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藤井聡太王将に挑戦するのは永瀬拓矢九段か? 西田拓也五段か? 11月25日、王将戦プレーオフ

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月25日。ALSOK杯第74期王将戦挑戦者決定リーグ・プレーオフ、永瀬拓矢九段(32歳)-西田拓也五段(33歳)戦がおこなわれます。


 永瀬九段、西田五段はともに5勝1敗という好成績でリーグを終えました。


 王将戦の規定によりプレーオフがおこなわれ、勝者が藤井聡太王将(22歳)への挑戦権を獲得。七番勝負を戦います。

本命か、ダークホースか


 現代将棋史上「たくや」という名のつく棋士は2人しかいません。その2人のたくや、永瀬拓矢九段と西田拓也五段が、王将戦プレーオフという大きな舞台で戦うことになりました。


(なお偶然ながら残留した菅井竜也八段、近藤誠也七段まで含めると、リーグの上位4人の名前は「や」で終わります)

 永瀬九段はこれまで、タイトル戦では王座4期、叡王1期を獲得しています。

 永瀬九段は今年度、王座戦五番勝負で藤井王座(七冠)に挑戦。A級順位戦では名人挑戦権争いを争っているところで、現代将棋界のトップクラスの一角です。

 王将戦でも2020年度、七番勝負登場の経験があります。


 永瀬九段は今期王将リーグでも挑戦権獲得の本命格でした。

 一方の西田五段は現在、C級1組に所属。2017年度に加古川青流戦で優勝という実績があります。全棋士参加棋戦での優勝やタイトル挑戦の経験はまだありません。

 西田五段は今期王将戦、一次予選と二次予選を勝ち抜いて、初のリーグ入りを果たしました。

 西田五段から見て、他のメンバー6人はすべて格上の存在でしたが、リーグが始まるや快進撃を見せ、ついにプレーオフ進出を果たしました。

過去の対戦成績は永瀬2勝、西田1勝


 永瀬九段と西田五段は過去に3回対戦し、永瀬2勝、西田1勝という成績が残されています。振り飛車党の西田五段は、全局で飛車を振っています。


 1局目は2022年4月、棋聖戦決勝トーナメント2回戦。西田五段が先手で三間飛車を選んだのに対して、永瀬王座(当時)は居飛車穴熊に組みました。中盤で永瀬王座は少しずつリードを広げていき、最後も押し切って、118手で永瀬勝ちとなりました。

 2局目は2024年2月、朝日杯準決勝。後手の西田五段は四間飛車に振ったのに対して、永瀬九段は居飛車穴熊。永瀬九段リードで終盤を迎えたものの、西田五段は粘って玉を上部に逃げ出し、ついには入玉を果たして、勝敗不明となりました。しかし永瀬九段は踏みとどまり、最後は相入玉に方針を定めます。西田五段は持将棋成立の点数には足りず、219手の大熱戦の末に、終局となりました。


 そのあと永瀬九段は決勝で藤井八冠(現七冠)を破って、優勝を飾っています。


リーグ「本割」は西田五段の勝ち


 永瀬-西田戦の3局目は今年10月24日におこなわれた、今期王将リーグでの対局です。西田五段は先手で四間飛車から「振り飛車ミレニアム」とも呼ばれる現代最新の構え。対して永瀬九段はやはり居飛車穴熊でした。

永瀬「(序盤は)定跡だという認識でした」

 前例のある進行をたどって駒がぶつかり、互角の中盤戦へと入ります。

西田「(53手目)▲2五桂と△1二玉上がられるあたり・・・その辺ぐらいまでなんとなく予定ではあったんですけど。ちょっとそのあと、そこまで深くは詰めれてなかったんで。その場で考えたっていう感じでした。形勢は難しい難しいのかなとは思っていて。ただ居飛車の囲いがけっこう堅いので。なんとか勝負できないかなと思ってました」

 形勢不明のまま迎えた72手目。永瀬九段は角で自陣に迫る歩を取ります。しかしこれが、受けの達人・永瀬九段らしからぬ大きなミス。西田五段は龍を切って金と刺し違えたあと、詰めろ角取りで飛を打つ大技を決めました。

西田「(77手目)▲3二龍切って、駒損解消できたので。正しくやればいけるんじゃないかなと思いました」

永瀬「▲3二龍をうっかりしてしまって、投了級かなと思ったんですけど。まあ、投げるわけにはいかないんで、という感じでした」

 永瀬九段はこのあとも粘り続けます。しかし西田五段は逆転を許しません。

西田「(終盤)逆転されないように慎重にいったつもりではありました。(勝ちが見えてきたのは127手目)▲5一角と打って受けが難しくなったところですかね。そこでようやく、寄り筋が見えてきたかなと思いました。ちょっと中盤わかんないところもあったんですけど。全体的に、そこそこけっこう、うまくさせたのかなと思います。

永瀬「対抗形は逆転しないので。逆転はしないと思ってました」

 最後は西田五段が永瀬玉を中段に引っ張り出して詰まし、18時41分、141手で勝利を飾りました。

 西田五段はこの時点で3勝1敗となりました。

西田「望外というか、こうなるとあまり、自分では思ってなかったです」

 この一局のあと、西田五段、永瀬九段ともに負けることなく、5勝1敗のトップの成績で並んでプレーオフとなりました。

 本命の永瀬九段か。それともダークホースの西田五段か。どちらが藤井王将に挑戦しても、興味深い七番勝負となりそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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