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愛猫との死別に「私も連れてって」と闘病中の飼い主が号泣...予期せぬ展開とは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

SNSでは、子犬の初めてのトリミングに行く動画は人気だったりします。ネットの中で、かわいい動画や写真が連日あふれていますね。それらを見た人たちは、コロナ禍の「巣ごもり」もあってペットを求める人が増えています。

ペットフード協会によりますと、2020年10月現在の全国飼育頭数は犬849万匹、猫964万匹で、合計1813万匹もいます。

いまでは、そんなたくさんの犬や猫は、家族の一員といわれています。ペットを飼い始めることは、癒やされるし、楽しいものです。しかし、その一方、愛するペットと別れるときは、凄絶な悲しみに襲われることもあるのです。

今日は、そのような体験を経て、予期せぬ展開になった飼い主の話をご紹介します。

「私も一緒に連れていって」とNさんが叫んだ

提供:Moonlight/イメージマート

飼い主のNさんが、がんになりました。闘病中ずっと傍らで支えてくれたのは、黒猫のクロちゃんだったそうです。Nさんは、がんのために手術もしましたし、抗がん剤治療もしました。治療による倦怠感や吐き気もあったそうです。でも、耐えて治療に専念できたのは、ひとえにクロちゃんの存在があったからです。

Nさんが、元気にならないとクロちゃんが生きていけないですね。どんなに痛みがあろうとも、吐きそうで食べられないときでも、クロちゃんのことを思い出すと頑張れたそうです。そんなNさんが懸命に治療をされた結果、がんの治療は順調にいきました。

退院して、通院をしているとき、クロちゃんの口元に、なにやら、しこりのようなものが出来たそうです。初めは小指大だったのですが、あっという間に親指大になりました。残念ながらクロちゃんは、悪性度の高いがんになってしまったのです。Nさんは、懸命に動物病院に通ったそうですが、あっという間に、亡くなったそうです。Nさんのがんが寛解したのを見届けたように、天国に逝ってしまったとか。

Nさんは、このクロちゃんのために、あんなに辛かったがん治療に耐えたのにそのクロちゃんがいなくなるということは、想像することさえできませんでした。Nさんは、「私も一緒に連れていって」と叫んだと筆者に教えてくれました。

それを見た周りの人が「なにを言ってるの。クロちゃんが、Nさんのがんを全部持ってあちらに逝ってくれたんや」と説得したそうです。

それでもしばらくは、Nさんは、食事もすることもできず、クロちゃんのことを思い続けていたのです。

Nさんが猫の保護施設に通う日々

写真:PantherMedia/イメージマート

Nさんは、小さい頃から、ずっと猫と暮らしていました。猫がいない生活を送ったことがなかったのです。クロちゃんが亡くなったからといって、すぐに猫を迎えることはとてもできません。いわゆる強いペットロスになってしまったのです。人によってペットを亡くした悲しみの深さは、もちろん違います。愛した猫が、この世からいなくなることをなかなか受け止められずにいました。猫を見たくないけれど、やっぱり猫が見たい。そんな矛盾した気持ちをNさんは、持っていたそうです。

それで、猫の保護施設に通うようになりました。Nさんは、がんの治療の後ということもありそんなに積極的なこともできないので、もっぱら、保護猫と遊ぶことをされたそうです。Nさんは「施設には、保護猫がいっぱいいるんですよ。みなさんは、お忙しいそうですね。私は、たいしたことではないですが、ネコジャラシで猫たちと遊んでいました」と教えてくださいました。

そんな生活をしていると、Nさんは、「ああ、もう、この子、もうじきあちらに逝くよねと思う猫が、いること」に、気が付いたそうです。それで、看取り専門の覚悟で、クロちゃんと暮らした自宅に1匹の猫を連れて帰りました。その猫は、自宅に連れて帰って、すぐに亡くなったということです。

その次に、クロちゃんと同じ黒猫を連れて帰りました。その猫が予期せぬ展開を見せてくれたのです。

看取りのはずの黒猫が...

現在通院中のクララちゃん 撮影筆者
現在通院中のクララちゃん 撮影筆者

2匹目の看取りのつもりで連れて帰ったクララちゃんは、筆者の動物病院に連れてこられました。初めは、クララちゃんは、おどおどしていて、触られるのは嫌いというオーラを出している痩せた子でした。口の回りは、よだれで濡れているし、前肢も口が痛いので触るためか、よだれでカピカピになり、毛が固まっていました。そして、倦怠感や痛みのために厳しい目をしていました。

筆者は、そんなクララちゃんを見て、治療に時間もお金もかかるなと思いました。最悪の場合は、助けることもできない可能性もありました。

まずは、口腔内の治療で、クララちゃんが、自分で食事を取れるようにしました。猫の場合は、口腔内のトラブルが犬より多いです。以下のような伝染病を持っている可能性があるからです。

□ FIV(いわゆる猫エイズ)

□ FeLV(猫白血病ウイルス感染症)

□ FCV(猫カリシウイルス感染症)

クララちゃんは、FIVとFeLVは持っていなく、FCVだけだったので治療したら、よだれはとまり自分で食事が取れるようになりました。初めて見たときのクララちゃんとは、別の猫のようになり、ふっくらした顔になりました。もちろん、前肢の毛にもよだれなどはついていません。

クララちゃんの口内炎などの口腔内のトラブルはよくなりましたが、残念ながら、慢性腎不全は治りませんでした。クララちゃんが、自分で水を飲めるようになったので、腎臓の血液検査の値、BUNやCREなどの値は少し改善されましたが、これからも内服薬や皮下点滴などで、しっかりコントロールする必要がある状態なのです。

それでもNさんは、看取りでクララちゃんを連れてきたので、文字通り涙が出るほど嬉しかったそうです。「クララが、こんなによくなり、そしてこんなに長生きにできるとは思っていませんでした。亡くなったクロが、このように導いてくれたのでしょうね」とNさんは、話してくださいました。Nさんは、クララちゃんと暮らして元がん患者とは思えないほどの回復ぶりで、いつも大きな笑い声でお喋りをしてくださいます。

クララちゃんは、定期的に筆者の病院に来ますが、堂々としたもので「私は愛されています」と風格を漂わせています。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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