「DX」じゃなくて「DnX」になってる? なぜ日本企業の多くが「DX」に失敗するのか?
■「DX」を推進する日本企業の多くが失敗している
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。巷では「DX」推進を進める企業が増えているが、あくまでも「DX」は手段。目的ではない。なので私たちにとっては、あってもなくても、どちらでもいいこと。企業が立案した事業計画が安定して達成できるようにすることが、私たちの目的だからだ。
しかし、一般的に言われているとおり「DX」を推進したほうが目的は達成させやすい。これは、
・デジタル化する
よりも
・トランスフォーメーション(変容)できる
企業のほうが、環境の変化に強いからだ。そういう意味からすると、日本企業は積極的に「DX」を取り入れたほうがいい。コンサルタントになる前は私もシステムエンジニアだったので、「DX」のメリットはよく理解しているつもりだ。
しかし実態を見てみると、日本企業の多くが失敗している。「DX」ではなく「DnX」となっている企業が大半だ。「DnX」とは、「Digital not transformation」の略。デジタル化はしたが、トランスフォーメーションはできていない状態を指す。「DX」のためにお金や労力を使っても、正しい効果の実感を得られていないのである。
そもそもDX(Digital transformation)は、デジタル技術によって人々の生活をよい方向に変化させることである。
したがって企業におけるDX推進とは、デジタル化によってよい方向へ変化できていないといけない。相応のコストをかけた割には、そのデジタル技術がじゅうぶんに活かされず、それどころか組織の重荷となっているのであれば、デジタライゼーションに成功しても、デジタルトランスフォーメーションには失敗したと捉えたほうがいい。
■なぜ多くの日本企業は「DnX」に?
それでは、なぜ多くの日本企業は「DnX」となってしまうのか、簡単に解説する。
たとえば、組織営業力をアップするのにSFA(営業支援システム)を導入したとしよう。属人的になりがちな営業活動を見える化し、プロセス管理をすれば、機会損失の抑制、受注の平準化などが果たされる。営業パーソンの成績差が縮まり、営業個人にとってもメリットは大きい。
私は20年以上も前から、このSFAの設計開発や導入支援に携わってきた。しかし、どんなに機能が充実しても、どんなに「DX」の風が吹こうと、導入して成功する企業はなかなか増えない。SFAというITソリューションの問題ではない。SFAのみならず、デジタル技術を駆使して生産性をアップできる営業組織がとても少ないのが現実だ。
理由は簡単だ。手段と目的をはき違える人が多いからだ。
先日も「SFAお悩み相談会」をオンラインで開いたところ、多くの企業の経営者、営業マネジャーから、
「どのようにSFAを活用したらいいか教えてほしい」
「SFAの理解度が低い役員をどう説得したらいいか知りたい」
という質問をたくさん頂戴した。
「どうしたらSFAを使って営業目標を達成できるのか」
「どのようにSFAを運用すれば営業効率がアップするか教えてほしい」
という質問がひとつもなかった。情報システム部門の人ならともかく、経営者や営業マネジャーが手段に焦点を合わせすぎていたら、うまくいくものもうまくいかないのは当然であろう。
■ランニングアプリでたとえてみる
ランニングアプリを例にして説明しよう。
たとえば健康のために走ろうと思って、ランニングアプリをスマホにインストールしたとする。どんな機能があるかを知ろうとする前にやらなければならないことがある。それは走る習慣を身につけておくことだ。
走る習慣が身についたら目標を立ててみる。毎月100キロ走るとか。10キロを50分で走るとか。フルマラソンで4時間30分を切るとか。そんな目標だ。
目標ができたら計画を立てる。計画通りに走るには、どれぐらいのインターバルで、何キロを、どのようなスピードで走ったのか。記録を残していけると、目標に近づいているかどうか把握しやすくなる。そのときになってはじめて、
「ツールがあったほうが便利だ」
「そうだ。ランニングアプリをインストールしよう」
と考えればいい。その状態でアプリを活用すれば、
「ランニング中に、ペースを音声で教えてくれる」
「走ったデータを友だちと共有できる」
ということもわかって、さらに意欲がアップする。ますます行動変容が促され、目標に近づく。走る楽しみを味わえ、長続きする。
それは、SFAといった行動変容を促すITソリューションも同様だ。SFAはランニングアプリと同様に、導入するだけでは機能しない。すでに営業生産性をアップする取組みを組織全体で励んでいる。そして、さらに効果効率的にするためにSFAを導入し、データの一元管理を進める。そうすれば、
「営業の活動履歴がすべて可視化される。これは便利だ」
「成果を出す営業と、そうでない営業の行動パターンにこれほど差があるとはわからなかった」
このような気付きを得られるはずだ。マネジメントの精度もアップし、組織全体は大きく変わるだろう。
そもそもトランスフォーメーションは「変容」という意味だ。まだやってもいない行動は「変容」しようがない。つまり行動していない人を、行動させるようにすることに「DX」は向かない。したがって、
○行動していない状態 → デジタル化 → 行動する状態
という期待を持つべきではなく、本来は、
○行動している状態 → デジタル化 → 行動が変容している状態
を期待すべきなのだ。繰り返すが、変容対象の行動そのものが存在していないのなら、「DX」ではなく「DnX」になる可能性が高いと覚えておこう。
■「インサイドアウト」という手順
最後に「インサイドアウト」の概念について解説する。
デジタル技術を導入することで、個人の意識が変わればいい。行動変容が見られればいい。しかしこのような外側から変えていくアプローチを「アウトサイドイン」と呼ぶ。カタチから入るのは悪くないが、このアプローチに向かない組織は多い。
だからベストセラー『7つの習慣』に書かれているとおり「インサイドアウト」のアプローチを考えてみる。まずは個々人の内側から変えるのだ。仕組みやデジタル技術に頼らず、まずは行動習慣から変えるのである。
意識改革、行動改革をしてからデジタル技術を導入すれば、「DX」の本当の効果を体現できるはずだ。