カタルーニャが独立したらEU(欧州連合)に残れるのか 議論を予測してみる
「EUを脱退なんてしていません」
どんなに分離しようと独立しようと、EUに入っていれば問題はほとんどおきない。
いや、スペインに残っているよりも、独立してEU加盟国になるほうがずっと得だーー
だからこそ、カタルーニャは近年独立運動を活発化させてきたし、独立したらEU加盟は必須になる。
もしEUに残れる保証があるのなら、カタルーニャはすぐにでも独立するに違いない。マドリッドなんて完全に無視だ。
しかし、EUは当面は静観する構えを崩さないだろう。
たとえユンケル(ユンカー)委員長が、EU連邦主義者で、カタルーニャの独立に反感や悪意は抱いていないとしても、だ。
それでも独立宣言したら、EUとはどういう議論が起きるのか、予測してみた。
まず、カタルーニャのようなケースを定めたEUの法律はあるのか。
ずばり、ない。
ラテン語でいうところの「sui generis」(独自の)である。
こんなことが起きるなんて、法律をつくったときは、誰も想定していなかったのだ。
実はこれには、前例の議論がある。スコットランドである。
結局は独立投票の結果、独立はしなかったが、結果前に「独立したらEUに残れるのか」を大いに議論していたのだ。
一般では当然、「新しい国なのだから、新規にEU加盟を申請する国となる」と思われていたのだが・・・。
スコットランド独立派の言い分を平たく言うと。
「え、いつEU脱退しましたっけ。分離独立するだけですよ。1973年に英国がEU加盟してから、ずっとEUにいますよ。これからもね。新規加盟? 何のことですか」である。
もしカタルーニャが独立宣言をするのなら、必ず同じ主張をすると、筆者は確信している。
というよりも、もうスペイン、カタルーニャ、ブリュッセル、EU加盟国首脳・外交官とは、見えないところで議論されているに違いない。
もっときちんとした言い方で言うと。
「スコットランドは既に1973年に英国として加盟しているのだから、新規加盟についての49条はあてはまらないし、自発的な脱退についての50条もあてはまらない。48条の改正を適用するべきだ」である。
関係してくる法律は、主に3つある。
ブレグジット(英国のEU離脱)で、そこそこ知られるようになった法律だ。
リスボン条約の48条、49条、50条である。
これを大ざっぱにいうと―――。
49条とは国が新しく加盟したい場合についての条文。
50条は自発的な脱退についての条文で、一度脱退した国が再び加盟したい場合は49条を適用するべしとある。
48条は条約改正についての条文である。
世の中では、50条(脱退)→49条(新しく加盟)だと思われていたのだが・・・。
もし条約を改正するとしたら
当時スコットランド独立派が主張していた「48条の条約改正を適用しろ」という48条であるが。
要するに、48条を使ってリスボン条約を改正して、自分たちがEUに残れるようにしてほしい、ということである。
さらに言えば、48条の改正については、通常の改正と、簡易改正がある。
当時、独立派は「通常改正がスコットランドに適している」と述べていた。
この二つはどう違うのか。ちょっとややこしい話になってしまうが説明したい。
通常改正という方法の良いところは、政治的に賛成派が強力であれば、案が通る可能性があるということだ。
EU機関と加盟各国の主要人物が集まって、ひたすら話し合うやり方だ。
実際に何をやるかというと、諮問会議(国内議会、加盟国の政府首脳、欧州議会と委員会の各代表)と、「共通の合意」により決定を行う政府間会議開催が必要になる(後者だけでもいいケースもある)。かなりめんどくさそうだ。
これに対して簡易改正をとると、「欧州理事会の全会一致」が必要になる。
「ぐちゃぐちゃ言う連中を無視して、国の首脳が全員okしさえすれば大丈夫」とも言えるやり方である。
ただし、1カ国でも反対する国があると、通らなくなってしまう。全会一致というのは、なかなか難しい。
スコットランドの場合、もし独立派が勝利していても、当然英国が反対するから、ダメになってしまっただろう。カタルーニャの場合は、スペインである。
分離独立なら前例がある
では次に、「分離独立した」ということを、どう考えればいいのか。
分離というのなら、バルト3国はソ連からの分離だ。さらに、チェコスロバキアは2カ国に分離したし、スロベニアとクロアチアはユーゴスラビアから分離した(今後、旧ユーゴスラビアの国々は、全部ではないが、加盟してゆく方向になっている)。それでも、これらの国は加盟できている。なぜカタルーニャはダメだというのか。
スコットランド独立問題があった当時、欧州委員会は、スコットランドは「新国家」なのだから、50条の適用という認識だったという。欧州連合は、国単位で加盟がなされるのであって、領域・領土によってはかられる組織ではない、と。
しかし、「脱退なんてしません、そのまま残るんです」という論理になると・・・。
裁判ということになれば、267条の「条約の解釈」という問題になってしまうという。さらにややこしくなるので、今回はここは省略。
欧州委員会のユンケル委員長は9月14日、カタルーニャ州が独立した場合、EUに加盟するためには申請手続きが必要になるとし、その規則はあらゆる新国家に適用されると述べた。
しかしこれは法律ではない。少なくとも今は。
カタルーニャが本当に裁判を起こせば、どうなるのか。
たとえ欧州委員会が何を言おうと、加盟国の首脳たちが、独立運動の波が自分の国に来るのを恐れて強硬に反対したとしても、裁判を起こすのをとめることはできないのではないか。
勝算は極めて低いが、やってやれないことはない。
裁判を起こせば、あからさまに「権力で司法を踏みにじる」なんてできないし、時間もかかるし、大議論になるだろう。
普段はEUなんて関心のない人々でも、こういう問題には敏感だから、どういう世論が幅をきかせるか、予測は難しい。
そのような混乱が起きる前に、政治的決着をはかろうと、すでに動いているに違いない。
ああ、大きく時代を見た場合、EUの巻き返しが始まったなあと思う。
ブレグジットや難民問題でだいぶEUは傷つき、大試練にみまわれたが、今、大きく乗り越えようとしているのかもしれない。
カタルーニャが独立運動を再燃させたのは、欧州に(一応は)平和が戻ってきたからなのだ、と思う。
散々「ブレグジット」だ、「ドミノ現象で脱退があいつぐ」などとマスコミは煽ってきたが、なーんにも起こらなかった。
「出たい」じゃなくて、今度は「残りたい」でもめている。
EUの試練は終わりそうにない。
なぜ今、この問題が起きたのか。
上記のことも含めて、次項に改めたいと思います。