いじめによる自殺を防ぐ具体的方法
■「いじめ自殺」?
岩手県矢巾(やはば)町の中学2年の男子生徒(13)が、いじめを苦に自殺したのではないかと報道されています。詳細は不明ですが、昨年春から、生徒と先生がやり取りする「生活記録ノート」のいじめられていることを書き始めたようです。
父親は学校に相談に、関係者らによる話し合いの場も持たれました。しかし、その後もいじめはとまらず、生活記録ノートには、「死にたい」「死に場所は決まった」といったことが書かれるようになっていました。
この間、教育委員会にはいじめは0と報告されています。また、校長はいじめの事実を知らなかったと語っています。
■「いじめられている」と言われたら
担任でも、スクールカウンセラーでも、親でも、「いじめられている」と言われたら、まず「絶対に守る」と伝えることが大切だと思います。いじめ問題の解決は難しいなどと、いじめられている子の前で大人が言うべきではありません。いじめられる側の責任など、もってのほかです。
「やりかえせ」もダメです。簡単にやりかえせなどできません。「なぜもっと早く言わなかった」もダメです。これでは、いじめ被害者を責めることになります。
かわいそうと同情すれば良いわけでもありません。同情しすぎると、かえって惨めで小さな存在だと自分を感じてしまうことがるからです。
優しい言葉は必要ですが、優しい言葉だけでは不十分です。いじめらてきた苦しみに共感しつつ、勇気を与えます。よく頑張ってきた、えらい! よく決断して言いに来てくれた、君は勇気があると伝えましょう。そして、「絶対に守る」「しかえしなど絶対させない」と力強く宣言することが必要だと思います。もちろん、言葉だけではなく、学校全体で、被害者を守らなければなりません。
指導力ある学校であれば、迅速に事実確認が行われます。そして、いじめ加害者を反省させ、謝罪させるように指導します。ただし、いじめっ子を叱ることに注意を向けすぎて、被害者の心のケアを忘れてはいけません。
■「死にたい」と言われたら
生活記録ノートなどに、「死にたい」「消えたい」「遠くへ行きたい」といった、自殺の予告、自殺のほのめかしがあったことを担任が見つけた場合は、まず迷わず管理職に報告です。担任が一人で責任を背負いこんではいけません。担任だけで、本気ではないだろうと安易に判断してはいけません。スクールカウンセラーも、報告を受けるべきです。
「死にたい」と言われた時の基本は、一人で背負わず、情報を共有すること。そして、「無視せず、大騒ぎもせず」が基本です。
どんな思いで「死にたい」と書いたのかは、最初はわかりません。しかし、何かのSOSサインです。決して無視せず、軽く扱わず、しっかり受け止めましょう。
しかし、大騒ぎしすぎてもいけません。何気なく書いた言葉に周囲が過剰反応すると、本人が戸惑ってしまいますし、この後、本音で書けなくなってしまいます。大人たちの誠実で冷静な対応が求められます。
せっかくサインを出してくれたのですから、個別面談が基本です。大騒ぎはしませんが、「どうした?」「何かあったか?」とていねいに聞きましょう。死にたい人には、正論も説教もあまり効果はありません。
ケースバイケースですが、場合によっては、スクールカウンセラーが自殺の本気度を調べることもあります。切迫した自殺への思いがある場合には、医療につなげる必要もあります。
ただし、多くは今すぐでも死にたいのではなく、死にたい気分であり、死にたいほど辛いことをわかってほしい思いです。だからといって、安心しすぎてもいけません。よく話を聞き、注意深く見守り続けなくてはなりません。
■親として、我が子がいじめられたら
親として、子どもに共感する必要があります。しかし、子どもと一緒に泣くだけではいけません。絶対に守るという強い親になる必要があります。
大切なことは、学校との協力体制です。先生がわかってくれない、動いてくれないと嘆く親もいますが、担任がだめなら副担、副担がだめなら学年主任、教頭、校長、スクールカウンセラー、養護教諭、誰でもいいので、本気で話を聞いてくれる人を見つけましょう。
子どもが感じている苦しみを、学校に理解してもらわなければなりません。学校の教職員全員が、話を聞かず、ただ保身に走るとは、私は考えにくいと思います。
たしかに腰の重い学校はあります。指導力が落ちている学校もあります。親の本気度を示しましょう。夫婦で校長に会うのも良いでしょう。それでもだめなら、教育委委員会に相談するのも良いと思います。
いじめや自殺の問題は、子どもの人生がかかっています。本気で、力強く、迅速に動きましょう。
■子どもの自殺を防ぐために
子どもの自殺の特徴は、衝動的であることです。青年期のように長く悩むことなく、小さなきっかけで突然自殺することがあります。自殺を防ぐためには、まず普段からの人間関係が大切です。あなたはかけがえのない子どもだと伝え続けましょう。
子どもの心に不安定さを感じたり、いつもとは違う様子を感じたら、一声かけましょう。自殺のサインは簡単にはわからりません。子どもの言動が理解できず、自殺を考えているのかどうかわからないのが普通です。いきなり、自殺するなと言うのも変です。けれど、何でもいいので一声かけましょう。
一声かけて、さらにもう一声かけましょう。命の大切さといった説教でなくてもかまいません。世間話でOKです。おしゃべりし、しばらく一緒に時間を過ごすことで、今日の自殺を防げるかもしれません。ともかく1日伸ばしすることで、死にたい思いの波を超えることができます。
■子どもたちへの教育
子どもが自殺した時に、大人たちは突然のことでおどろきます。ところが、子どもたちは「やっぱり」と感じることもあります。子どもたちは、その子から自殺に関する話を聞いていることも多いのです。
友達から死にたい思いを聞いた時には、大人に話そうと、事前に教えておきましょう。それは、友達への裏切りではないと教えましょう。友人の命を守ることが何よりも大切だと伝えましょう。
う
いじめを大人に話すのも、決してチクリではないと教えましょう。いじめや自殺に関することを大人に話すことは、勇気ある正義の行為だとおしえましょう。
■報道と私たちとネット
いじめが絡んでいる自殺を、単純に「いじめ自殺」としてしまうことは、いじめによる自殺を増やす可能性があります。いじめ関連の自殺は、大きく報道されますが、その報道の嵐の中で不安定になっている子どもがいます。センセーショナルな自殺報道は、次の自殺の連鎖を生む危険性があるとしりましょう。
私たちが、安易に自殺者にど同情することも、場合によっては自殺の連鎖を生みます。自殺したからみんなに理解され愛されると思わせてはいけません。一方、自殺した人を安易に責めてはいけません。このような社会の態度も、いじめられている子の心を痛めます。
いじめ加害者が悪いことをいたのはもちろんですが、大人たちが安易に責めたてることも、逆効果です。いじめ加害者にも指導が必要であり、場合によっては、警察の介入が必要なこともあります。
しかし、たとえばネットで個人情報をさらし、必要以上に罵倒するような態度はどうでしょう。少年法は間違っている、俺は正義の行動をとっていると主張する人もいます。しかし、クラスの中でいじめを行っている人も同じようなことを言います。あいつがのろまだ、クラスの決まりを破った、俺は正しいことをしていると言いながら、しばしばいじめが起きます。
いじめが起きやすいクラス担任のタイプは、まず力のない担任です。これでは、いじめたい子どもがいじめ放題です。そしてもう一つのタイプが、高圧的なタイプです。生徒を力で押しつぶすような指導をすると、子どもたちもまねをして、弱肉強食のようないじめクラスが出来上がってしまいます。
また、大人たちが生きる意欲を失っている社会の中で、子どもの自殺も起こりやすくなります。大人自身が、充実した人生を送っていることが大切です。
いじめ防止も、自殺予防も、クラス担任が、大人である私たちが、手本となる姿勢を示さなければならないでしょう。