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9月1日と子ども若者の自殺、不登校

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
過去40年の18歳以下の日別自殺者数(自殺対策白書)

■9月1日の危険性

子ども若者の自殺は、私たちに大きな衝撃を与えます。過去40年間の統計によれば、子ども若者は9月1日に最も多く自殺しています。グラフを見ると、夏休み中の自殺は少なく学校が始まる前後に自殺が増加しています。かつては、多くの学校で9月1日が始業式でしたから、この夏休み明けの日の自殺が突出して多くなっています。

今年も、たとえば新潟市で夏休み明け最初の登校日(8/26)に高校1年生の女子生徒が自殺とみられる転落死をしています。今のところ、いじめなど学校内の大きな問題があったとの報道はありません。

統計的な調査によれば、子ども若者の自殺で学校が関連する背景としては、進路問題:12%、不登校や不登校傾向:10%、いじめ:2%です(

文部科学省:有識者会議)。

■休み明けの危険性

日別自殺者数のグラフを見ると、夏休み明けの他に、冬休み明け、春休み明け、ゴールデンウイーク明けの自殺増加が見られます。どうしても学校に行きたくない理由のある子ども若者もいたことでしょう。あるいは、そのような特別な理由がなくても、学校に行くエネルギーを失っていた子どももいたでしょう。

長期休み明けは、不登校も増えやすい時期です。

また、曜日別自殺者数の統計を見ると、土日の自殺は少なく、月曜日の自殺が増えています(曜日別自殺者数グラフ:法務省)。休み明けは、要注意です。

■疲れとエネルギー

人はがんばれば疲れます。疲れたら、休むことも必要です。休むことで元気になるのが普通です。大人や青年の自殺の背景にうつ病があることも多いのですが、うつは休息を取ることがとても大切です。

でも、一般に心はただ休めば元気になるものではありません。不登校や自殺が、単に心の疲労のせいだとするなら、長期休みによって元気になるはずです。ところが、長期休み明けに自殺や不登校は増えます。

荷物を動かす時には、動かし始めが一番力が必要なように、行動も動き始めに最もエネルギーが必要です。歯医者に行くのも、最初の1回めが一番心が重く、2回め3回めと通うのは、比較的スムーズでしょう。

長期休み明けに学校に行くのには、大きな心のエネルギーが必要です。そのエネルギーが足りないことで、学校へ行けなくなる人がいます。学校へ行けない辛さから、死を考える人もいます。

心のエネルギーは、物質とは違い、時には使えば使うほど増えるものです。やりがいのある活動、充実した時間を過ごした後は、体は疲れても心は元気になることでしょう。

長期の休みで、登校へのプレッシャーからは逃れても、充実した休みを過ごせず、将来への不安が解決しないままでは、心のエネルギーはたまらず、再登校への大きなエネルギーが出ないのです。

■子ども若者の自殺

子ども若者の自殺は、大人の自殺以上に予測が難しいものです。幼い子どもほど、小さな理由で、衝動的に自殺してしまうことがあります。子どもは死の意味をよく理解していないからです。若者になると、悩んで自殺します。それでも、病気でもなくお金も家族もあって、大人から見れば前途洋々のはずの青年が自殺してしまいます。

青年たちの「死にたい」は、実は「幸せになりたい」なのです。でも、その方法がわかりません。絶望感と孤独感に心が押しつぶされると、若者は死を考え始めます。

■自殺と不登校

自殺を考える人は、死ぬしかないと思い込みます(心理的視野狭窄)。しかし実際は、もっと多くの方法があります。不登校もその一つです。不登校の児童生徒は、不登校という方法で、人生の困難と戦っているのです。

不登校生徒の中には、不登校によって人生は終わったと思っている人もいますが、そんなことはありません。しばらく学校に行かなくても、いくらでも幸せになる方法はあります。

自殺以外にも、問題解決の方法はあります。大人たちも、無力で無関心な人ばかりであはりません。困っている子ども若者を助けてくれる大人も必ずいます。

もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所に図書館も思い出してね。

出典:鎌倉市立図書館のツイート

不登校の子どもたちの中には、平日平間は外出できないと思っている人もいますが、そんなことはありませんよ。

■子どもたちに心の元気を

子どもが元気な時には、励まして宿題をさせ、学校へ送り出すことが必要です。でも、すっかり元気をなくしている時には、「学校に行かなくても良い」と伝えることが必要な時もあります。

ただし、みんなに不登校を勧めているわけではありません。不登校も引きこもりも、自殺を考えている子ども若者さえも、彼らは本当は人生を輝かせたいと願っています。本当は、学校に楽しく通いたい、進学や就職をしたいと願っている子ども若者がほとんどです。その本心の願いを、大人が支援したいと思います。

子どもの心を元気にするために、まず大人が元気になりましょう。人生つまらないと嘆いてばかりいる大人に囲まれて、子どもはどのように元気を出したら良いでしょう。

子どもに休息を与えるとともに、チャレンジフルな目標を与えましょう。秋は、様々な学校行事があります。不安を感じている児童生徒もいます。大人がしっかりと支え、チャレンジさせていくことで、心のエネルギーはどんどん増えていくのです。

*「学校を休んで図書館へいらっしゃい」への批判について

この図書館のツイートに対して、批判もありました。それは、不登校を増やすという批判よりも、自殺を増やすという批判でした。この記事(鎌倉市教委、図書館ツイート削除を検討 理由は「不登校を助長する」からではなかった)に関連して、下記のようなオーサーコメントを書きました。

自殺予防活動に対して、「死」や「自殺」という言葉自体がけしからんとする意見、今もあるようですね。かつては、そのような「寝た子を起こすな」という意見が主流でした。

しかし、自殺予防の研究からは、むしろしっかり話題に出して積極的予防活動をすることが効果的だとされています。日本でも、自殺対策基本法が出来てから、自殺予防活動への認識もずいぶん変わってはきています。以前なら問題にされかねなかったクラス担任による自殺予防の話なども、今なら日常的に行われています。

このツイートは、自殺も不登校も助長しないと思います。良いツイートだと思います。ただ、危機的状況の子には適切でも、不特定多数の子に対してはどうなのかは、議論になることもあるでしょう。予防活動を行う人は、予防活動が持つトゲの部分の自覚も必要だとは思います。

(碓井真史 2015/08/29)

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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