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【世界史】麗しの令嬢が恐怖の女海賊に!フランス王国を震えあがらせた、もうひとりの“ジャンヌ”とは?

原田ゆきひろ歴史・文化ライター

「これは、アニメか映画の脚本ですか?」

世界史を見わたしていると、ときにそう感じるほど、信じがたい出来事を目にします。

そして今回ご紹介するジャンヌ・ベルヴィルも、まさに創作の物語にも劣らない、

あるいはそれ以上とも言える、激動の人生を歩んだ女性です。

ちなみに、フランス人で名が“ジャンヌ”といえば「ああ、ジャンヌ・ダルクですね?」。

そう思う方が大半かも知れませんが、彼女は別人であり、時代もズレています。

黒髪をなびかせ、さながら“妖精のような美貌”であったと、言い伝えに残されている、彼女。(※以下・ベルヴィル)

本来であれば華やかに、貴族社会で生をまっとうするはずが、兵を率いて戦場へ。

いったい彼女の人生に、何が起こったのでしょうか?

そして、どのような結末を迎えるのでしょうか?

夫に尽くす令嬢ベルヴィル

ときは1300年、日本でいうと鎌倉時代の頃。

ベルヴィルはフランス西部で、貴族の娘として生まれました。

彼女の一族はワインの製造やイングランドとの貿易で、多くの富を得ており

いわゆる“令嬢”として、かなり裕福な生活を送っていました。

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成人すると地方の有力者である男爵、オリヴィエという人物と結婚。

2人はともに愛し合い、仲睦まじい家庭を築いていたと伝わります。

ところが同時期にフランス王国VSイングランド王国の、世にいう“100年戦争”が勃発。

オリヴィエは両陣営から「われらに味方せよ!」と迫られますが、

故郷のフランス側につく決断をして、兵を率いて闘いに参加します。

しかし、とある局地戦で敗北し、オリヴィエは捕虜となってしまいます。

ベルヴィルは彼の解放を求め、イングランドと交渉。

すると保釈金を支払う条件で、身柄を解放してもらうことに成功しました。

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2人は、再会を喜び合います。

ここまでであれば、ある意味ハッピーエンドの人生が、待っていたかも知れません。

しかし・・。

裏切りの烙印

ところが、オリヴィエの解放がやけに上手く運んだことから、彼は

「さては貴様、イングランドと通じていたな!」という、疑いをかけられてしまいます。

オリヴィエは身柄を拘束され、パリに連行。

ベルヴィルは無実を訴え、必死に彼の解放に奔走しますが、まったく耳を貸されず。

そのままフランス王の指示によって、斬首されてしまいました。

しかも、その首は見せしめとして、城門の前にさらされたと言います。

・・彼女は怒りと悲しみのあまり、フランス王国への復讐を誓いました。

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これまで築いてきた資産を売り払い、約400人の兵を雇って、軍団を組織。

そして地元の一帯を治めていたフランス王国の城を急襲し、これを陥落させました。

ここから彼女は、今までと180度ちがう、女戦士としての人生を歩み始めます。

ブルターニュの雌獅子

とはいえ数百人の軍集団では、フランス軍とまともに闘い続けることは、とても敵いません。

ベルヴィルはかつての宿敵・イングランド王に忠誠を誓い、その庇護を受けることに成功しました。

そして、彼女は・・いったいどこで身に着けたのか、あるいは天性のものだったのでしょうか。卓越した闘いの才能を、持ち合わせていました。

ベルヴィルの軍は、敵軍を次々と撃破。その戦闘力は群を抜いており、フランス軍は

「ブルターニュの雌獅子」と呼び、彼女を恐れました。

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イングランド王はその報告を耳にして、言いました。

「ベルヴィル、なんと凛々しき女戦士。気に入ったぞ!」

そして、彼女をさらに活躍させるべく、軍船とさらなる兵員を、与えることにしました。

「次は海からフランス王国を脅かすが良い!それが、われらの勝利にも繋がろうぞ。」

恐怖の女海賊「黒髪のジャンヌ」

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ベルヴィルは活動拠点を、イングランド海域へ移すと

与えられた軍船の色を黒に塗り変え、帆を赤く染め「リベンジ号」と命名。

海上でフランス船を見つけると、容赦なく襲い掛かりました。

そして襲撃した船の乗員は、あえて数人は必ず生かして帰させ、

復讐のメッセージと、その恐怖の伝説が、フランス中に広まるように仕向けたと言います。

フランス人は、とくに航海に携わる人間は、女海賊へと転身した彼女を

「黒髪のジャンヌ」。あるいは「復讐の女神」と呼び、たいへん恐れました。

しかし一方では、彼女の境遇に同情し、女性の身ながら夫の無念を晴らすべく闘う彼女を

密かに尊敬する人々もいたそうです。

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しかし航路を襲撃されては、とうぜんフランス全体の経済や補給に、大ダメージ。

彼女の海賊活動は10年以上にも及んだと言いますが、

事態を重く見たフランス海軍は、ついに総力をあげベルヴィル討伐を決断。

とある海域で両軍は激突しますが、さすがのベルヴィルもフランス正規軍には及ばす。

決戦で敗北してしまいます。

ともに戦っていた2人の子どものうち、1人が死亡。

そして、もう1人は行方不明になりました。

リベンジ号も沈没したか、あるいは鹵獲されたのか?

状況も分からないまま、彼女は5日もの間、失意のうちに海を漂流します。

何より艦船や兵を失っては、いかにベルヴィルといえど、戦いの続行も敵わず。

長きにわたる女海賊の闘いは、ここに終わりを告げたのでした。

もういちど1人の母に

命からがらではありますが、何とかイングランド軍の拠点へ帰還した、ベルヴィル。

敗北したとはいえ、イングランド王は彼女の戦功を認め、財産を与えました。

軍船と子どもを失い、ベルヴィルの中で何かが切れたのか、あるいは心境の変化か?

以降、彼女はいっさいの戦いから退き、復讐の道に別れを告げました。

やがてイングランド王の側近とも言える、上級将校と再婚し、家庭を築きます。

さながら、かつてオリヴィエと暮らしていた、裕福な貴族生活にも劣らない

裕福な暮らしへ戻ったのです。

かつて守りたかった故郷とは真逆の地で、戦士から1人の母親へ。

その胸中は、幸せを噛みしめていたでしょうか?それとも、複雑だったでしょうか?

彼女以外の誰にも分かりませんが、戦場の日々に比べれば、はるかに穏やかな晩年で

人生の幕を閉じたことは、間違いなさそうです。

事実は小説よりも・・

なお海戦で行方不明になったベルヴィルの息子の1人は、紆余曲折を経て、

再びフランス王国に仕えていました。

オリヴィエを処刑した国王は死去していましたが、その後継の国王から実力を認められ

高い地位にまで昇りつめたと言います。

何とも数奇な運命であり、ベルヴィルの生き様と合わせ、創作の物語も顔負けの

激動の人生です。

もちろん現代の視点で見れば、ベルヴィルは復讐のため多くの血を流し

海賊時代は「罪のない人々」が乗った商船も、容赦なく襲いました。

すべてを美談にしてはいけないかも知れませんが、当時は戦乱の時代です。

そして夫が処刑をされた怒りには「ムリもない」と共感できる側面は、否めません。

ジャンヌ・ダルクより知名度は劣りますが、世を動かす殆どが男性であった時代に

強く、凛々しく、一歩もゆずらない意志を貫いた女性として

ジャンヌ・ベルヴィルの伝説は、これからも語り継がれて行くに違いありません。

歴史・文化ライター

■東京都在住■文化・歴史ライター/取材記者■社会福祉士■古今東西のあらゆる人・モノ・コトを読み解き、分かりやすい表現で書き綴る。趣味は環境音や、世界中の音楽データを集めて聴くこと。■著書『アマゾン川が教えてくれた人生を面白く過ごすための10の人生観』

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