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憲法をめぐる集会に最近頻繁に足を運んでいます

篠田博之月刊『創』編集長

憲法をめぐるシンンポジウムや集会にこのところ頻繁に足を運んでいます。4月25日夜には「立憲デモクラシーの会」の法政大のシンポジウムに行きました。300人収容の教室が満席で同規模の第2教室にネット中継するという盛況ぶりでした。憲法問題についての市民の関心は高まっています。

言論やメディアに関わる者にとっても今は戦後の結節点とも言える正念場です。筑紫哲也さんや井上ひさしさんといった、存命であれば先頭に立っていたはずの言論人が亡くなっている現状で、このところ「自分がやらねば」という覚悟を感じさせるのは鳥越俊太郎さんです。2013年暮れの特定秘密保護法反対運動にも積極的に関わっていましたが、4月22日の集会での鳥越さんの発言も、戦争を知っている世代としてのこの状況には声を挙げないわけにはいかないという「覚悟」や「気迫」が感じられました。

この間の集会のなかで興味深かったのは、4月18日の「立憲デモクラシーの会」の発足会見でした。25日の同会のシンンポジウムは、学者が市民に説明する勉強会といった趣でしたが、発足会見の方は、この運動に関わる学者の方々が「自分はなぜ関わることにしたのか」意思表明をした場でした。これまでこういう運動に参加したことはなかったという方が何人もいて、その決意表明がなかなか興味深いものでした。

ひととおり発言がなされた後、会場の記者席との質疑応答がなされたのですが、「あなたたちが大学で教えている学生たちが今は保守化していると言われるが、その若い人たちにどう訴えていくのか」などというツッコミが次々と入りました。

フリージャーナリストの田中龍作さんも、例のごとくやや挑発的に「昨年の特定秘密保護法も結局は成立したし、今回もこのままだと閣議決定されてしまうでしょう。そういうなかでどう運動を展開しようと考えているのか」と質問しました。

それに対して、会の共同代表の山口二郎法政大教授が「それは敗北主義ですよ」と反論。さらに他の学者からも「自分は今回参加したが、秘密保護法の時には運動に加わらなかった。個々のケースで自分なりに考えて行動しているのであって、秘密保護法反対も今回も同じというような意見は乱暴だ」と反論がなされました。

シンポジウムだと登壇者の発言を拝聴して終わりという進行が多いのですが、この時は発足の記者会見ということで、記者席から多くの質問がなされ、ある種の議論がなされたのでした。学者や大学教授が、自分がこういう運動に参加することの意味や心情を率直に語ったというのも新鮮でした。

それともうひとつ興味深かったのは、学者の方々が今回、反対運動に立ち上がった立脚点である「立憲デモクラシー」という概念について、いろいろやりとりがなされたことでした。従来の「護憲か改憲か」という枠組みではないのが新しい点で、例えばこの会には改憲論者の小林節慶応大教授も参加しています(記者会見には参加しませんでしたが)。安倍政権が立憲主義を否定していることに反対するというのが一致点なわけですが、例えば集団的自衛権については、小林教授は積極的賛成論で、それを解釈改憲でなく憲法改正でやるべきだ、という主張です。

そこだけ見ると、この会は呉越同舟に見えますが、立憲主義と民主主義を重ねた「立憲デモクラシー」という概念を提示し、それに賛同する広い戦線を作っていこうというこの会の方針は、議論の進め方としてもわかりやすいと思います。安倍政権のやろうとしていることは「改憲」というより「壊憲」なのだ、という説明もなされました。民主主義を標榜して立憲主義を破壊したという意味ではヒトラーのやったことと同じだとも言われました。

この間の安倍政権の暴走ぶりには多くの国民が危惧を表明しているのですが、憲法をめぐる議論は複雑で、例えば世論調査も少し質問の仕方を変えるだけで結果が変わってきます。そのなかで「護憲か改憲か」という従来の枠組みと異なるテーマ設定をしたという点で、「立憲デモクラシーの会」の運動はいろいろ参考になりました。安倍政権のやっていることを「改憲」でなく「壊憲」と表現したのもわかりやすいと思います。同会のホームページは下記です。

http://constitutionaldemocracyjapan.tumblr.com/

ついでに、私がこの間、参加したり関わった集会や主催団体も紹介しておきます。

与党が絶対多数を制する国会でも、何とか野党勢力を結集しようと、いろいろな動きがあります。社民党の福島みずほさんらが超党派で呼び掛けている「集団的自衛権を考える超党派の議員と市民の勉強会」は既に6回も議員会館で開催されています。また、民主党議員らを中心にした「立憲フォーラム」も勉強会や集会を開いています。

前述した鳥越さんの発言がなされたのは「新外交イニシアティブ(ND)」という団体のシンポジウムです。

http://www.nd-initiative.org/

市民の集まりとしては「許すな!憲法改悪 市民連絡会議」などがあります。

http://web-saiyuki.net/kenpoh/

そのほか、日弁連のなかに憲法委員会があるし、有志でなど作っている「明日の自由を守る若手弁護士の会」も活動しています。また日本ペンクラブも2013年の「憲法96条改正反対」の声明を機に憲法問題に取り組みを開始し、連続で集会を行おうということになっており、そのプロジェクトチームの事務局長を私が務めています。憲法記念日を前後してこれからさらに多くの集会が開催されると思います。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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