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10代の少女たちの想像を絶する体験と向き合う。沖縄戦の知られざる事実を語り継ぐ女子学徒と出会って

水上賢治映画ライター
「乙女たちの沖縄戦~白梅学徒の記録〜」に出演した森田朋依  筆者撮影

 その沖縄戦の悲劇を伝える存在として広く知られる「ひめゆり学徒」。

しかし、ご存知の方もいると思うが、沖縄戦において看護学徒として動員された10代の女学生たちは、映画、テレビドラマ、舞台として幾度となくリメイクされている「ひめゆりの塔」のモデルとなっているひめゆり学徒隊だけではない。

 映画「乙女たちの沖縄戦~白梅学徒の記録~」は、ひめゆりらと同じ学徒のひとつ、沖縄県立第二高等女学校の4年生56名で編成された白梅学徒に焦点を当てる。

 沖縄戦において看護学徒として野戦病院に配属され、負傷した兵士たちの看護に命懸けで当たった彼女たちの実話をドキュメンタリーと再現ドラマで描く。

 再現ドラマに出演するとともにドキュメンタリーパートで、今も存命の白梅学徒だった二人にインタビューを試みた女優の森田朋依に訊く。(全三回)

「乙女たちの沖縄戦~白梅学徒の記録〜」に出演した森田朋依  筆者撮影
「乙女たちの沖縄戦~白梅学徒の記録〜」に出演した森田朋依  筆者撮影

こんな何も知らないわたしをお二人が受け入れてくれるのか

 前回(第一回)は、出演とドキュメンタリーパートでのインタビュアーとなった経緯について主に訊いた。

 今回は、実際の沖縄での取材を振り返ってもらう。

 このドキュメンタリーパートのメインに据えられているのは、元白梅学徒である中山きくさんと武村豊さんの証言だ。

 戦後70年以上が過ぎ、話をきくことができる白梅学徒はもう数人という現状がある中、本作はこのお二方の貴重な話を収録している。

 そして、森田は中山きくさんと武村豊さんと向き合うことになった。

 二人には正直に、自分があまり白梅学徒のことを知らないことをはじめに伝えたという。

「お会いするまでほんとうにどきどきが止まりませんでした。

 なにか、失礼なこと言ってしまわないかと不安だったし、こんな何も知らないわたしをお二人が受け入れてくれるのかもわからなかった。

 ほんとうに緊張しました。

 その中で、まず自分自身が正直でいなければならないといいますか。嘘をついてしまってはいけないと思ったので、白梅学徒のことをほとんど知らないことを二人にはまずお伝えしました。『ほんとうに申し訳ございません。わたし、ほとんど知らないんです』と」

なにも知らなかったわたしに丁寧にいろいろなお話をしてくださいました

 そこからインタビューが始まったという。

「お二人とも現在90代に入られているんですけど、お元気でお話をきくことができました。

 途中で休憩を入れましたけど、だいたいお二人とも2時間ぐらいだったでしょうか。

 ご高齢で大変だったと思うんですけど、なにも知らなかったわたしに丁寧にいろいろなお話をしてくださいました。

 正直なことを言うと、もうそのお話にわたしは圧倒されて、言葉がうまく出なくて、ほとんどうなずくだけだった気がします」

わたしが緊張しているのをきくさんは察知してか、

手を握りながら答えてくれました

 白梅学徒だった二人との対話で、印象に残ったことをこう明かす。

「(太田監督は)なるべくまっさらな状態でインタビューには臨んでほしいということだったんですけど、(中山)きくさんについては動画をいくつかみていたんです。

 その動画からだと、きくさんはキリっとしていて厳しさと強さのあるイメージがあったんです。

 だから、内心『話を聞くのが何も知らないわたしで大丈夫なのか?』と緊張しました。

 でも、実際にお会いしたら、ものすごく優しくて。東京からやってきたわたしにもすごく丁寧にひとつひとつあったことを説明して語ってくださる。

 最初に『看護学徒として病院壕にいくことは怖くなかったんですか?』ときいたんですけど、わたしもどういう顔をしてどういうトーンで話を切り出せばいいかよくわからなかった。

 そのとき、わたしがすごく緊張しているのをきくさんは察知してか、『それが当たり前だったのよ。戦争だったからしょうがないの』といったことを、手を握りながら答えてくれたんです。

 その瞬間、わたしは緊張がひとつ解けて、『きくさんたちがほんとは思い出したくもないことを話してくれる。そのことをきちんとうけとめないと』と覚悟が決まったところがあったんですよね。

 それでずっとお話をうかがっていったのですが、そのひと言ひと言にひじょうに重みがある。ひとつひとつの言葉に、きくさんの『こんな経験はもう誰にもしてほしくない』といった強い思いが入っているようで、わたしのもとへとひしひしと伝わってくる。

 戦時下、きくさんは、実際に白梅学徒として負傷した兵士たちの看護にあたっていた。それは溜まった糞尿を処理したり、負傷した兵士たちの体にわくウジ虫をとったり、腕や足を切断する手術に立ち会ったりと、もう想像を絶する体験だったわけです。

 でも、きくさんがすごいのは『わたしはまだよかったほうなのよ』『自分は運がよかった』『武村さんのほうが大変だったの』と他人を思いやる気持ちがものすごく強いんです。

 そのきくさんの思いやりの心にはひじょうに感銘を受けました」

「乙女たちの沖縄戦~白梅学徒の記録〜」より
「乙女たちの沖縄戦~白梅学徒の記録〜」より

その思いにふれたときは、胸が張り裂けそうになりました

 もうひとりの武村豊さんについてはこう語る。

「豊さんはすごくおしゃべりが大好きで、チャーミングなおばあちゃんといった印象でした。

 わたしがマラソンをやっていることを知ったら『わたしの息子もいつも那覇マラソンを走ってるのよー』とニコニコしながら、ご家族のことを嬉しそうに話してくれました。

 たぶん白梅学徒の中でも、ムードメイカーだったのでは?と思いました。

 ただ、豊さんも大変な経験をされている。

 それはもうこの作品に収められている証言をぜひ聞いてほしいのひと言なんですけど、お母さんとお姉ちゃんを自分が死なせてしまったのではないかと、いまも心に深い傷として残っている。

 その思いにふれたときは、きくさんのインタビューしたときと同様に胸が張り裂けそうになりました」

(※第三回に続く)

【森田朋依第一回インタビューはこちら】

「乙女たちの沖縄戦~白梅学徒の記録〜」より
「乙女たちの沖縄戦~白梅学徒の記録〜」より

「乙女たちの沖縄戦~白梅学徒の記録〜」

【ドラマパート】

監督:松村克弥 脚本:太田隆文

出演:實川結 森田朋依 實川加賀美 永井ゆみ 城之内正明 響一真 加藤亮佑 冴羽一 海老沢貴志 藤 真由美 布施 博 

【ドキュメンタリーパート】

構成・監督:太田隆文

証言者:中山きく 武村豊 當山富士子 大宣味ハル子 我喜屋敏子 大城千代子 翁長健治 山内平三郎

聞き手/森田朋依

公式サイト:http://otometachinookinawasen.com

東京都写真美術館ホールにて8月7日(日)まで公開、横浜シネマジャックアンドベティ、大阪シアターセブン、京都みなみ館、沖縄・桜坂劇場ほか公開中、以後全国順次公開予定

場面写真はすべて(C)Kムーブ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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