10代少女たちの壮絶な体験と向き合う。受け取った言葉を大切に女子学徒役に臨んで
沖縄戦の悲劇を伝える存在として広く知られる「ひめゆり学徒」。
しかし、ご存知の方もいると思うが、沖縄戦において看護学徒として動員された10代の女学生たちは、映画、テレビドラマ、舞台として幾度となくリメイクされている「ひめゆりの塔」のモデルとなっているひめゆり学徒隊だけではない。
映画「乙女たちの沖縄戦~白梅学徒の記録~」は、ひめゆりらと同じ学徒のひとつ、沖縄県立第二高等女学校の4年生56名で編成された白梅学徒に焦点を当てる。
沖縄戦において看護学徒として野戦病院に配属され、負傷した兵士たちの看護に命懸けで当たった彼女たちの実話をドキュメンタリーと再現ドラマで描く。
再現ドラマに出演するとともにドキュメンタリーパートで、今も存命の白梅学徒だった二人にインタビューを試みた女優の森田朋依に訊く。(全三回)
笑顔の裏にある悲しみをわたしは感じました
前回(第二回)は森田が聞き手となったドキュメンタリーパートで貴重な証言をしてくださった白梅学徒の中山きくさんと武村豊さんの話を訊いた。
そのほかの人との話や、病院壕などへ足を運んで実際に見てみて、いろいろなことを考える時間をもったと明かす。
「前回、元白梅学徒の(武村)豊さんがいまも、お母さんとお姉さんを自分が死なせてしまったのではないかと、考えていて、心に深い傷となっているというお話をしました。
そのとき、豊さんは『天国でお母さんとお姉ちゃんに会ったら、まず謝りたい。でも、お母さんよりもずっとずっと年を取っちゃったから、わたしのこと、豊って分かるか分かんないけどね』とちょっと冗談もまじえながら、明るくお話してくださいました。おそらくわたしが気が滅入らないよう配慮してのこともあって……。
努めて明るく接してくださったんですけど、その裏にある悲しみをわたしは感じました。
『わたしに気づいてくれるかしら』とおっしゃる豊さんですけど、お母さんとお姉さんをすごく探したそうです。
最後に二人が目撃された情報があって、そこの場所へ捜しにいった。でも、周囲にほかのご遺体もたくさんありすぎて分からなかったそうなんです。
このことだけで、わたしは『そんなにご遺体がほかにも』と衝撃を受けたし、豊さんと同じく行方不明の家族を捜した方が当時、大勢いらっしゃったであろうことを想像することができました。そして、その深い悲しみが伝わってきた。
その事実を前にしたとき、やはりいままで知らなかった自分のことを恥じたし、もっと知らないといけないと思いました。
自分がこの作品を通して、なにができるのか、とにかくできることをやってベストを尽くそうと心に誓いました。
豊さんときくさん、お二人の話を聞いて、なにも知らなかった人間が偉そうなことは言えないんですけど、たぶんわたしみたいな『白梅学徒』のことを知らない人がほとんどだと思うんです。
この作品を通して、みなさんに沖縄戦でこんなことがあったということを知ってほしいと心から思いました。
また、きくさんと豊さんの語ってくれたことを、微力かもしれないですけど、わたし自身もいろいろな人に届けられたらと思いました」
自分が沖縄のことをまったく知らないできたことを痛感しました
このドキュメンタリーパートの取材を経て、森田はドラマパートで学徒のひとりを演じることになる。
演じる上ではこのようなことをして臨んだと明かす。
「ドキュメンタリーパートの取材を終えてから、ドラマパートの撮影に入るまで少しだけ時間があったので、『平和への道しるべ』を改めてすべて読み直しました。
豊さんやきくさんから実際にお聞きしたことと合わせて、改めて読むと、いろいろなことが想像できる。
沖縄県立第二高等女学校は、すごく美しい学校で、当時の女の子の憧れの学校だったそうなんです。
そういう校舎や学校の雰囲気も、なんとなく想像してみると、身近に感じることができる。
ドキュメンタリーパートの取材を経て、自分が沖縄のことをまったく知らないできたことを痛感しました。きくさんと豊さんにお会いして、いろいろとお話をうかがって、もっといろいろなことを知らないといけないと思ったので、自分としてもいろいろと調べて作品の理解を深めるように努力しました」
「つらいことばかりじゃなかった」という言葉を受けて
この白梅学徒の直面した現実を、演じる上で大切にしたと明かす。
「いまでは想像できない、悲惨な現実に白梅学徒のみなさんが直面したことは間違いない。
その悲劇的な面をきちんと表現するのは重要。でも、一方で、そこばかりを強調するのもちょっと違うのではないかと思いました。
というのも、きくさんも豊さんもおっしゃっていたんです。『お国のため、兵隊さんのため、という気持ちがあって。負傷した兵隊さんのために、お国のために自分たちが役に立っていると思っていたからつらいことばかりじゃなかった』といった主旨のことを。
いまのわたしのような若い世代からみてしまうと、他人の糞尿を処理するとか、体にわいているウジ虫を処理するとか、『無理、無理、辛すぎる』と考えてしまいがちですけど、当時の学徒の方の中には、『これもお国のため、自分たちができること』と、責任をもってその任務に臨んでいた。
そこを土台にして、心して役に挑まないといけないと思いました。
そのことを含めて、きくさんと豊さんから受け取った言葉を絶対に忘れずに大切に演じようと思いました」
二度と起こさないためにも、戦争の記憶はとどめておかなくてはならない
作品が完成して、公開を迎えたいま、こんなことを考えている。
「正直なことを言うと、これまで戦争は、過去のことと、どこか他人事としていた自分がいました。
でも、今回、きくさんや豊さんに出会い、ほかにもいろいろな沖縄の方にお会いし、戦争の跡地を訪れてみると、他人事で済ませてはいけないと実感しました。
戦後75年以上たった日本だと、どこか遠くの時代で起きたことになりつつありますけど、でも、戦争はいつ自分たちの身に起こってもおかしくない。いつの間にか忍び寄っている。
だからこそ、忘れてはならない。二度と起こさないためにも、戦争の記憶はとどめておかなくてはならない。
まだまだわたしは知識もないし、戦争について多くのことを知りません。
でも、今回『乙女たちの沖縄戦~白梅学徒の記録~』にたずさわり、戦争を知る世代にお会いすることができました。
どこまでできるかわからないですけど、これからもっといろいろなことを学んで、自分なりに戦争を伝えることができればと考えています」
「乙女たちの沖縄戦~白梅学徒の記録〜」
【ドラマパート】
監督:松村克弥 脚本:太田隆文
出演:實川結 森田朋依 實川加賀美 永井ゆみ 城之内正明 響一真 加藤亮佑 冴羽一 海老沢貴志 藤 真由美 布施 博
【ドキュメンタリーパート】
構成・監督:太田隆文
証言者:中山きく 武村豊 當山富士子 大宣味ハル子 我喜屋敏子 大城千代子 翁長健治 山内平三郎
聞き手/森田朋依
公式サイト:http://otometachinookinawasen.com
全国順次公開中
場面写真はすべて(C)Kムーブ