トヨタ、ホンダ、GMを訴えた「米特許管理会社」とは?
「トヨタやホンダを米特許管理会社が提訴、つながる車で-報道」というニュースがありました。知財関係者であれば、この見出しを見ただけで、「米特許管理会社」というのがどこなのかは察しが付くと思いますが、やはり、Intellectual Ventures(IV)でした。
IVについてはWikipediaの記載が比較的正確だと思います(日本語版も英語版もほぼ同じです)。IVを「パテント・トロール」(特許ゴロ)とみなす人もいるようですが、自分の認識では、力がありすぎてやっかいなPAE(Patent Assertion Entity:特許権行使主体)という感じです。
IVの基本的ビジネスモデルは、企業や個人発明家から特許を大量に買い集め、バンドルして権利行使することでライセンス収益を得ることです。個人発明家の支援や自社内での研究開発活動もやってはいます(拙訳『オープン・ビジネス・モデル』では、知財を活用したビジネスモデルの一例として、IVを優秀な科学者を結集した発明企業として紹介されていました)が、カモフラージュに過ぎないと考える人が多いようです。
PACER(Public Access to Court Electronic Records)で調べると、2021年10月19日付けで、トヨタ、ホンダ、GMをテキサス州西部地区連邦地裁で提訴していました。損害賠償請求金額の議論はこれからです。差し止めは請求されていません(そもそも、米国では訴えた側が特許発明を実業で使用していないと差し止めはほぼ認められません)。特許権のライセンスにより和解で解決される可能性が高いと思います。
使用されている特許の番号は、以下のとおりです。対トヨタと対ホンダでちょっとだけ違います(その点、侵害論おかまいなしで手当たり次第に訴訟してくる「チンピラ・トロール」とはちょっと違います)。対GMの訴訟についてはまだ訴状が公開されていません。これらの特許の中で興味深いものがあれば、別途解説記事を書く予定です。
6,832,283
7,382,771
7,684,318
7,484,008(トヨタのみ)
7,891,004(ホンダのみ)
8,811,356
8,953,641
9,232,158
9,291,475
9,602,608
9,681,466
10,292,138
ざっと見た限りでは、車載インフォテインメント・システム(トヨタのEntune、ホンダのHondalink)関連の特許です。元々の権利者は様々です。
ノキア対ダイムラー、シャープ対ダイムラー、ファーウェイ対VW等、情報通信技術関連企業が、自動車メーカーを特許権侵害で訴えるというパターンが続いていることを考えると、当然予想された動きです。ここで、重要な点は、自動車産業内で閉じた話でなく異業種からの訴訟である点(IoT時代にはこのようなケースが増えるであろうというのは大部前から予測されていました)、そして、部品メーカーや車載機器メーカーではなく、最終製品である自動車のメーカーが訴えられている(ファーウェイのケースは違いますが)という点です。この動向はIoT進展に伴う必然的なものであり、今後しばらく続くであろうと考えます。基本的には企業間の金目の問題(ライセンス料)として解決されるものなので、エンドユーザーが迷惑を被ることはないでしょう。