注目の「劇団番町ボーイズ☆NEXT」発進 幕末の「美男五人衆」を演じる、等身大の舞台で躍動
個性派演劇集団「劇団番町ボーイズ☆」の若手メンバーと新人のユニット「劇団番町ボーイズ☆NEXT」
ソニー・ミュージックエンタテインメントの新人発掘・育成セクションが、2015年から注力しているのが、全国各地でボーイズグループ、劇団の育成と、その活動を通じてのタレント・俳優の育成だ。数あるグループの中でも、東京の「劇団番町ボーイズ☆」は、毎公演様々な脚本・演出家を迎え、アグレッシブな活動でファンを増やしている。そんな劇団番町ボーイズ☆の若手メンバーと新人たちで構成され、新たに誕生したのが「劇団番町ボーイズ☆NEXT」だ。その第1回本公演『壬生狼ヤングゼネレーション』が8月23日、東京・シアター風姿花伝で開幕した。『壬生狼~』(小学館「ビッグコミックス」刊)は、幕末の剣客集団・新選組に実在した、“隊中美男五人衆”を題材にした柏葉ヒロのマンガを、脚本・谷碧仁(劇団時間制作)、演出&殺陣・ドヰタイジ(STAR☆JACKS)で舞台化したもので、チケットはソールドアウトになっている。
そんな舞台の稽古場にお邪魔して、通し稽古直後の7人、初の(W)主演で力が入る、馬詰柳太郎を演じる織部典成と木原瑠生を始め、今回が初舞台というメンバーにもインタビューし、舞台への意気込みを聞いた。
『壬生狼~』のあらすじは――<時は幕末、文久3年。知る人ぞ知る「美男五人衆」が新選組内に実在した。髪は椿油で整え、袴を腰で履き、侍とは思えない行動の数々。そんなやんちゃでバカでカッコつけの美男達の青春物語。と思いきや、そこは変えられない現実が待ち受けていた。「大人」「都合」「志」そして…人の「死」。子供である彼らを待ち受けていた試練の数々。彼らは少しずつ、少しずつだが現実を知り、戦い、受け入れようとし、大人に向かっていく。そんな若者が現実と戦っていく様を描いた時代劇――「おバカみたいに笑って、おバカなりに考える」>
「座長として、みんなといいものを作り上げたいという一心で、言いたいことはストレートに言ってきた。それで自分がどう思われようと、いい作品ができ上げればそれでいいと思った」(織部)
――まずは初の主演(馬詰柳太郎/土方歳三)を務める、織部(典成)君から、今回の舞台へかける思いを聞かせてください。
織部典成 今回初めての(W)主演を務めさせていただくのですが、「ようやく来たか」というのが最初に感じた事でした。お芝居をしている時が一番楽しいので、このチャンスをいただいた時は本当に嬉しかったですし、真ん中に立つということについては、ただただみんなといいものを作りたいと思ったので、メンバーは年も近いし、言いたいことは迷わずストレートにぶつけた方がいいと思い、稽古に臨みました。それで僕がどう思われても、作品が良くなればいいんです。もちろん自分の発言についてはプレッシャーにもなるし、全員の事をしっかり見なければいけないという思いが強いです。その中で、先輩達から得てきたものを、今回が初舞台のメンバーや、みんなと共有して高め合って、観に来てくださった方にも「初舞台なのに、こんなにできるんだ」って思ってもらえるようなものにしたい。僕は馬詰柳太郎と、土方歳三を演じさせていただいていて、まず馬詰は、新選組に入りたくて入ったのではないので、人には興味がないという感じを出していますが、実は一人ひとりの事をすごく考えている人間です。土方に関しては、五人衆の前ではいいお兄さん的な存在だけど、沖田総司と一緒にいる時は、新選組の未来のことを考える切れ者、しっかり者という二面性を出す演技を目指しています。土方も、真っすぐな気持ちの持ち主だけど、局長・芹沢鴨という大きな存在によって、自分の考え方も間違っている部分があるのかもしれないと、揺らぐシーンがあって。五人衆もそうですが、土方も成長している部分がある。そういう人柄を伝えたい。
「セリフが自分の核心ついてくるものばかりで、自分に言い聞かせているよう」(木原)
木原瑠生(土方歳三/馬詰柳太郎役) 普段は劇団番町ボーイズ☆で舞台をやっていて、今回NEXTということで、若い世代を後押しするというのがテーマで、土方歳三を演じながら、そのセリフが自分の核心をついてくるものばかりで、例えば「時代は誰も作れはしない、流れていくものだ」とか、自分に言い聞かせている気がしています。それが観ている人の心の芯をつくように、伝える事ができたら嬉しいです。今までは先輩がいて、自分達はついていくだけという感じでしたが、NEXTというチームができ、今度は自分が先輩の立場になったら、勝手に体も心も動いていくし、それは結局今まで自分がやってきたものがあってこそなので、これまでやってきた事が、間違いではなかったとは言い切れませんが、でもよかったんだと改めて思えます。今回が初舞台のコたちには、自分が先輩にやってもらった以上の事をやってあげようと思って、稽古に入りました。でも稽古の時、芹沢(堂本翔平)と対峙するシーンで、芹沢の顔を見たら、なぜか涙が出てきました。その存在感に「俺、(先輩に)ずっと負けてるんだな」と思って。でも今は負けていても、いつか勝つんだ、という気持ちが芽生えてきました。その思いを自分も若い人達に感じてもらえるようになりたい。人としても役者としても、色々なストックを持っている方が武器になると思う。上の立場として参加させてもらっていますが、自分も色々な事を学べているので、本当にいい経験になっています。
「五人衆はおバカだけど、大切にしたいのはおバカじゃない部分」(財津)
「この世界に入って、色々な大人と出会って、色々な事を経験して少しずつ成長していく姿は、五人衆とリンクしていると思う」(田中)
――大人へと向かっていく若者が現実と戦う、まさに等身大の舞台です。NEXTとしての第1回公演のテーマとしては、ドンピシャだったと思います。
木原 20歳をすぎればみんな色々考えます。でも実際はそんなの全然関係なくて、忙しい日々の中で考えている暇もなく、考えても意味がないと思っていて。とりあえず今はやるしかないという事で、土方の言葉通り、時代は勝手に流れていくものだし、自分が一生懸命生きて、年を重ねた時に、運がよければ自分達の時代になっているのかもしれない。そう考えると、必死にやる事、常に初心に帰る事が、一番大事だと思う。だから今は、ガムシャラにやる事を、やろう、と。
宮内伊織(佐々木愛次郎役) 近藤勇、土方歳三という、歴史上の有名人ではなく、今までスポットライトが当たってこなかった、「隊中美男五人衆」に目を向けることによって、きっとこういう激動の時代、時代が変わろうとしている瞬間に、こういう人達もいたんじゃないかなと思ってもらえるように五人衆を演じることができれば、自分達が今生きている時代を創ってくれた先人たちに向けて、ちょっと背筋が伸びるような、清々しいような気持ちで、みなさんに観ていただける舞台になると思います。当時の若者の生き方を、史実に基づきながらも、考えられる範囲で自由に求められるところが、面白いと思います。
財津優太郎(馬越三郎役) 今回「隊中美男五人衆」を演じるにあたって、原作を読んでも脚本でもとにかくおバカで、でも僕が大切にしたいなと思った部分は、五人衆のバカじゃない部分です。本気でバカをやって、でも5人それぞれの譲れない部分、人には言えない部分があって、そこがそれぞれの個性でもあり、幕末の話を令和の時代にやる意味があると感じています。幕末の話ですが、友人関係や心の葛藤の部分は、今につながる問題提起をしていると思います。
矢代卓也(楠小十郎役) 僕が演じる楠小十郎は、長州藩の間者、スパイです。でも4人に情が湧き、長州の間者である事を忘れるほど仲間を思う部分があり、演出のドヰさんには「五人衆でいる時は、常に笑顔で」と言われました。その笑顔の裏側にある寂しさや冷たさを、表現できれば。
中塚智(佐々木愛次郎役) 原作があるので、それに忠実に演じなければいけないと思いますが、マンガだけでは伝えられないものが、きっとあると思う。自分がもしその立場だったらどう行動するのか、役と自分自身を置き換えながら、稽古しています。話が回想シーンと現在、二つ流れていて、佐々木愛次郎は亡くなっているので回想シーンにしか出てきません。愛次郎が生きている時はどんな空気が生まれていたのか、亡くなってからはどんな空気になるのか、そこの差を付けられるように、頑張っています。
田中辰季(山野八十八役) 五人衆と僕達の年齢が近くて、似ているなと思う部分も多々あります。だから自分達と役を擦り合わせて、似ている部分を探して、僕は山野八十八という、猫が好きでテンションが高くてバカで、あまり自分が置かれている状況をわかっていない若者の役です。でもそんな八十八を含めて、五人衆が少しずつ成長していくというところが、自分と似ていると思いました。夢を見てこの世界に足を踏み入れて、色々な大人の人達に会って、色々な事をやっているという僕達だからこそ出せる味というか、世界観をうまく出していきたいです。
「“映像を超える舞台を作るんだ”という、演出家・ドヰタイジさんの言葉に感銘を受けました」(織部)
――この舞台が、テーマはもちろん稽古を通して全員の「気づき」の場になっている感じがしますが、演出のドヰタイジさんから言われた言葉で、印象的な言葉を教えて下さい。
織部 「映像を超えたものを見せたい」という言葉です。映像は撮り直しもあって、後から音楽も付けて編集する、でも舞台は生で、そのタイミングタイミングでBGMが流れて、自分達でそれに合わせながらも、心情を作っていかなければいけません。合わせる事だけに集中すると、演技がダメになるし、それを両立させる事によって、映像を超えるものを作れると、教えていただきました。映像に負けたくない、映像を超える舞台を作るという言葉を聞いたときは、凄いなと思いました。
中塚 今回が初舞台ですが、ドヰさんに最初に言われたのは、「心で芝居をしろ」ということでした。立っているだけで、芝居になっていないのなら、いてもいなくても同じだ、と。でも最初は意味がわからなくて、だんだん稽古を積んでいくうちに、もし自分があの時代に生まれていて、愛次郎だったらどうするのかということを考え、擦り合わせていくと、ひとつひとつのセリフ、心の動きがわかってきた気がします。
財津 僕も初舞台ですが、稽古が始まって、自分の何がダメなのかさえわからなくて、それで悩んでいたら、タイジさんが答えではなくヒントをくれて、導いてくれるというか、フォローしてくれつつ考える時間を与えてくれました。そこに愛を感じました。その考える時間がすごく楽しいし、勉強になっています。
木原 タイジさんと普通にしゃべっていた時、「俺は最初に台本を読んで、立ち稽古を一回やったら、台本を捨てていた」と言われて、ビックリしました。今まで色々な演出家の方とお仕事をやらせていただきましたが、初めてのタイプの方で、人としても自分が初めて会うタイプの人なので、一緒に舞台を作ることができて、毎日が本当に楽しいです。
矢代 僕は作法と殺陣の部分で勉強になることが多くて、ちゃんとした武士と浪人とは、帯刀の仕方が違うということを最初に教えていただきました。時代ものは、作法や佇まい、細かい動きが大切だと思うので、本当に勉強になりました。
田中 タイジさんからいつも言われていたのは「想像力が足りない」ということです。稽古場の床に、テープがたくさん貼ってあって、そこを普通に歩いていると「そこは段差があるからそういう歩き方はしない」とか、イスを障子に見立てて開け閉めをやったり、とにかく想像力を働かせろ、と。それで稽古をずっとやっていると、床のテープが本当に階段に見えてくるんです。段差も見えてきて、なるほど、想像力を働かせるってこういうことなんだと、目から鱗でした。
宮内 悩んでいたらタイジさんが、「まずは先輩たちがやっていることをマネしろ。マネしてマナブことを覚えろ」と言ってくださって。マネして実践することによって、最初はただのマネかもしれないけど、繰り返してやっていくうちに腑に落ちて、それが自分の引き出しになると言われました。まだまだマネしなければいけない事がたくさんありますが、経験を重ねて、引き出しを増やしていきたいです。