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小西桜子がキスシーン満載の『ラブファントム』でヒロイン 「何にも染まってないことを大事にしてます」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(c)みつきかこ・小学館/「ラブファントム」製作委員会・MBS 2021

昨年、新人ながら12本もの映画、ドラマに出演した小西桜子。今年に入ってからも主演ドラマを含め、出演作が相次いでいる。人気コミックをドラマ化した『ラブファントム』ではヒロイン。ピュアで恋愛経験ゼロながら、完璧な大人のエリート男性との恋に落ちる役どころで、毎回濃厚なキスシーンがあるという。引く手あまたで多彩な役を演じてきた中、溺愛系ラブストーリーと謳ったこの作品にはどう取り組んだのか? 

毎回壁に当たりながらお芝居を広げてます

 昨年2月、小西桜子がヒロインを演じた2本の映画『ファンシー』と『初恋』がたて続けに公開され、ヨコハマ映画祭で最優秀新人賞を受賞する鮮烈な演技が話題になった。1年で出演した映画、ドラマが6本ずつ公開、放送。今年に掛けて『猫』に『京阪沿線物語』と主演ドラマも続いた。引っ張りだこの売れっ子となり、1年前とは生活も大きく変わったのでは?

「1人暮らしを始めたので、仕事に通うのが楽になりました。でも、他にそこまで変わったと思うことはないです。街で声を掛けられることも、そんなにありませんし。ただ、1人カラオケに行ったとき、平日の昼間で他にお客さんもいなくて、ずっと1人の店員さんがドリンクを持ってきてくれたんですね。私は広末涼子さんとかの曲をひたすら歌っていたんですけど、帰り際に『小西桜子さんですよね?』と言われて、『バレてた……』とめちゃくちゃ恥ずかしくなりました(笑)」

 出演作が多いだけでなく、『初恋』では父親に借金を背負わされてヤクザの元から逃げた少女、『ふろがーる!』ではハイテンションなイマドキ女子など、同一人物と思えないほどの様々な役柄を演じ切っている。そして主演作も増え、演技に自信を高めていそうだが……。

「いえいえ。全然まだまだです。ありがたいことに幅広い役をやらせていただいて、新鮮な気持ちになりますけど、毎回課題が見つかって壁にぶち当たっています。現場で監督さんや共演の皆さんに助けてもらいながら、自分のお芝居を広げている感じです」

真剣だからドジをしてしまうことを意識しました

 そして、今月から深夜の『ドラマ特区』枠でスタートしたのが『ラブファントム』(MBSほか)。みつきかこの人気コミックのドラマ化で、“怪人”と呼ばれるほど優秀で容姿端麗なエリートホテルマン・長谷慧(桐山漣)と、小西が演じる不器用だがピュアなホテルカフェ店員の平沢百々子が繰り広げるラブストーリーだ。撮影は昨年夏に行われた。

「日常の辛いことを忘れて現実逃避できるような世界観は、純粋な気持ちで楽しめて、すごく好きです。百々子はまさにラブコメのヒロインという感じのキャラクターで、ありえないくらい素直で純粋。でも、現実にはなかなかいないという意味で共感するところは少なくて、難しい役でした。現実離れした世界観だからこそ百々子が魅力的な部分を、どう演じればいいか模索しました」

 完璧イケメンの長谷が百々子には蕩けた姿を見せて、“溺愛系”と謳われるこの作品。長谷が百々子のことを「ついいじめたくなる」と言ったりもするが、そうした台詞が違和感ないほど、小西の演じる百々子はかわいらしい。小西自身のもともとの資質もあるにせよ、まさに非現実的なまでの愛されキャラを体現したのも演技力の賜物だろう。

「百々子はすごく不器用なキャラクターでもあって、いつもカフェで何かやらかして、店長に怒られます。同性からはうっとうしく思われてもおかしくないんですけど、それを超えるくらい純粋だから、男性にも女性にも好かれていて。そこは自分の中で意識してました」

 仕草や話し方のひとつひとつにも、百々子の愛らしさがこぼれている。

「百々子のドジっぽい仕草や鈍くさい動きは、ナチュラルなお芝居だと流れてしまって。カフェの仕事も気を張って真剣にやっているからこそ、ドジをしてしまうイメージで、常に手を抜かず余計な力が入ってしまうようにしました」

どういう感情でキスするのかたくさん考えました

 百々子と長谷は1話で、ホテルの空中展望台で出会ったときから、吸い寄せられるようにキスを交わした。そこで始まり、毎回キスシーンがあるのも、このドラマの見どころだ。

「監督さんやカメラマンさん、技術部さんや照明部さんと皆さんで、毎回のキスシーンが同じにならないように、ライティングや雰囲気を変えてくれました。ロマンチックだったり、リラックスした雰囲気を作ってくださったのに助けられながら、桐山さんと私も『こうしたらいいんじゃないか』と話し合って、いろいろなバリエーションができました」

 小西は「何ごとも突き詰めるタイプ」と話していたこともある。キスシーンも回を重ねて極めたのだろうか?

「あまり意識したことのないドラマ的な見せ方みたいなものを、教えてもらいました。お芝居だけどアクションに近いような動きで、初めて挑戦するジャンルでしたけど、ひとつ幅が広がった感じはします。回を追うごとに世界観がどんどん出来上がって、どっぷり浸かれるようになっていきました」

 かなり濃厚なキスを交わす回もある。

「照れはあまりないですけど、『ここはどういう感情でキスしているんだろう?』と疑問に思ったところは、監督と話し合ったりしました。『こういう流れなら、自然にキスできる』というのはたくさん考えながら、やらせてもらいました」

 小西桜子自身としても、長谷というキャラクターには「惹かれるところはあります」とのこと。

「仕事をしているときの完璧でクールな面と、一緒にいてリラックスしているときの素の部分のギャップは、自分だったら見せてもらえたらうれしいと思います。百々子が長谷さんとそういう関係性を築けたのはいいですよね」

役に入り込みつつ原作に近い見え方を考えて

 作品ごとに大きく違うタイプの役で、それぞれ自然な存在感を醸し出してきた小西桜子。『ラブファントム』の百々子も、演じているときは入り込んでいた感覚だったのだろうか?

「今回は原作の世界観が出来上がっていて、そこに向けてスタッフさんたちと一丸になって、作り上げていく感じでした。役に入り込みつつ、原作に近づける見え方を考えながら演じたのは、今までと違うお芝居への向き合い方だった気がします」

 小西の幅広い演技は、自分の中のチャンネルを変えて役と同化している印象がある。いわゆる憑依型などとは違うようにも見える。

「そういうタイプでもなくて、役によるかもしれません。自分に近い役だと私自身との境がなくなるように感じる瞬間がありますけど、自分と離れた役だと、そうはならなかったり。今回の百々子も自分とは違うキャラクターなので、悩んだところはありました」

 1月クールに放送された『京阪沿線物語』での、自分を見失って作品を書けなくなった新人小説家役については、「ほとんど素」との発言があった。

「あれはやりやすい役でした。でも、素に近すぎても、客観的にどう見えるかを考えられなくなってしまうことがあるので、どちらも難しい部分はあります」

 『ラブファントム』の百々子は、自分で完成した作品で観ると、どう映っただろう?

「脚本だけでも十分ロマンチックでしたけど、映像になったときの美しさは本当にこだわって作られていて。原作の世界観を壊さないように丁寧に実写化されたので、原作ファンの方も楽しんでいただけると思いました」

 話を聞いていると、自分を良く見せることより、作品全体の見え方に気を配っていることがうかがえる。

「そうですね。皆さんのおかげで自分のお芝居が良く見えるように感じたので、感謝の気持ちが湧きました。現場で試行錯誤して『どうなんだろう?』と悩んだところも、監督を信じて良かったと思えました」

岩井俊二監督の作品を観て初心を思い出して

 ところで、小西のブログは長文が多い。ときにはかなり赤裸々な心情が綴られていたりも。インスタグラムに「ブログは何時間もかけて書きます」とコメントしていたこともあった。

「私にはブログを書くのは必要なことなんです。自分の本音の言葉を話すことって、大人になるにつれて年々なくなっていくので。最近はいろいろある世の中で、自分がいついなくなるかもわからないので、その時々に思ったことは発信しておくようにしています」

 芸能人の発信も最近はブログより、手軽なSNSが主流になっているが……。

「ツイッターやインスタグラムは多くの人が見てくれますけど、ブログはそんなに簡単に読めるものではなくて。わざわざ時間を割いて読んでいただくことになるので、そういう人に届けばいいと思って、考えたことをラフな感じで書いています。ものを考えることは、すごく好きですね」

 4月クールのドラマでは『レンアイ漫画家』にもレギュラー出演中と、相変わらず仕事が途切れない。そんな中で、女優としてインプットのためにしていることは?

「ありふれたことですけど、時間があればなるべく、本を読んだり映画を観るようにしています。最近だと、岩井俊二さんの2本立てを名画座でやっていたので、2日間行って、『リリィ・シュシュのすべて』とか『Love Letter』とか4本観ました。20年くらい前の作品で、私が観たのは高校生か中学生以来でしたけど、感じ方が全然変わっていて。『こういう映画に出たい』という初心も思い出して、すごく良いインプットだったと思います」

 最後に改めて、出演作がひっきりなしの自身の、女優としての強みだと思うことを聞いてみた。

「お芝居のキャリアがそんなになくて、染まってない、慣れてないのを魅力と思っていただいているのかもしれません。昔、舞台をやったとき、演出家さんに『お前は慣れたら終わりだからな』と言われたのを、すごく覚えていて。どのお仕事にも染まってないのは、私のひとつの軸になっているのかなと思います。これからキャリアを重ねても、そこは失くさないように、初心を忘れないことを意識していきたいです」

Profile

小西桜子(こにし・さくらこ)

1998年3月29日生まれ、埼玉県出身。

2017年に自主制作映画『一晩中』に主演。2020年公開の映画『ファンシー』、『初恋』でヒロイン。その他の主な出演作はドラマ『ふろがーる!』、『猫』、『京阪沿線物語~古民家民泊きずな屋へようこそ』、映画『映像研には手を出すな!』、『ASTRO AGE』、『佐々木、イン、マイマイン』ほか。ドラマ『レンアイ漫画家』(フジテレビ系)に出演中。映画『藍に響け』が5月21日、『猿楽町で会いましょう』が6月4日に公開。

ドラマ特区『ラブファントム』

MBS/木曜24:59~、tvk/木曜23:00~、チバテレ/金曜23:00~、テレ玉/水曜24:00~、とちテレ/木曜22:30~、群馬テレビ/木曜23:30~

放送後、Huluにて定額見放題サービス独占配信

公式HP

(c)みつきかこ・小学館/「ラブファントム」製作委員会・MBS 2021

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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