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有権者(2)…政治・政策リテラシー講座26

鈴木崇弘政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

先の拙記事「有権者(2)…政治・政策リテラシー講座25」では、そもそも論として有権者は何か、有権者の有する選挙権などについて考えました。

本記事では、有権者というものをもう少し別の角度から考えてみましょう。

私たち有権者は、自分の政治的代表である議員(あるいは候補者ここでは、話を簡単にするために国会議員だけを考えましょう!)とどのような関係にあるのでしょうか。

その関係は、最も単純でかつ極端な言い方をすれば、「政策」という商品・製品やサービスを通して、それを売る者と買う者の関係に似ています。森川友義早稲田大学教授は、「国会議員と有権者の関係は、八百屋さんとお客さんの関係と同じ!」であると表現しています。

確かに、国会議員・候補者なり、その集まりである政党は各々、自分たちを選挙で選んでくれて、政権を獲得できれば、「これこれの政策を実現します」といって売り込み、有権者の票を獲得するために、競っているわけです。つまり、議員・候補者や政党は、政策という商品などを売るために競争し合っているのです。

これに対して、有権者は、複数の候補者や政党を比べて、「そうか、これこれの政策を実現してくれるのか」なら、この候補者(あるいは国会議員)なりこの政党を選ぼうということで投票するのです。つまり有権者は、商品である政策を比較し、選択しているわけです。

そして、選ばれた者や政党は、その商品・製品やサービスである政策を実現しようとするのです。これは正に「市場」のようなものです(注1)。

しかしながら、「政策」と「市場」にある商品・製品やサービスとでは、いくつかの点で異なります。それらは大きくわけると、政策の面からと有権者の面から考えることができます。

まず政策の面からみていきましょう。

(1)政策(つまり議員・候補者や政党)の面から…「政策」の生産者あるいは供給面

まず、商品である「政策」は、それが売られるとき(選挙の時)、既に存在しているものではありません。またその売られた「政策」は必ずしも実現するとは限りません。社会や経済の状況あるいは世界情勢などによって、どんなに努力しても、その「政策」を実現できないこともあるのです。

実際に、2009年に政権交代を果たした民主党は、政策マニュフェスト(選挙の際に政党が掲げる政権公約のことです)で主張し、売込んだ多くの政策を実現することはできませんでした。そのことは、私たちの記憶に新しいですと思います。

また、「政策」がどの程度実現したのかあるいはしないのか、それを評価するのは、商品の購入のように簡単ではありません。そして、「政策」の実現には、時間がかかりますので、その政策実現の評価はさらに難しくなります。それらのために、客観的に評価するのはかなり困難です。しかも、それらのために、有権者は、だまされることもあるわけです。

そして、有権者は、「政策」で議員・候補者や政党などを選ぶといっても、その政策は1つでありません。選挙で提示されるのは、さまざまな政策のパッケージ、集合体です。有権者が、それらすべての政策を正確かつ的確に判断することはほぼ不可能です。

また、有権者全体が選んだ議員なり政党は、それらにいくら問題があっても、次の選挙まで返品も交換することもできません。そして有権者個々人からすると、自分が選択していない議員や政党が自分の意に反する政策などを採用することもありますし、たとえ選んだ議員や政党でも、自分の意に反する政策を採用することもあるわけです。

さらに、日本でも政権交代が起きるようになってきましたが(注2)、日本政治では政権交代が有効に機能するような経験の蓄積が十分でなく、政党間の競争がまだまだ十分に機能していないとはいえないのです。

次に、有権者の面からみていきましょう。

(2)有権者の面から…「政策」の消費者あるいは需要の面

有権者は、本来は「政策」の消費者なのですが、(1)でも述べたようなことのために、その効果や影響をなかなか実感できないので、「政策」を自分の購入物と実感できにくいのです。このために、選挙で議員・候補者や政党を選択する場合に、真剣に考えないことも多いのです。

また、選挙の結果は多数で決まりますので、自分1人の投票の意味や役割を感じにくいのです。このため、時間をかけてまで選挙に行く必要がないと考えて選挙に行かないことも多いのです(注3)。

さらに、議員・候補者や政党を選択する場合には、一つの政策で選択できるわけではなく、政策のパッケージ全体を考えないといけません。しかし、政策の多くは理解するのが難しかったり、そもそも評価しにくいという現実があります。そこで、有権者は、政策ではなく、議員や候補者の人柄や考え方で、誰に投票するかを決めることもあります。また多くの有権者は、議員や候補者の人柄や考え方に接することもできないという現実もあり、極端にいえば容姿や雰囲気だけで決めることもあります。そのような判断をするのも面倒ということで、投票に行かない方も多いのです。

以上にみてきましたように、有権者と議員などとの関係をめぐっては、なかなか難しい問題や課題が存在しているわけです。そこでは、経済においては、それなりに機能しているといわれる「市場原理」(注4)のようなものが、必ずしも働いていないのです。

このために、有権者にとって、政策や政治が非常にわかりづらく、面倒なものにみえてしまうので、それらに距離感を感じてしまうわけです。他方で、民主主義をとっている限り、有権者が政治や政策に関心をもち、少しでもより的確な判断をしていかないと、有権者自身が最終的に不利益を被りかねないのです。

このように考えていくと、民主主義という政治制度は、有権者そして国民に多くの権利や権限を提供していますが、反面においてその負担や責任も大きいことももっと自覚しないといけないのです。

民主主義は、最終的に正に有権者・国民の問題なのです。

(注1) このことは、拙記事「政策市場ってなんだ?!…政治・政策リテラシー講座21」にも繋がります。

(注2) 政権交代は、戦後では、1993年、2009年、2012年の3回起きてきています。

(注3)有権者の一票がいかに重要かを知るために、映画『チョイス(原題は、”Swing Vote”)』が参考になります。

(注4)市場原理とは、次のように定義されています。

「市場がさまざまな過不足やアンバランスを自ら調整し最適化する仕組みや機能。商品の価格、需要と供給、労働市場などさまざまな場面で、多くの市場参加者が自己利益を追求することで働くとされる。神の見えざる手。見えざる手。→神の見えざる手」(出典:デジタル大辞典)

【参考文献】

・『若者は、選挙に行かないせいで、4000万円損をしている!?…35歳くらいまでの政治リテラシー養成講座』森川友義著 ディスカヴァー携書 2009年

・『生き延びるための政治学』森川友義 弘文堂 2012年

・『ニッポンの変え方おしえます…はじめての立法レッスン』高橋洋一監修・政策工房著 春秋社 2013年

政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。新医療領域実装研究会理事等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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