抜け出せぬスパイラル。後半に3失点 岸田と高木は今季初得点/レノファ山口
J2レノファ山口FCは5月19日、維新みらいふスタジアム(山口市)で東京ヴェルディと対戦し、2-3で敗れた。岸田和人と高木大輔がゴールを挙げたが、今節もミス絡みの失点が続き、自滅的な敗戦となった。
明治安田生命J2リーグ第14節◇山口2-3東京V【得点者】山口=高木大輔(前半13分)、岸田和人(後半30分)東京V=ネマニャ・コイッチ(後半4分)、平智広(同26分)、レアンドロ(同40分)【入場者数】5576人【会場】維新みらいふスタジアム
高木大輔が先制点。古巣から今季発ゴール
レノファは前節からはメンバー、システムともに変更せず、中盤は佐藤健太郎と三幸秀稔をボランチ、池上丈二をインサイドハーフに置く三角形を継続した。質の高いボールポゼッションをする東京Vに対して、レノファも技術がある顔ぶれで中央を構成。狙い通りに相手陣内でボールを動かし、序盤からゲームを支配する。
押し込んだ状態でいくつかのセットプレーのチャンスを獲得。前半13分には右のコーナーキックから、池上がゾーンディフェンスを敷く東京Vのエリアに振り入れた。このボールはうまく合わずにクリアされるが、セカンドボールから再構築。佐藤のクロスをドストンがつなぐと、ダイレクトで右足を振ったのが高木大輔だった。「三幸くんから後ろがフリーとは聞こえていたので(シュートを選択するかは)考えたが、セットプレーの流れなので、リスクを取らないためにもシュートで終わることが大事」と思い切ってシュート。枠を捉えていたが、さらに相手にも当たってコースが変わり、ゴールの右隅に吸い込まれた。コースが変わったことでGK上福元直人も反応ができなかった。
高木は育成年代からトップチームまでを過ごした古巣に恩返し弾を決め、これが今季初ゴール。「チャンスを外してきていた中で古巣相手にゴールが取れ、個人的なところで言えば乗っていけるかなと思う」。高木自身のもやもやも、小雨に煙る天気をも吹き飛ばすようなゴールシーンになった。
対する東京Vもワンサイドの状態を解消するため、対策を急いだ。
東京Vのウイングバックに着目すると、U-20日本代表に選出された藤本寛也に代わって河野広貴が初先発。試合の立ち上がりは河野が左サイド、小池純輝が右サイドでピッチに立った。ただ、ボールがリズム良く回せず、「立ち上がりはスローなスタートになった」とギャリー・ジョン・ホワイト監督。試合途中で手を打ち、「河野と小池のサイドを変えてからはリズムが作れた」。井上潮音からのボールが効果的に出るようになり、流れは東京Vに傾いていく。
もっとも流れが変わった要因はそれだけではなく、レノファにも問題の種があった。
前半25分以降は東京Vの攻撃にさらされることになるが、セットした状態での守備は安定していた。相手中盤のパスコースを切り、奈良輪雄太、若狭大志の両サイドバックのオーバーラップも抑制。東京Vのポゼッションからは大きなピンチは招いていなかった。しかし、異変の足音がはっきりとした音になって迫ってきていた。
同28分、テクニカルエリアの最前線から聞こえてきたのは霜田正浩監督の「下がるな!」の声だった。「プレスに行ってもボールを奪えず、その時間が長いと、やられてもいないのにやられた気になってしまう」と選手たちのメンタルを読み解き、身振り手振りでセンターバックにラインを保つように指示。だが、ずるずるとラインが下がり、崩れたバランスは自陣でのパスミスも誘発した。ミスを拾われてのショートカウンターがピンチになり、GK山田元気の好反応で前半は切り抜けるが、後ろ向きのディフェンスを強いられて体力も自ら削る戦いとなった。
3失点の後半45分間
攻撃的なサッカーを掲げる両チームのゲームが1-0で終わるはずもなく、後半はスコアが大きく動いた。
後半4分、東京Vは左サイドから奈良輪がパスを送ると、小池がDFをかわしてクロスを供給、FWのネマニャ・コイッチが冷静にゴールに送り込んだ。試合序盤は彼らが自由に動けなかったが、後半は流動性に富み、攻撃局面で持ち味を発揮。さらに同26分、左からのコーナーキックに平智広が合わせ、東京Vが試合をひっくり返す。
ホームでは負けられないレノファ。失点直後の同27分、池上を下げて吉濱遼平をピッチに送り込んだ。ポジションは池上がプレーしていたトップ下で、吉濱にとっても慣れた場所。「あの位置でボールを受けたら結果を残せるという自信は持っている。高い位置でボールをもらえれば絶対にやれるというのはある」と3試合ぶりのピッチに気迫十分で入った。
プレーへの自信は結果に直結。吉濱は同30分、佐藤健太郎のパスをペナルティーエリアの左端で受けると、ファーサイドの岸田をターゲットにすぐにクロスを放った。「カズくんとは練習から合ってきていた。目があったのでピンポイントに合わせられるように意識した」。岸田はタイミング良く飛び出して相手DFを置き去りにし、頭でボールを捉えた。ネットを揺らしてレノファが同点に。「吉濱がすごくいいボールを出してくれた」と話した岸田もこれが今季初ゴールとなった。
しかし、試合はこれでは終わらなかった。
後半31分過ぎ、レノファは敵陣に押し込みセンターバックのドストンも上がっていたが、ボールがつながらずカウンターを受けてしまう。ボールを持ち出した小池に対してすぐにドストンが止めに行こうとするが十分にプレッシャーが掛からず、猛然と戻って体を入れたのが前貴之だった。危うく失点という局面で前は確実にボールを止め、レノファのボールとする。だが、このプレーで小池と接触して負傷。一度はプレーに戻ったものの、霜田監督は交代を決断した。
最終ラインでリスク管理できる選手を失ったレノファ。このあとも鋭いカウンターを連続して浴びるが、対応できる選手が不足した。同38分、数的不利の状態のまま再び小池に突破を許すと、厳しい判定ながらPKを献上。これをレアンドロに決められて万事休す。レノファは2-3で敗れ、最低限の成果として得ようとしていた勝ち点1を落としてしまった。
「守備的」にシフトすべきか
敗因を個人に求めることはできない。ただ、攻撃陣が複数得点を決めているだけに、それでいて勝ち点がゼロで終わったのはディフェンスに問題があったと言わざるを得ない。
1失点目はレノファの右サイドでボールを動かされているが、人数自体は足りていた。ただ、センターバックのドストンがつり出されて小池にかわされ、さらにコイッチへのマークが外れてフリーでシュートを打たれている。3失点目につながるところでは逆に人数が不足。カウンターに対して何ら遅らせることはできず、ペナルティーエリア内まで持ち込まれてPKとなった。
2失点目はセットプレーからで、平に頭一つ高い位置からヘディングシュートを放たれた。この失点に関しては平の技術も際立つが、チームとしてのセットプレーでの約束事がきちんと履行できていたか、レビューは必要であろう。
厳しい見方をしなければならないのは、1失点目や試合終盤のカウンターを受けたシーン。センターバックがステイできずに出て行ってしまう場面は、今年何度見ただろう。霜田監督は「無理して飛び込まなくても、3秒遅らせてくれれば味方も戻れる。そういう話もしているが、どうしてもボールを奪いたくなって脚を出してしまう」とした上で、「うちのセンターバックみんなが抱えている問題。守備の個人戦術のようなところは練習で突き詰めていくしかない」と険しく語った。ただ、修正がまだ及んでいないのは明らかで、14試合が過ぎてもこの状態なのは致命的だ。
順位表を見れば、ギリギリで降格圏外の20位だが下位との勝ち点差はない。指揮官は「サッカーの大原則の1対1をやられない、目の前の選手にやられないということをちゃんとできるようになってほしい」と促すが、成長を待っていつまでも低空飛行を続けるわけにもいかない。個人のミスをカバーするようなチーム力に乏しいのも現実の課題だ(「同じ石」につまずいた若さの代償-サッカーダイジェスト)。
チャレンジするサッカーは見応えはある。選手は確かに成長するだろうし、その証左に広島から期限付き移籍した川井歩はU-22日本代表に選出された。しかしリーグ戦の結果は非情で、個人戦術もチーム戦術もレベルを満たさなければ白星は手にできない。ディフェンシブなサッカーが成長を促すとは思えないが、順位が上向くまでは、昨年の停滞期に行ったような3バックへの変更やメンバー選考の見直しなども検討すべきかもしれない。
選手の勝利を目指そうとする覇気は十分に感じ取れた。果敢に前から追っていく岸田や高木は頼もしく、途中からピッチに入った選手も持ち味を生かし、吉濱はゴールをアシストしている。その吉濱は「今日も点は取れているので、みんなで同じ方向を向ければいい方向に行くと思う」と話し、高木は「こんな結果でも応援してくれるサポーターがいる。僕らは絶対に諦めてはいけないし、絶対に気の抜けたプレーはしてはいけない」と熱を込めた。
万策が尽きたわけではなく、選手たちが話すように前に進もうとする意欲が尽きたわけでもない。ただ、苦戦が続く今は結果こそが特効薬。立ち上がる気力があるうちに、ドラスティックな策を打ってでも結果を呼び込みたい。次戦はアウェー戦で、5月25日午後2時から京都市で京都サンガF.C.と対戦する。