都市対抗優勝へ、ドラフト「3度目の正直」へ。強肩強打の捕手・野口泰司(NTT東日本)が誓う恩返し
「自分というよりもチームの状態をまずは上げていかないといけません。都市対抗で優勝するために、チームでやっておかないといけない課題を潰しています」
社会人野球最高峰の大会である都市対抗の初戦(7月23日18時から対北海道ガス)を2週間後に控えた7月上旬に、主力選手の自覚たっぷりに意気込みを話したのは、NTT東日本の2年目の捕手・野口泰司(のぐち・たいし)だ。
愛知・栄徳高時代から強肩強打の捕手として注目され、名城大では侍ジャパン大学代表に選出され全国大会では豪快な本塁打を放った。だが、高校・大学とプロ志望届を提出するも、ドラフト会議では名前を呼ばれず悔し涙を流した。
心機一転、社会人野球の強豪・NTT東日本に進んだが昨年の出場は主に指名打者だった。昨年の野口について平野宏監督は「ブロッキングにしろ、スローイングにしろ、昨年は社会人野球の捕手として試合に出られるレベルではありませんでした」と正直に振り返る。
それが2年目となった今年、公式戦の多くで正捕手兼4番打者として活躍を続けている。4月にはJABA静岡大会では5試合中4試合に先発マスクを被ると、決勝を含む2試合で完封勝ちを収めるなど優勝に導いた。そして強豪チームが多く揃う都市対抗東京予選では、攻守に活躍し、チームは見事に第1代表に。昨年逃した都市対抗と日本選手権(JABA静岡大会優勝により)の出場権獲得に貢献している。
昨年から今年にかけて、いったいどんな変化があったのか。平野監督も野口も名前を挙げるのが上田祐介コーチの存在だ。常総学院、日本大、NTT東日本と強豪で活躍した、かつてのアマチュア球界屈指の名捕手で、野口にも様々な薫陶を授けた。
「小中学生が行うような基本・基礎の練習から作り上げてきました。送球に関しては本人の口からイップスという言葉も出たのですが、上田コーチが“技術の問題”と一蹴して、まずはそこを突き詰めてダメだったら精神面のアプローチをしようと伝えていました」と、平野監督は二人三脚の様子を振り返る。
上田コーチはその技術的課題として「スローイングの際の後ろ(テイクバック)が大きく、手が体から遠くなってしまうことに不安定さがありました」と分析。「ショートアーム気味にしてから、腕を伸ばして送球するよう、ネットに向けてひたすら練習していました」と、地道に取り組んだ。そこにフットワークのトレーニングやドリルも入れて、地肩の強さに頼っていた送球フォームを改善させることに成功した。
また、意識の面でも捕手としての素養も練習・試合中問わず指導を受け「指名打者として出場していた時も、上田さんの隣に自分から座っていって、試合の流れの作り方を教えてもらいました」と野口は上田コーチに感謝する。
そして、大卒2年目を迎えた今年はドラフト指名の対象となる解禁年だ。
「2年でプロに入るという思いでここに来ました。もちろんチームが勝つことが最優先ですが、その先にプロ野球というものがずっとブレずにあるので、行きたい気持ちしかありません」と意気込む。
1年目は周囲とのレベルの差を感じ「プロはもう厳しいかもしれないと思いました」と正直に打ち明けるが、2年目に自信を増しており「ここまで成長させてもらい感謝しかありません」と話す。だからこそ都市対抗は「走攻守すべてでチームに貢献したいです」と恩返しの場にするつもりだ。
壁に何度もぶつかりながらも乗り越えてきた逞しさも携え、大舞台で成長した姿を見せつけたい。