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元オリックス、中川拓真。独立リーグからNPBへ復帰。ヤクルトへ

阿佐智ベースボールジャーナリスト
独立リーグ・火の国サラマンダーズからヤクルトへの移籍が決まった中川

 独立リーグ・ヤマエグループ九州アジアリーグ火の国サラマンダーズ所属の中川拓真捕手のNPB・東京ヤクルトスワローズへの移籍が決まった。

 愛知県出身の中川は、2020年秋のドラフトでオリックスに5位で指名され豊橋中央高校から入団。しかし、高卒で同期入団の元謙太、来田涼斗が将来のレギュラー候補として1年目から二軍でポジションを与えられたのに対して、出場14試合と中川にはなかなかチャンスが与えられなかった。2年目の2022年には、出場試合数46試合、打席数も111打席と大幅に増えたが、ファームの正捕手の座は、大卒のドラフト3位ルーキー、福永奨によって占められた。そして3年目の昨年は、高卒同期のドラフト1位、山下舜平大がブレークを果たす中、左手の有鉤骨の骨折とその治療のための手術もあって、ファームでの出場は20試合に激減。チームが3連覇を果たす中、自身は1度も一軍の舞台に立つとことなく、戦力外通告を受けた。

 球団は、まだ高卒3年目を終えたばかりの中川に育成契約を打診したが、中川はこれを固辞。新天地を求めて12球団合同トライアウトを受験した。

 しかし、一軍での実績のない中川に他球団からのオファーはなく、トライアウト後、オリックスで同僚だった荒西祐大が入団することになった火の国サラマンダーズへの移籍が発表された。

 独立リーグで迎えた初めてのシーズンは、本職の捕手の他、一塁手としても出場。「プロ」として初めてレギュラーとしてプレーしている。ここまで29試合に出場し、104打数31安打で15打点。本塁打も2本放ち、高校通算44本塁打の長打力も復活させていた。

 中川を獲得したヤクルトは、ヤクルトは現在中日とセ・リーグの最下位争いの真っ只中。2021年から連覇を果たしたものの、昨年は最下位とゲーム差なしの5位。チームの若返りの時期を迎えている。連覇を支えたプロ16年目の正捕手、中村悠平も34歳を迎え、今シーズンは上半身のコンディション不調で戦線離脱するなど、扇の要も世代交代の時期に入っている。次世代の正捕手と期待されている内山壮真は、中川とはドラフト同期。同じ高卒でのプロ入りなのでまさに同級生だ。しかし、この同級生も、打力を生かすためとりくんだ外野の練習がたたり、上半身のコンディション不良で、今シーズンは一軍のフィールドにいまだ立っていない。先月末にようやく二軍の試合に復帰したところだ。

 さらに言えば、ヤクルトとは昨年も、独立リーグのルートインBCリーグ・福島レッドホープスから木須フェリペ捕手(登録名フェリペ)をシーズン途中に獲得している。フェリペは中川にとってオリックスの先輩に当たり、中川はルーキー時代、ともにプレーしている。ヤクルトは昨年のドラフトでも常葉大学附属菊川高校の鈴木叶捕手を4位で指名し獲得。「ポスト中村」に向けて若い捕手を競わせる方針のようだ。

 今回の中川の契約は育成ではなく支配下契約。捕手不足に悩むヤクルトが一軍の戦力として考えていることがうかがえる。オリックスではかなわなかった一軍の舞台に立つチャンスは十分にある。戦力外通告を受けたオリックスからの育成契約を断って独立リーグで捲土重来を目指したのが花開いたかたちだ。

 各メディアへの事前情報提供を経てリリース解禁となった2日午後2時に記者会見が行われた。慣れないのか、幾分緊張した面持ちで荒西監督代行とともに会見に臨んだ中川は、半年という短い期間ながら在籍したサラマンダーズへの感謝をまず口にし、報道陣を前にコメントした。

 「3年間、オリックスにいてプロの厳しさを味わった。独立リーグならではの地域密着を肌で感じた。熊本のファンへの感謝を忘れずに、ヤクルトでがんばりたい」

 セ・リーグ球団への入団ということで、高校時代愛知県選抜でバッテリーを組んだ同級生、高橋宏斗との対戦を希望。チーム内ではクローザーの田口麗斗の球を受けることを楽しみにしているという。

 火の国サラマンダーズからNPBに選手が送り出されるのは、中川で3人目。九州アジアリーグが開始された2021年には、元広島の小窪哲也(現広島コーチ)がシーズン途中に千葉ロッテに移籍。シーズン後のドラフトでは、19セーブを挙げた石森大誠がドラフト3位で中日に指名されている。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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