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【ドラフト2024】2年半のリハビリを乗り越えた不屈の大卒4年目左腕・片山皓心に吉報は届くか

高木遊スポーツライター
茨城・日立一高、桐蔭横浜大を経てHonda入社4年目の片山皓心(高木遊撮影)

「今の状態だったら早川よりイイよ」

 2024年のドラフト会議が行われる10月24日からさかのぼること約4年半。近づく春を前にあるスカウトは、後に楽天にドラフト1位指名され今や侍ジャパンの一員でもある早稲田大の早川隆久(現楽天)よりも高い評価の左腕として片山皓心の名を挙げていた。だが、そのすぐ後から世界は新型コロナ禍に見舞われ、春秋の全国大会出場は中止に。当時、桐蔭横浜大に所属し3年秋までの実績はリーグ戦1勝のみだった片山はアピールの場を失い、プロ志望届は提出せず社会人野球の強豪・Hondaに入社した。

「なんでプロ志望届を出さなかったんですか?」

 桐蔭横浜大の齊藤博久監督はドラフト会議後に行われた横浜市長杯(関東地区大学野球選手権)でスカウト複数人からそう言われたという。それもそのはず、片山はリーグ戦で6勝した勢いそのままに関東の強豪校を相手に4日間で3試合3完投でわずか5失点という快投を見せて優勝に貢献した。

新型コロナ禍によりその先に明治神宮大会は無かったが、桐蔭横浜大を横浜市長杯優勝に導いた4年生時の片山皓心。写真右は現西武の渡部健人(高木遊撮影)
新型コロナ禍によりその先に明治神宮大会は無かったが、桐蔭横浜大を横浜市長杯優勝に導いた4年生時の片山皓心。写真右は現西武の渡部健人(高木遊撮影)

 

 さらに入社してすぐのJABA東京スポニチ大会で無四球1失点完投の鮮烈社会人デビューを遂げると、東京オリンピックの関係で夏に行われていた日本選手権でも4試合中3試合に先発しチームの4強入りに貢献した。最速148キロの伸びのあるストレートや、キレの良い変化球に誰もが「来年はドラフト1位」の未来を描いた。

 

 だがその後に左肘を疲労骨折。2021年の12月から長いリハビリ生活が始まった。1回目の手術では離脱期間が少なくなるような手法をとったが、上手くいかずに2回目の手術を行った。

「2回目の手術をした時は“1年は投球ができない”と言われたので“また1年か・・・”とは思いました」と率直な思いを明かすがここで覚悟を決めた。

「2回も手術をさせてくれたチームに感謝していましたし、あがいてあがいて“自分からやめるのはやめよう”と思い、リハビリに専念しました」

 そして今、年齢は重ねドラフト会議の1週間後には26歳となるが、当時の投球を取り戻している。10月1日の秋季東京都企業大会では強豪・東京ガスを相手に7回4安打無失点と好投。NPB球団からも獲得の可能性を示す調査書も届いた。

 そんな状況ではあるが「入社した当初は“(大卒社会人選手の指名解禁となる)2年でプロに行くんだ”と思っていましたが、今はご縁だと思っています」と泰然自若としており、口から出るのは感謝の言葉ばかりだ。

「もちろん行きたいですが、復帰して半年。まずはチームの戦力になれるようにと思っています」

「会社の同じ部署の方々にはたくさん応援をしてもらっていて、オープン戦でも逐一結果を気にしてくれる方もいます」

 そして野球が再びできることになったことへの感謝も強く、まっすぐな目で「どの環境であれ、僕は野球できることが嬉しいんです」「息の長い選手になりたい。好きでやっている野球なんで」と言い切る。

 目標とする投手は「球速以上のストレート」を繰り出していた山本昌(元中日)の名を挙げ「野球の面白さは数字じゃないところだと思うので」と、野球愛の深さをさらに感じさせる。

 言ってみれば年齢というのも数字だ。そんなものは1つの目安でしかない。故障歴やもうすぐ26歳という年齢を考えれば、リスクを鑑みられてもおかしくはないが、長い年月を重ねたからこその人間力が、片山の投球に強さと深さを与えていることは間違いない。球団の英断や吉報を待ちたい。

スポーツライター

1988年10月19日生まれ、東京都出身。幼い頃から様々なスポーツ観戦に勤しみ、東洋大学社会学部卒業後、ライター活動を開始。大学野球を中心に、中学野球、高校野球などのアマチュア野球を主に取材。スポーツナビ、BASEBALL GATE、webスポルティーバ、『野球太郎』『中学野球太郎』『ホームラン』、文春野球コラム、侍ジャパンオフィシャルサイトなどに寄稿している。書籍『ライバル 高校野球 切磋琢磨する名将の戦術と指導論』では茨城編(常総学院×霞ヶ浦×明秀日立…佐々木力×高橋祐二×金沢成奉)を担当。趣味は取材先近くの美味しいものを食べること(特にラーメン)。

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