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ソニーがゲーム事業で900人削減 過去最高の売上高予想もなぜ?

河村鳴紘サブカル専門ライター
PS5の四半期ごとの出荷数を示したグラフ=ソニー第3四半期決算資料より

 ソニーグループの子会社で、ゲーム事業を手掛けるソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が、世界中の社員の8%にあたる約900人の人員削減計画を発表しました。なぜこのタイミングでリストラ(人員削減)に踏み切ったのか背景を考えてみます。

 実は発表された今回のリストラは、不思議なことがあります。今年度のゲーム事業の通期業績予想ですが、売上高が4兆1500億円と過去最高の見通し。営業利益の2700億円は、過去の業績・営業利益率で物足りない面があるものの、前年同期比ではアップしています。そして、ここ数年は多くのゲームスタジオを積極的に買収をするなど、むしろ投資に力を入れていました。

 ゲームは、他のビジネスと比較して、業績の振れ幅が大きい性質があります。そのため、業績が落ち込むときの予兆を徹底的に注視していた……のはその通りでしょう。新型コロナウイルスの「巣ごもり需要」で、ゲーム事業は恩恵を受けていたものの、近年の好調な決算発表では浮かれる様子は感じられませんでした。そして巨額で買収した米ゲーム会社「バンジー」でも、リストラを実施することを明かしていました。

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 要するに、ゲーム事業は巨額の収益を稼ぐグループの“要石”なのですが、裏返せばPS3の苦戦時のように不調時にはウイークポイントになりえるわけです。ゲーム事業は、数年かけてゲーム機の普及がピークを迎え、その後は下り坂になります。そして企業買収をすれば、シナジーをより強力に発揮できるよう、企業の再構築が必要なのも確かです。

 そして、ゲーム事業の指揮を執っていたジム・ライアン社長が3月に退任することが発表されています。人員削減はその性質上、多くの人から恨まれる側面があるわけですが、退任する責任者が大ナタを振るのですから、結果として都合の良い構図になっています。今回の発表文では、社内の通達メールを公開していますが、そもそも「なぜわざわざ公開したのか」ということです。

 むろん厳しい決定の理解を求めているわけですが、誰もが分かるほどの危機を迎えたわけではなく、「構造改革は待ったなし」と言いづらい面があります。繰り返しますが、売上高予想は10年前の4倍になって過去最高の見通し。ゲーム機の年間出荷台数も2000万台の突破が見込めるのですから。

 そう考えたときに、ソニーグループがPS5の年間出荷計画について、当初は2500万台に設定したことが気になるわけです。

 ゲームビジネスで「ゲーム機の年間出荷台数」の“合格”ラインを考えたとき、ポイントになる数字は「2000万台」です。2500万台は社会的ブームになった任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」の全盛期に匹敵します。

 最初に高い目標を掲げて、大幅な下方修正をすれば、構造改革に“説得力”が出てくるのです。そう言えば、2年前の中期計画でも強気でした。高い目標を立てて、その進捗が今一つであれば、やはり構造改革をする理由にできるでしょう。

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 ソニーのゲーム事業は、任天堂と比べると営業利益率がかなり低いのは確かですが、ここ数年で複数のゲーム開発会社を買収しているのですから、利益うんぬんを問うには時期尚早と言えます。今回のリストラの発表で、売上高の規模を大きくしたうえで、大規模な再構築を図り、さらなる高収益化の体制づくりを図っている……と考えられるわけです。しかもこの手の発想は経営視点であり、クリエーターたちが納得するのかは別問題ではないでしょうか。

 もちろん、より高い利益を追い求めるのは、株式会社の宿命です。アップルやグーグルなどの強力な世界的企業がゲーム市場でのシェア拡大を狙っていることを考えると、ソニーも対抗するためにも強固な体制づくりも必要でしょうし、きれいごとだけでは済まないのがビジネスです。

 ですが一定の成果を出しているにもかかわらず、現時点でここまでの大規模なリストラをする必然性があるのか。戦国武将・武田信玄の言葉で、人材の重要性を説いた「人は城 人は石垣…」を思い出しながら、そんなことを考えてしまうのです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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