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【NHL】舞台はセントルイスへ! ”チームとともに19年間戦い続けてきた男”へ勝利を捧げられるのか?

加藤じろうフリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家
チャールズ・グレン(Courtesy:@Palazzola_RTN)

 NHLのスタンレーカップファイナル(以下SCF)は、ボストンでの第1戦第2戦を終えて1勝1敗。

 昨日(現地時間)の移動日を挟んで、今日からはセントルイス ブルースのホームアリーナのエンタープライズ センターに舞台を移して、第3戦と第4戦が開催されます。

▼ファイナル初勝利を手土産に凱旋!

 SCF第1戦が始まる前に紹介したとおり、セントルイスは、チーム創設以来SCFへ3度勝ち進みながら、一つの白星も手にすることができずにスウィープ負けを喫していました

 しかし、第2戦でオーバータイム(OT)に及ぶ試合を制し、創設51季目(通算14試合目)にして、SCF初勝利!

 ようやく頂上決戦で手にした白星を手土産に、セントルイスへ凱旋しました。

▼得点王とルーキー守護神が大活躍!

 「(敵地で)一つ勝てたことは、とても大きな意味を持つだろう」 

 OTの末に、ようやく壁を破ったあと、クレイグ・ベルービー ヘッドコーチ(HC)は、こんな本音を口にしました。

 というのもボストンは、レギュラーシーズンのホームゲームで、タンパベイ ライトニングに次ぐ29勝を上げたチームとあって、敵地での1勝1敗は上出来と受け止めているに違いありません。

 

 選手に目を移すと、レギュラーシーズンでチームの得点王だったウラジミール・タラセンコ(FW・27歳)が、プレーオフではチーム史上2位タイとなる8試合連続ポイントをマークして好調をキープ。

 一方、守りでは2月の最優秀新人賞に輝いて以降、守護神の座を不動の物にしたジョーダン・ビニントン(GK・25歳)が安定した守りを続けているとあって、ベルービーHCは手応えを感じているはずです。

 

▼49季ぶりのファイナル開催!

 セントルイスがSCFを地元で開催するのは、1970年5月5日以来、実に「49季(17924日)ぶり」!

 現在のホームアリーナより西にある、セントルイスアリーナでホームゲームを行っていた頃まで、さかのぼらなくてはなりません。

 ”超”がつくほどのオールドファンたちは、今夜の第3戦を心待ちにしているに違いありませんが、ファン以外にも、この日が来るのを待ち続けていた人がいます。

 それは、チャールズ・グレンです(タイトル写真)!

▼セントルイスの国歌シンガー

 グレンはオペラ歌手の父から譲り受けた美声を披露してリサイタルを開いたり、自らもパーカッションを手にバンドを構成し、コンサートを催してきました。

 さらに、スーパーボウルを勝ち取った1999年のセントルイス ラムズ(NFL)をはじめ、地元スポーツチームの試合前に国歌シンガーを務め続けたとあって、ミズーリ州のスポーツファンなら、知らない人はいないほどの男。

 セントルイス ブルースの試合でも、アメリカ(と対戦チームによってはカナダも)国歌を独唱して、ファンを魅了してきました。

▼病魔に襲われる

 ところが、病魔がグレンを襲いました。「多発性硬化症」です。

 脳や脊髄に加えて視神経などに炎症が起こり、視覚障害や感覚の低下など、様々な神経症状を繰り返しながら進行していく病気で、日本では「難病」に指定されています。

 病魔に襲われたグレンは、国歌シンガーを務められなくなり、自ら後任を探してオーディションを開いたほどでした。

 しかし、ブルースファンをはじめとする、セントルイスのスポーツファンから、「早く復帰して!」との声が多数届き、グレンは投薬などの治療をしながら、再び国歌シンガーとして復帰を遂げました。

▼引退宣言

 とは言え、グレンの体から、病魔が全て消え去ったわけではなかったようです。

 レギュラーシーズン中に、「今季をもって、この役目を終えることにしたい」と引退宣言。

 すると、長年にわたって声で魅了し、チームにエールを送り続けたグレンの花道を飾ろうとばかりに、セントルイスは49季ぶりのファイナルへ勝ち進み、初めてのスタンレーカップ獲得を目指して戦い続けています。

▼「彼もチームの一員だ」

 グレンのストーリーを紹介しようと、現地のメディアがセントルイスのキャプテンのアレックス・ピエトランジェロ(DF・29歳)に尋ねたところ、こう答え返したそうです。

「彼もチームの一員だ」

 その言葉を表すかのように、レギュラーシーズン最後のホームゲームの際に、セントルイスのダグ・アームストロング社長兼GMは、国歌を歌い続けて来た年数と同じ「19」の背番号の入ったチームジャージを手渡し、長きにわたるグレンの功績を称えました。

▼ともに19年間戦い続けてきた男へ勝利を捧げられるのか?

 今季のプレーオフも、セントルイスで行われたカンファレンス クォーターファイナル(1stラウンド)第3戦から、10試合で華麗で力強い歌声を披露してきたグレン。

 彼に残されたステージは、多くても「あと3試合」。

 

 セントルイスの選手たちは、”チームとともに19年間戦い続けてきた男”へ勝利を捧げられるのか?

 そして、最高の結果を残して、グレンの花道を飾ることができるでしょうか?

チャールズ・グレン(Courtesy:@stlmag)
チャールズ・グレン(Courtesy:@stlmag)

 

フリーランススポーツアナウンサー、ライター、放送作家

アイスホッケーをメインに、野球、バスケットボールなど、国内外のスポーツ20競技以上の実況を、20年以上にわたって務めるフリーランスアナウンサー。なかでもアイスホッケーやパラアイスホッケー(アイススレッジホッケー)では、公式大会のオフィシャルアナウンサーも担当。また、NHL全チームのホームゲームに足を運んで、取材をした経歴を誇る。ライターとしても、1998年から日本リーグ、アジアリーグの公式プログラムに寄稿するなど、アイスホッケーの魅力を伝え続ける。人呼んで、氷上の格闘技の「語りべ」 

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