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11月24日、将棋日本シリーズ決勝 渡辺明九段は4回目、広瀬章人九段は初の優勝を目指す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月24日。東京都江東区・東京ビッグサイトにおいて、第45回将棋日本シリーズ・JTプロ公式戦の決勝、渡辺明九段(40歳)-広瀬章人九段(37歳)戦がおこなわれます。棋譜は公式ページをご覧ください。

 今期、両者はともに2回戦からの登場。渡辺九段は豊島将之九段、稲葉陽八段を連破。広瀬九段は丸山忠久九段、藤井聡太JT杯覇者(七冠)に勝っています。

 渡辺九段は4回目、広瀬九段は初の優勝を目指しての戦いとなります。


 両者は過去に38回対戦し、渡辺22勝、広瀬16勝と拮抗した成績が残されています。

 2019年の本棋戦決勝▲渡辺JT杯(三冠)-△広瀬竜王(肩書はいずれも当時)戦は定跡形をはずれた相居飛車の戦いとなり、69手で渡辺JT杯が勝ちました。


 直近では10月30日、叡王戦・段位別予選九段戦で対戦。渡辺九段先手で相掛かりとなり、94手で広瀬九段が勝っています。


 本局もまた相居飛車での戦いが予想されます。


小学生もプロも熱戦に


 11月2日。愛知県常滑市「Aichi Sky Expo」において、準決勝▲広瀬九段-△藤井JT杯覇者戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。


 将棋日本シリーズでは、多くのお子さんを集めての「テーブルマークこども大会」が開催されます。少年時代の藤井JT杯も、この大会に参加していました。


 今回、低学年部門の決勝では宮野智輝さんと杉立暖真さんが対戦しました。宮野さんの向かい飛車に対して杉立さんは居飛車。結果は126手で杉立さんが勝ちました。

 高学年部門の決勝は小松希さんと白尾康さんが対戦。白尾さんの四間飛車に対して、小松さんは居飛車。終盤に入ると、小松さんが優位に立ちました。

 しかし白尾さんは粘り、玉を逃げ続けて、ついに相手陣一段目までもぐりこみます。その後も小松さん勝勢が続きましたが、小松さんは不屈の闘志で粘り続け、追われた玉はまた自陣の一段目へと戻っていきます。筆者も長い間将棋を観戦し続けてきましたが、こうした進行はあまり見た記憶がありません。

 最後は白尾さんの粘りが実って大逆転。白尾さんが234手の大熱戦を制して、優勝を飾りました。

 低学年決勝が30分ぐらいで終わったのに対して、高学年決勝は1時間以上もかかることに。そのため、プロ公式戦の方は開始が大幅に遅れることとなりましたが、観戦された皆さんは、子どもたちの熱闘には感心したのではないでしょうか。

広瀬九段、5年ぶりの決勝進出

 プロ公式戦の始まる前、両対局者には壇上でインタビューがおこなわれました。

藤井「この準決勝の対局を地元の東海大会で迎えられることをとても嬉しく思っています。大きな対局でもありますし、また地元の方に多く見ていただける機会にもなりますので、せいいっぱいがんばりたいと思っています。広瀬九段は終盤の切れ味が非常に鋭くて、また一局を通しての時間配分にもとても長けているという印象を持っています。準決勝という大きな舞台での対局でもありますし、また、先ほどおこなわれた、こども大会も大変な熱戦だったというふうに聞いているので、それに負けないような熱戦が指せるように全力を尽くしたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします」

広瀬「決勝進出、もちろんできればしたいですけど。やっぱり、なんと言っても今日が非常に難敵といいましょうか。本当に山場と言ってもいいようなところなので。いまは決勝進出よりは、本局をどう指すかということで、考えてきました。(藤井JT杯覇者の)印象は、私よりも全然若いんですけれども、非常にしっかりしていて。普段は非常におとなしいんですけれども、盤上での指し手の厳しさとのギャップがものすごいなという、そういう印象です。本局はですね、藤井さんの地元の東海対局ということで。非常に、ちょっとやりにくいところもあるんですけれども(笑)。私のことを応援してくれている方も、多少はいると思いますので、そういった方々にしっかりと、恥ずかしくないような内容の将棋を指せればと思っています。どうぞよろしくお願いします」

 振り駒の結果、先手は広瀬九段。対局は予定の時刻からは大幅に遅くなり、17時16分に始まりました。戦型は互いに飛車先の歩を突き合う、相掛かりです。

 27手目、広瀬九段が横歩を取ったのに対して、藤井JT杯は端1筋を突いて反撃。一気に激しくなる順を含みにしたあと、局面はいったん落ち着き、駒組へと戻っていきます。

 64手目。藤井七冠は飛車を取られるのを承知で中段の歩を取り、踏み込んでいきます。本格的な戦いが始まり、一気に激しい展開になりました。

藤井「中盤、飛車と、金と桂の取り合いにいって、攻め合いになったんですけど。ちょっと、その判断がよくなくて。飛車をおろされた(広瀬九段が藤井陣に飛車を打った)ときに、よい対応がなくて。ちょっとこちらの攻めが細い形で、そのあたりから、全体としては少し厳しい感じになってしまったかなと思います」

広瀬「飛車と金桂の二枚換えという激しい展開になって。ただ、数手進んでみたらこちらがよくなってる気がしたんですけれども。

 藤井JT杯は小駒で広瀬玉に迫っていくものの、広瀬九段はうまくかわして優位に立ちます。

 しかし終盤、藤井JT杯は手段を尽くして粘ります。自陣で手を稼ぐ間に、広瀬陣の飛車を取り、その飛車を打ち込んで広瀬玉に迫る形を作ります。

広瀬「最後、やっぱりうまくプレッシャーかけられて」

 102手目。広瀬九段は自陣に香を打って詰めろを受けます。評価値の上では、ここでは逆転していました。

 しかしその次、藤井JT杯が成桂を寄った手がどうだったか。広瀬九段はさらに金を投入してしっかりと受け、ここでまた逆転となったようです。早指しの本棋戦らしい、スリリングなやり取りが見られた場面でした。

 再びリードを得た広瀬九段は、もう誤りません。きわどい最終盤を制し、最後は藤井玉を詰ませて、18時52分、137手で終局となりました。

 広瀬九段は2019年以来の決勝進出を決めました。


広瀬「本当に何とかギリギリ残してたっていうところなので。いや、本当に、やっぱり勝つのは大変だなと思いました」

 藤井JT杯覇者は過去3年、準優勝、優勝、優勝という戦績を重ねていましたが、今期は準決勝で敗退。大会3連覇はなりませんでした。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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