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若トラたちを見守り続けた「虎の穴」、ラストシーズンも大盛況

阿佐智ベースボールジャーナリスト

 阪神が連覇に向けて首位を走っている。今や世界にもその名を轟かせ、外国にもファンの多い人気球団だけに、昨年の日本一効果もあって、すでに今シーズンのチケットは平日の一部試合を除いて売り切れ状態だという。その人気はファームにまで及び、一軍の本拠、甲子園球場からもほど近い鳴尾浜のタイガース・デンは、入場困難な球場となっている。もともと、スタンドの収容が500人と小さいこともあって、近年は、入場できないファンが球場敷地外を取り囲むということも多々あったため、現在は、開場と同時に整理券を配布し、整理券がなくなった時点で「札止め」としている。その結果、若トラファンの間では、この整理券が「プラチナチケット」となっているという。

阪神鳴尾浜球場の歴史

 阪神タイガースは親会社の電鉄会社の車庫の跡地に建設された浜田球場を1979年から二軍の本拠地として使用していた。この時代、二軍の球場などというものは、「練習場」の域を超えることはなく、あの巨人でさえ、多摩川の河川敷グラウンドを使用していた。この浜田球場もファンの観戦を想定したものではなく、スタンドもない、まさに「グラウンド」だった。

 NPB全体として、二軍にもファンの観戦を念頭においた専用「スタジアム」と呼べるものが用意され始めたのは、昭和も終わりに入りかけた頃のことだ。

 1986年シーズンから巨人が現在の二軍本拠、ジャイアンツ球場を使用するようになると、広島も山口県内の由宇球場を1993年から使用するようになった。このような流れの中、1994年10月に阪神電鉄はタイガースのファーム本拠、練習場として甲子園と同じ西宮市内の沿岸部に新球場を建設。1995年シーズンからここでウエスタン・リーグの公式戦を開催することにした。

正式にはスタンドは570人収容だが、ネット裏の多くの席はスコアラー、関係者用となっているため、ファンには500席しか用意されない。
正式にはスタンドは570人収容だが、ネット裏の多くの席はスコアラー、関係者用となっているため、ファンには500席しか用意されない。

 しかし、この当時、まだ、二軍の試合にファンが殺到するようなことはほとんどなく、おまけに当時は、タイガースは「暗黒時代」真っ只中。敷地の制限もあってか、鳴尾浜球場には500人収容の小さなスタンドが備え付けられたに過ぎなかった。それでもこのスタンドが満員になるのは、よほどの話題になるような試合くらいだった。

 それから30年近く経ち、当時「最新鋭」と言われたこの球場も老朽化が目立つようになった。その上、各球団とも二軍も集客のコンテンツとして捉えるようになり、集客に適した施設を次々と建設、または使用するようになってきた。とくに、九州で圧倒的な人気を誇るソフトバンクが、2016年に筑後市との協力のもとに建設した「ベースボールパーク筑後」のメイン球場は、3100人収容の堂々たるもので、この年、ソフトバンク二軍は、11万人を超える観客をこの球場に集めた。

 そのような流れを受け、阪神球団も二軍の新球場建設を決意。親会社の沿線、尼崎市の小田南公園にサブ球場を備えた3600人収容の球場を来シーズン開場目指して建設中である。

ラストシーズンも大盛況の鳴尾浜

 久々に鳴尾浜に足を運んだ。12時30分の試合開始で開場は9時。会場前には球場敷地を取り囲むように300メートルほどの列ができていた。

平日の早朝から大勢のファンが「整理券」を求めて並んでいた。
平日の早朝から大勢のファンが「整理券」を求めて並んでいた。

 開場して20分もしない間に「札止め」。その後にやってきたファンは入り口でスタッフの「すみません」の声にうながされ渋々帰途につくことになる。それでも試合開始直前まで入場できなかったファンが敷地外からうらめしそうに場内をのぞきこんでいた。平日でもこの調子だから週末はかなり前から来場して列に並ばないと入れないだろう。

 開場から試合開始まで3時間半。ファームとあって開場時からホームチームのタイガースの選手のバッティング練習は始まっているが、よほど熱心なファンでないとやはり時間を持て余す。そのあたりは、早々に整理券をゲットした常連さんは、席を確保すると、本来入場無料とあって、いったん球場を出て涼みに行く。

 といっても周囲には公園と倉庫や工場が広がるのみ。「常連さん」はその先にあるマンション街の住人なのだろうか?

 この日の試合は、一軍は低迷しているものの、二軍では首位を走るオリックス戦。そのオリックスには、頓宮、杉本といった一軍でも実績十分の強打者がスタメンに名を連ね、阪神の方も、4番サードに二軍調整中の佐藤輝明が名を連ねた上、先発には伊藤将司を立ててきた。その上、2回に2点を先制すると、7回からは「エース」、青柳を投入。完封リレーで、「満員」のファンを沸かせた。正直なところ、もっと多くのファンに見てほしい好ゲームだった。

試合後はナイン一同がグラウンドに出てきて挨拶する。
試合後はナイン一同がグラウンドに出てきて挨拶する。

 来シーズンからは、ナイター照明を備えた「二軍最大級」の新球場、「日鉄鋼板SGLスタジアム尼崎」に阪神タイガース二軍は移転する。交通至便な立地でのナイトゲームには、大勢のファンが詰めかけるであろう。収容3600人といっても、これですらプラチナチケット化するかもしれない。

 新球場は、今、絶賛建設中である。

尼崎市小田南公園に建設中の新球場
尼崎市小田南公園に建設中の新球場

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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