い始めたことと、最近の快進撃が関連付けて語られる機会が多くなりました。ただし、それがどれだけ藤井挑戦者の強さに影響しているのかは、まだよくわかりません。

 藤井挑戦者の飛車は2筋、歩を交換するモーションで縦に大きく動いたあと、さらに横に大きく動いて、7筋の歩を取りました。歩を得するメリットがある一方、飛車の姿が不安定であり、手数かけてそれを直すと手損となるデメリットがあります。

 豊島竜王の側は7三の地点に桂が進んでいるのが珍しいところ。その工夫がどう活きるのでしょうか。

 10時40分を過ぎた現在は、26手目、豊島竜王が8筋下段に飛車を引いたところまで進んでいます。

 昨年の第1局▲羽生善治九段-△豊島竜王戦。後手番となった豊島竜王は矢倉模様から速攻を仕掛けて圧倒。竜王戦七番勝負史上最短の52手で快勝しています。

 昨年の竜王戦七番勝負が始まるまで、豊島竜王は羽生九段を相手に通算16勝17敗で1番負け越していました。しかしその七番勝負を含み、この1年では8勝1敗と圧倒。通算24勝18敗としています。

 「将棋史上最強」とも言われるレジェンド羽生九段を相手に7連勝以上している棋士は、豊島竜王の他にいません。 

 一方、豊島竜王は昨年の今頃、藤井現三冠を相手に6勝0敗と圧倒していました。藤井三冠に6連勝している棋士も、豊島竜王しかいません。

 しかしそこからは藤井三冠に巻き返されて3勝8敗。現在は通算9勝8敗で、まだ勝ち越しているものの、1番差にまで追い上げられています。

 もし本局で豊島竜王が敗れると、ついに対戦成績で並ばれることになります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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