韓国で核武装論、日本が取るべき対応ートランプショックの余波
トランプ氏が米国大統領選を制したことの余波が、東アジアでの核武装論の台頭だ。韓国では、ここ最近、北朝鮮が相次いで「核実験」を行い「事実上の弾道ミサイル」の発射実験も行うなど、挑発的な行動を取っているため、与党国会議員やメディア関係から、「核武装が必要」との声が上がっていた。一時は「日本や韓国の核武装を容認する」としていたトランプ氏が次期米国大統領になることで、韓国の核武装論はさらに後押しされ、日本側でも保守系メディアや政治家にも「核武装論」が飛び火する恐れがある。こうした不透明な情勢の中で、被爆国としての日本の核廃絶の本気度も問われる。
◯韓国で盛り上がる「核武装論」
トランプ氏は、大統領選中、日本や韓国は米軍基地負担を増額すべきだとし、それが認められないなら、米軍は東アジアから撤退すべきだと主張。さらに、今年3月に米紙ニューヨークタイムズのインタビューや米大手放送ネットワークCNN主催の討論会などで、日本や韓国の核武装を容認する考えを示した。こうしたトランプ氏の主張は、今年1月に北朝鮮が4回目の「核実験」を行ってから活発化している、韓国での核武装論を弾みをつけた。
与党セヌリ党の国会議員の一部や韓国の新聞などが「韓国は核武装すべき」と主張。今年9月には、韓国の与党セヌリ党を中心とする議員グループが「可能な限り全ての核武装の実用化策を議論しなければならない」と声明を発表(関連情報)。今年10月の韓国ギャラップの世論調査でも、「核武装に賛成」が58%と、「反対」の34%を大きく上回った(関連情報)。大統領選後、トランプ氏は日本や韓国の核武装容認について「言ったことがない」と前言撤回したが、一部の韓国メディアはこれに反発。韓国で最大部数を誇る日刊紙「朝鮮日報」は、「核武装が困難だとしても、少なくとも使用済み核燃料の再処理やウラン濃縮の権利は認められるべき」との専門家らの見解を報じた。つまり、いつでも核武装できる状態にして置くべきだということである(関連情報)。
こうした、核兵器製造能力を有する国、事実上の核保有国になろうとしている韓国がモデルとしているのは、実は日本なのである。かねてから、日本が高純度のプルトニウムを大量に所有していることは、国際的に問題視されてきた。上記の朝鮮日報の記事も「日本は有事になれば6000発の核弾頭を作れる」として、米韓原子力協定の見直しに言及している。
〇核武装を全否定しない日本
だが、韓国が実際に核兵器製造へと舵をきれば、日本の保守系メディアや政治家の一部は警戒感をあらわにするだろう。最悪なのは、韓国の核武装論に煽られ、日本でも核武装論が持ち上がることだ。ことあるごとに「唯一の被爆国」「核廃絶を目指す」と強調し、非核三原則も持つ日本ではあるが、核兵器を全否定していない面もある。1978年の政府統一見解では「自衛の範囲ならば核兵器を保有することは違憲ではない」としており、つい最近でも、今年4月1日に安倍政権は「憲法第九条は、一切の核兵器の保有及び使用をおよそ禁止しているわけではないと解される」という答弁書を閣議決定している。また、先月末、国連総会第1委員会で、「核兵器禁止条約」制定交渉開始が決議された際も、日本は決議案に反対し、核廃絶を目指す各国の交渉団やNGOなどからは、失望の声が上がった。
〇引きずられず、核廃絶に取り組むべき
そもそも、北朝鮮が挑発的な行動を繰り返すことが悪いのだが、これに韓国が乗ってしまい、また日本もそれに引きずられた場合、結果として東アジアの情勢は非常に緊迫したものとなる。韓国では政府自体は、セヌル党内の核武装論を否定してきたし、野党も「現実性のない危険な主張」と批判している。日本にとっても、北朝鮮が想定しているのは、同国にとって最大の脅威である米国であり、日本は今のところ最優先の攻撃対象ではない(関連記事)。海外の人々と話していると、やはり『ヒロシマ、ナガサキ』は普遍的な人類の悲劇として受け取られている。来年から、「核兵器禁止条約」制定の交渉が開始されるが、日本としては、韓国にも呼び掛けて積極的にこれに取り組み、口先だけでなく本当に核廃絶に取り組むべきだろう。
(了)