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「抗原検査・N95マスク・換気」によって安全にライブコンサートが開催された、というスペインからの報告

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

新型コロナは3密の環境で広がりやすいため、ライブコンサートは感染リスクが高いとされています。

スペインから、抗原検査・N95マスク装着・換気を徹底することで安全にライブコンサートを開催できた、という研究が発表されたのでご紹介します。

ライブコンサートはまさに「3密」の環境

環境による新型コロナの感染しやすさの違い(BMJ 2020;370:m3223)
環境による新型コロナの感染しやすさの違い(BMJ 2020;370:m3223)

新型コロナが広がりやすい環境は、

・換気の悪い密閉空間

・大人数が集まる密集場所

・間近で会話や発声をする密接場所

の、いわゆる3密環境であることが分かっています。

3つが重ならなければ良い、というわけではなく、1つでも密があれば感染するリスクは生じます。

ライブコンサートはこの3密に当てはまる環境であり、国内でも過去にライブハウスでクラスターが発生したことがあります。

こうした大規模な集客イベントにおいて新型コロナを制御することが難しい要因の1つは、新型コロナに感染し周囲に広げている人、特に無症状の感染者を特定することが困難なためです。

このため、コロナ禍ではライブコンサートの開催についても中止や延期、規模の縮小、オンライン配信などを余儀なくされていますが、スペインから安全にライブコンサートを開催するための方法を検証した臨床研究が発表されました。

抗原検査・N95マスク装着・換気を徹底したライブコンサート

ライブコンサートの安全性を評価したスペインの研究のデザイン(https://doi.org/10.1016/S1473-3099(21)00268-1)
ライブコンサートの安全性を評価したスペインの研究のデザイン(https://doi.org/10.1016/S1473-3099(21)00268-1)

この研究は、Sala Apoloというスペインのバルセロナにあるライブハウスで実施されました(ちなみにこんな感じのところです)。

2020年12月に実施されていますので、新型コロナワクチン接種者はまだいない頃です。

この研究では、

・抗原検査

・N95マスク装着

・換気

を徹底しているところが特徴です。

ライブコンサートに参加したい人を募り、ライブ当日に抗原検査をします。

抗原陽性であった人はここで研究から除外されます。

抗原検査はPCR検査に比べて感度が低いため、不適切ではないか、と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、抗原検査は感染性のある時期においては十分な感度を有するという知見が集まりつつあります。

抗原が陰性であった人は、ランダムに「コンサートに参加する人」と「コンサートに参加しない人」とに割り付けられます。

コンサートに参加することになった人はN95マスク装着を義務付けられますが、人との距離には制限を設けなかったとのことです(900人キャパの会場に523人が参加)。

歌ったり踊ったりもOK、ということです。

ライブコンサートは5時間にわたって行われ、2つのDJセッションと2つのライブミュージックアクトの4つのパフォーマンスが行われました。

イベント中はすべての出入り口のドアが開いており、中庭からの常に新鮮な空気が取り入れられる状態であったとのことです。

結果ですが、ライブコンサートに参加し検査結果が追跡できた465人に8日後に核酸検査(ここではTMAという核酸検査が用いられています)が行われたところ、陽性者はおらず、一方ライブコンサートに参加せずに帰った495人のうち2人が8日後に陽性となりました。

ということで、おそらくこのライブコンサートで感染したと考えられる人はおらず、筆者らは「同日の抗原検査」「N95マスク装着の義務化」「換気の徹底」によって安全に実施できた、と結論づけています。

日本でもこの結果を適用できるか?

また、参加者が全員抗原検査を実施する、というのはコスト面でもハードルが高く、N95マスクをライブ中ずっと着けているというのもなかなかつらいものがあります。

しかし、そこまでやれば感染リスクを抑えることができる、ということが分かったことには大きな意義があります。

さて、この結果を受けて、日本でも安全にライブコンサートは開催可能でしょうか?

スペインの研究をそのまま日本に当てはめると危険かもしれません。

そのときの流行状況、会場の規模や集客人数によって結果は異なる可能性があります。

この研究が行われた2020年12月のスペインでは感染者が1日当たり7000人くらいの患者が発生しているといった流行状況でしたので、今の日本よりも感染者が多い環境ではあります。

ただし、この時点ではスペインではイギリス型の変異株が広がっている状況ではなかったことから、変異株の影響については考慮されていません。

一方で、ワクチン接種が進めば、より安全にライブコンサートが実施できるようになる可能性もあるでしょう。

ライブコンサートは新型コロナの感染リスクが高いとされている一方で、イベントの中止は経済的にも文化的にも損失が大きいことから、こうした安全に大規模な集客イベントを開催することを模索する研究は非常に重要です。

私自身も早く前野健太さんやくるりのライブコンサートに行ける日が来ることを願っています。

※本記事は緊急事態宣言下のライブコンサート参加を勧めるものではありません。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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