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東大女子学生家賃補助、寄附で賄うべし

太田康広慶應義塾大学ビジネス・スクール教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

女子学生向けの住まい支援

東京大学が、2017年4月入学の、自宅からの通学が困難な女子学生に、好条件のマンションを100室用意して、最大で2年間、月3万円の家賃補助を実施すると発表した

これに対しては、賛否両論があるらしい。

東大が女子学生に「月3万」家賃補助 「男女逆なら大騒ぎするだろ」と異論

東京大学、女子学生のみ家賃補助導入も「差別だ!」と大炎上

反対意見としては、(1) 男女が逆だったら大騒ぎになるという男性差別を問題にするもの、(2) 国公立大学がこういう措置をすることを問題にするもの、(3) 所得制限付き、あるいは、成績上位者なら理解できるとするものが挙げられている。

一方、6年前に女子寮が閉鎖されたのでその代替措置だという見方もある。また、女子学生が今まで不利だったので、アファーマティブ・アクション(積極的是正措置)として女子学生を援助するべしという意見もある。 

東大女子学生家賃補助、何が悪い?

アファーマティブ・アクションとしても筋が悪い

個人的には、大学が優秀な学生を集めるために各種の施策をすることは結構なことだと思う。月3万円、最大2年間なので、1人あたり72万円である。1年間100人の補助をするとして直接経費3600万円、間接経費をかなり多めに見積もったとしても5000万円もあれば足りるだろう。経常収益が2400億円近い東京大学にとって、女子学生を集めるための施策としてはごくささやかなものである。

ただ、筋が悪い。

まず、住む場所まで特定した上で、受け取る3万円を住居代に使うことが強制されている。学生によっては、通学に多少時間がかかっても遠方に住み、代わりに書籍代・文房具代に36万円を使いたいというケースもあるだろう。36万円あれば、ノート型PCを購入したいという学生もいるに違いない。給付型奨学金36万円とすれば、自由度が拡がるのに、現物支給とするために、せっかくの予算がうまく活かされない。

国立大学がやるべきか

国立大学がこういう措置をすべきでないという議論にも一理ある。そもそも国立大学には、多額の運営費交付金が投入されている。

東京大学の運営費交付金は、2016年度は約800億円である。2016年5月現在、学部生数は約1万4000人、大学院生数は約1万3000人である。東大生1人あたり、1年間に約300万円の税金が投入されているということである。

もちろん、私立大学は私学助成金(私立大学等経常費補助金)を受け取っている。

早稲田大学の私学助成金は、2015年度は約90億円である。学部学生数は約4万4000人、大学院生は約9000人である。早大生1人あたり、1年間に約17万円の税金が投入されている。

また、慶應義塾大学の私学助成金は、2015年度約82億円である。学部学生数は通信教育も含めて約3万人、大学院生数は約5000人である。慶大生1人あたり、1年間に約23万円の税金が投入されている。

ざっくりとした計算だが、だいたい東大生は早慶の学生の15倍程度優遇されていることになる。

参考までに計算すると、経済的苦境にあり人事を凍結している新潟大学の運営費交付金は約160億円で、早慶の約2倍である。学生数は、学部が約1万人、大学院生が2000人程度である。新潟大生1人あたり、1年間に約130万円が投入されている。早慶の学生より、だいたい6倍から7倍優遇されているといえよう。

なお、学生1人あたりの公財政支出教育費は、日本は国際的にかなり見劣りする水準だが、国立大学にかぎるときわめて恵まれた水準にある。(やや古い統計だが2008年から2009年のデータでOECD諸国平均の2倍以上だという。もちろん、投入された税金が有効に使われて効果を上げているかどうかは別に検証が必要である。)

そして、東京大学の授業料は、法科大学院が年間80万4000円、それ以外は52万800円である。早稲田大学の授業料は、法学部の96万円から経営管理研究科(全日制1年)の278万4000円にわたっている。慶應義塾大学の授業料は、三田4学部が84万円から、経営管理研究科(EMBA)の310万円にわたる。かつてより小さくなったがまだまだ差は大きい。

新規の寄附募集と区分経理を

結論的には、税金が800億円投入されている会計から、遠方の女子学生に対してだけ住居費を年間36万円補助するというのは、バランスが悪いと筆者は考える。

もっとも、特定の条件を充たした学生だけが受給資格のある民間奨学金は多数ある。たとえば、薬学専攻の学生だけ、台東区に住む外国人学生だけ、岐阜県出身の学生だけが受給する資格のある奨学金が許されるのであれば、親元から通えない東京大学の1年次、2年次に在学する女子学生を対象とした奨学金があっても何の問題もない。

東京大学の2015年度の財務諸表を見ると、大学セグメントだけで約55億円の寄附金収益がある。女子学生家賃補助に5000万円前後使うとしても、寄附金収益の枠内にある。

ただ、こうした寄附金がどういう目的と使途で提供されているのかまではわからない。それに、運営費交付金があるおかげで、経常支出に一般目的の寄附金を回さなくて済んでいるという面もあるだろう。

ここは、やはり、女子学生家賃補助を目的とした寄附金を新しく募集し、税金が投入されている会計とは区分経理して、紛れのないかたちにしておく必要があるのではないか。女子学生家賃補助を目的とした寄附金が別勘定で管理されていれば、納税者の納得も得られるし、社会的批判にも晒されないだろう。運用利回りを0.5%としても、元金100億円の基金があれば、女子学生の家賃補助を永続的に回していける。あるいは、毎年5000万円の寄附を募ってもいい。

女子学生家賃補助のプレス・リリースの段階で、ここまでの配慮があるとよかったと考える。

慶應義塾大学ビジネス・スクール教授

1968年生まれ、慶應義塾大学経済学部卒業、東京大学より修士(経済学)、ニューヨーク州立大学経営学博士。カナダ・ヨーク大学ジョゼフ・E・アトキンソン教養・専門研究学部管理研究学科アシスタント・プロフェッサーを経て、2011年より現職。行政刷新会議事業仕分け仕分け人、行政改革推進会議歳出改革ワーキンググループ構成員(行政事業レビュー外部評価者)等を歴任。2012年から2014年まで会計検査院特別研究官。2012年から2018年までヨーロッパ会計学会アジア地区代表。日本経済会計学会常任理事。

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