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滅びつつある風景と人の営みを前にして考えたこと。そして主演女優にプロデューサーをお願いした訳

水上賢治映画ライター
「雨の方舟」の瀬浪歌央監督  筆者撮影

 まったく別世界にも思えるけど、なんだか懐かしい。人類が脈々と受け継いできたことと、確実に変わりゆくもの。この世にも思えれば、あの世にも感じられる。そんな不思議な感触が残るのが、瀬浪歌央監督の初長編映画「雨の方舟」といっていいかもしれない。

 降りしきる雨の中、森をさまよい、行き倒れた主人公・塔子が、4人の男女が共同生活を送る家にたどり着いたところから、ある種のサバイバルであり、ある種の人間の営みのドラマが展開していく本作は、いったいどういった思考から生まれたのか?瀬浪監督に訊く。(全四回)

地元のみなさんの飾り気のない言葉や表情は、

テーマの『滅びゆく文化』をまさに、映し出しているものではないか

 前回(第一回)の最後で、瀬浪監督は本作について「自分としてはレイヤーを重ねているので、いろいろと自由に解釈してもらえればいい」と語り、「ひとつのジャンルにとらわれない作品になれば」との思いがあることを明かした。

 その結果、先でも触れたようにリアルな現代劇にもなにやら怪しげで神隠しにあったような幻想物語、ミステリーにも思える不思議なストーリーが展開していく。

 ただ、おもしろいのが、そこにほぼドキュメンタリーといっていい、過疎化が進むとともに高齢化も進む現地で暮らしてきた地元の人々の営みや生活風景がふと入りこんでくる。

 この斬新な試みについては、こう語る。

「前回触れたように、わたしの中でひとつのテーマとして『滅びゆく文化』がありました。

 このことをどうすれば表現できるのかをいろいろと考えたんですけど、そのひとつとして現代の人々の心の在り様をいくつかの階層に分けて自分なりに表現できないかと思いました。

 わたしが描いたイメージで言うと、下層は自分の普段生きている世界といいますか。

 対して、上層はいわば一時避難所。その人がこれまでの人生において蓄積してきたことと向き合う層で、なにかあったときに逃げられる場所というか。

 抱えているものに耐えられなくなったとき、現実逃避できる場所であったり、なにか壁にぶちあたったとき、考える時間を与えてくれるところでもあったりする。

 この上層と下層の中間層に位置しているのが、わたしは祖母や祖父たちの世界ではないないかと。

 この層には、続く世代が受け継がないといけない大切なものがたくさんある。

 大事な教えや心があるのだけれども、普段わたしたちがなかなか気づけなくて、見えているようでみえていない。でも、ある瞬間に、その大切さに気づいたりする。あとあとになって、その意味がわかってくる。そういうものがいっぱいある。

 このような3層の構造を意識して現代の人々の心の在り様をうまく表現できないかと考えてました。

 たとえば、『戦争』ということについて、現在の自分とのかかわりから、中間層の上の世代の経験を通過させて、最後に下層の過去へとたどり着くことで、しっかりひとつの事柄として定着させることができるのではないか? そんなことを考えました。

 お年を召した地元の方々のありのままの日常風景や日常の会話のシーンについては、そういう発想が出発点にあります。

 地元のみなさんの飾り気のない言葉や表情が、わたしたちになにかを気づかせてくれるところがあるような気がしています。

 テーマの『滅びゆく文化』をまさに、映し出しているものではないかと考えています」

「雨の方舟」より
「雨の方舟」より

撮影した山里はいま、残しておかないとなくなってしまう風景になりつつある

 舞台となる場所は、もともと知っていた土地だったという。

「岡山県なんですけど、もともと知っていました。

 もう作品を見てもらえればわかると思うのですが、山あいの村をイメージするとなんとなく思い浮かぶような、なんとものどかな美しい棚田と山の風景が広がっている。

 ただ、現実問題としてこの地を離れる人も増え、同時に農地を手放す人もどんどん触れている。棚田もどんどん減っていて、耕作放棄地がどんどん増えてきている。

 SNSではきれいなところだけをうまく切り取って写真がアップされているので、そんな感じにはみえない。だから、『いってみたい!』と思うかもしれない。

 でも、実際にみると、放置された田んぼが目に入ってくる。

 滅び始めている現実がある。いま、残しておかないとなくなってしまう風景になりつつある。

 テーマの『滅びゆく文化』にもつながりますし、わたしとしても知っている場所であったので、『いまきちんと映像に残しておきたい』という気持ちがありました。

 同時に、ここで暮らす人々のことも映画に刻んでおきたかった。

 そこで、『この場所でこの作品(『雨の方舟』)を撮りたい』と思いました」

プロデューサーは主演も兼務する大塚菜々穂!

 実際の出演交渉や撮影許可は、主演女優でもある大塚菜々穂が務めたという。

「大塚は大学の同期なんですけど女優志望で、プロデューサー志望ではなかったんです。

 ただ、卒業制作作品の決まりで必ず、プロデューサーを自分以外の人間に依頼しなくてはならなかった。

 で、わたしの中で、頼めるのは大塚しかいなかったんです。

 誰よりもわたしのことをわかってくれていて、わたしの言葉を託せる、わたしの気持ちを代弁してくれる存在だったので、彼女以外は考えられなかった。

 半ば強制的にお願いしたんですけど、すばらしいプロデューサーで、ここに登場する地元も出演者のみなさんは彼女が一人で探しにいって、見つけ出してきてくれたみなさんです」

(※第三回に続く)

【「雨の方舟」瀬浪歌央監督第一回インタビューはこちら】

「雨の方舟」ポスタービジュアルより
「雨の方舟」ポスタービジュアルより

「雨の方舟」

監督・編集:瀬浪歌央

出演:大塚菜々穂 松㟢翔平 川島千京 上原優人 池田きくの 中田茉奈実

プロデューサー:大塚菜々穂 脚本:松本笑佳

撮影・照明:藤野昭輝 録音:植原美月 大森円華  

助監督:東祐作 中田侑杏 美術:村山侑紀奈 中原怜瑠  

衣装:柴田隼希 瀬戸さくら 大谷彪祐 音楽:瀬浪歌央 近藤晴香

タイトル・フライヤーデザイン:山岡奈々海

池袋シネマ・ロサにて8/12(金)まで連日20:45〜公開中。

場面写真およびポスタービジュアルは(C)2019年度京都造形芸術大学映画学科卒業制作瀬浪組

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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