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透明な湯は物足りない? 温泉マニアが「濁り湯よりも透明湯を好む」理由

高橋一喜温泉ライター/編集者

乳白色に濁った美しい露天風呂、赤茶色の濃厚な濁り湯で満たされた湯船……。温泉情緒を醸し出す要素のひとつに、「濁り湯」がある。

温泉が濁り湯だとテンションが上がる、という人も多いだろう。

日本人の中には、「濁り湯=最高の温泉」と思っている人が少なくない。湯船の底が見えないほどに濁っている温泉ほど人気が高い。

その気持ちは、よくわかる。濁り湯のほうが貴重な存在であるのは確かだし、「温泉にやってきたぞ!」と気分も盛り上がる。

筆者も、本格的に温泉のことを知るまでは、濁り湯ばかり求めて温泉めぐりをしていた時期がある。まさに「濁り湯派」だった。

実際、ある温泉で湯浴みを楽しんでいたら、こんな出来事があった。友人同士と思われる2人の男性客が、こんな話を始めた。

「ここの温泉は、透明だな」

「ああ、濁っている湯のほうが好きなんだけど……」

「オレも。透明の湯だと、『温泉に入った!』という気分にならないし、ありがたみがないよな」

その気持ちはよくわかる。だが、これまで3800以上の温泉につかってきた筆者は現在、どちらかというと「透明湯派」である。

濁り湯も元々は透明

透明湯派に寝返ったきっかけは、「濁り湯のほとんどが、湧出時は透明である」という事実を知ったからだ。

濁り湯は最初から濁っているわけではなく、地中では透明湯である(モール泉など一部の温泉は除く)。

湧出時に空気に触れることで、温泉が酸化し、色を帯びる。つまり、濁っているということは、湯が劣化し、鮮度を失っている証拠と考えることもできるのだ。だから濁り湯であっても、鮮度の高い源泉ほど透明度が高く、濁りが薄い。

透明湯も個性豊か

また、さまざまな温泉をめぐる中で、「透明湯にもすばらしい名湯がたくさんある」ことを知ったのも、筆者が透明湯を見直した理由のひとつである。

ひと口に透明湯といっても、無個性な透明湯など、ひとつもない。よく見ると、わずかに色を帯びていたり、硫黄の香りがしたり、スベスベとした肌触りがあったり、それぞれに個性がある。そして、総じて濁り湯に比べてやさしい入浴感であるのも特徴だ。

透明だからといって、温泉に含まれている成分が少ないわけでもない。成分が濃くても透明な湯はあるし、濁り湯に比べて成分は少ない透明湯でも、入浴剤を入れた家の湯よりも多くの成分が含まれていることがほとんどだ。

もちろん、濁り湯の魅力が劣るというわけではない。温泉が濁るということは、温泉成分を豊富に含んでいる証拠であり、その分効能も期待できる。なにより日常では味わえない温泉情緒がある。濁り湯には濁り湯の良さがあるのだ。

だが一方で、シンプルで地味な透明湯にも個性があることを知っておくと、温泉の愉しみ方も変わるだろう。

みなさんは、濁り湯派だろうか。それとも透明湯派だろうか。ぜひ両方の湯を入り比べてみてほしい。

温泉ライター/編集者

温泉好きが高じて、会社を辞めて日本一周3016湯をめぐる旅を敢行。これまで入浴した温泉は3800超。ぬる湯とモール泉をこよなく愛する。気軽なひとり温泉旅(ソロ温泉)と温泉地でのワーケーションを好む。著書に『日本一周3016湯』『絶景温泉100』(幻冬舎)、『ソロ温泉』(インプレス)などがある。『マツコの知らない世界』(紅葉温泉の世界)のほか、『有吉ゼミ』『ヒルナンデス!』『マツコ&有吉かりそめ天国』『ミヤネ屋』などメディア出演多数。2021年に東京から札幌に移住。

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