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政策市場ってなんだ?!…政治・政策リテラシー講座21

鈴木崇弘政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

日本ではあまりなじみがないが、「政策市場」という考え方がある。これは、経済における市場と同じように、政策に関わる「市場」のようなものが存在するという考え方である。

「世界大百科事典 第2版」によれば、「市場」とは、「多くの人々が一堂に会し,財を売り買いする場所」が元の意味であり、「そこでは需要と供給が出合い,財の価格,売買される量をめぐって,需給のあいだの競争を含む相互作用が演じられる」わけである。「しかし近代産業社会(市場社会とも資本主義社会ともいう)の出現にともない,市場は,場所という具体性をもたなくなり,競争の要素を強くもつ売り買いの制度全体をさす」ようになってきているという。

このような「市場」の考え方を、政策をめぐる活動やプロセスを含む場に適用したのが、「政策市場」である。では、「市場」と「政策市場」は、「政策」の面を除くと、全く同じものなのだろうか。

「政策市場」も、「多くの人々(政策に関わるプレーヤー)が一堂に会し、政策(案)の売り買いする場(具体的な場所というより、政策をめぐるコミュニティなり、政策形成のプロセスを指す)」であり、「市場」と変わらない。そこは、政策を求める(需要)者と政策案を作成・提供する(供給)者が出会いの場となる。これに関しては、下図「米国の政策(研究)市場」をみていただきたい。これは米国にあける政策に関わるさまざまなプレヤーとその関係性を簡単に図式化したものです。「政策市場」の大まかなイメージがつかめると思います。

しかしながら、一般の市場では、需要者と供給者の間に直接的な金銭を媒介とした商品・製品やサービスの交換があります。他方、「政策市場」の場合には、政策の需要者(政策を必要とする者)が、必ずしも政策の価格を直接的に供給者(政策(案)など作成し、提供する者)に支払うとは限らないのである。また、その政策案が、ボランティア的に作成されたりすることもあれば、政府や議会などが、資金などを提供することなく、社会的に議論されていることや専門家が作成した政策案などを採用して、政策にしてしまうこともある。

要は、需要者や供給者は存在していますが、両者間の金銭と「政策(案)」の直接の交換のこともありますが、金銭の授受がなかったりする場合もあります。また両者間の直接的な金銭授受でなく、場合によっては別の者(たとえば、社会的な活動などに資金を提供する助成財団など)が資金提供をして活動が支えら、政策(案)が提供されるようなこともあるのです。

そして、「市場」の場合は、供給者から商品・サービスなどを購入した者(需要者)が、その効用を享受することになります。しかし、「政策市場」の場合は、その政策(案)などが実際の政策になり施行された場合には、その最終的効用は、国民なり住民などが得ることになります。この場合、国民・住民は、最終的な政策の需要者ともいえますが、一義的な政策の需要者は政府や議会となります。その場合、政策(案)の供給者は、一般的にシンクタンクや政策専門家などになります。また、政府や議会自身が政策(案)を作成、供給する政策(案)の供給者になり、その成果を需要者として活用することもあるのです。

また、先述したように、「市場」では、「需給のあいだの競争を含む相互作用が演じられる」のですが、「政策市場」においても、同様に需給のあいだの競争が存在します。それは、下図のように政策(案)の需要者も供給者も多種多様に存在していて、供給者同士は、お互いに自分の政策(案)を実現するために競争していますし、需要者同士は、社会をより良くして国民・住民からの支持を得るために競争しているからです。特に日本では、政策づくりは官僚・行政中心に行われるためにある意味で「競争」がなく、政策を巡っての競争という視点や観点が希薄あるいは欠落しています。

このように考えると、「政策市場」は、一般の「市場」とは似ている部分も多々ありますが、異なっている面もあるわけです。それは、政策という社会やパブリックに関わる問題や事柄を扱っている場であるために、狭い意味での経済合理性(注)だけで動くわけではないからです。しかも、国民・住民の価値観や感情という主観的で心理的な問題にも関わってくるからだろうと考えことができます。

この「政策市場」という考え方は、抽象的で、なかなかわかりにくい考え方や問題ですね。また日本ではどうしても、政策や政治およびそれらに関わる制度の問題は、国会や省庁の役所のだけのものと考えがちです。

しかしながら、この「政策市場」という観点からそれらの問題を考えていくと、より大きな視点から問題の本質をとらえることができ、より根本的な問題解決が得られとも考えることができます。

皆さんも、ぜひ一度考えてみてください。

米国の政策(研究)市場
米国の政策(研究)市場

(注)経済合理性とは、デジタル大辞泉によれば、「経済的な価値基準に沿って論理的に判断した場合に、利益があると考えられる性質・状態」のことです。

政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。新医療領域実装研究会理事等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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