北朝鮮「偵察衛星試験」画像のGoogleマップ転用説は誤報
北朝鮮が12月18日に発射した飛翔体は、翌12月19日の公式説明で「軍事偵察衛星の試験品を打ち上げ」とされています。この時に発表された地上を撮影した画像について、日本防衛省は以下のような分析を行いました。
しかし実際に発表された写真とGoogleマップを見比べてみると、転用した可能性があるようには見えませんでした。発表された写真は地形から韓国のソウルと仁川でしたが、仁川の埋め立て地の様子が全く違うのです。明らかに北朝鮮発表写真の方が埋め立てが進んでいる状態です。
韓国・仁川(インチョン)の埋め立て地を比較
左:北朝鮮撮影、右:Googleマップ
- 地図座標:37.350214, 126.632663
北朝鮮発表写真(2022年12月18日撮影と自称)の方が現在のGoogleマップ(撮影日不明、2022年12月20日に参照)より明らかに新しい状況です。Googleアースでは過去の撮影日も参照できるので確認すると、現在のGoogleマップに反映されている写真と合致する状況は2018年12月~2020年11月ごろのものだと絞り込めました。
北朝鮮がGoogle地図サービス関連から写真を転用した形跡はありません。今回の北朝鮮発表写真は自称の通り2022年12月18日撮影だと思われます。
韓国ソウルに本社に置く北朝鮮専門媒体NKニュースの上級分析特派員Colin Zwirko氏によると、民間衛星サービスのプラネット・ラボと欧州宇宙機関ESAのセンチネル2の最新の衛星撮影写真から、仁川の海岸付近の降雪の状況から北朝鮮発表写真は12月18日の撮影であると分析報告されています。
そして北朝鮮は12月20日に金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長が12月18日の発射について以下の追加説明を行いました。
金与正「一度、理に合わせて常識的に考えてみろ。誰が830秒に過ぎない1回だけの実験に高価な高分解能撮影機を設置し、実験をするのか。」
※地上との通信を目的にした試験だったので使い捨ててもよい安いカメラを使用したのであり、解像度が低いのは当たり前である。それなのに北朝鮮の技術が低いなどと見当違いの分析をすべきではないというアピール。
金与正「国家宇宙開発局が実験用に改造した商業用撮影機で、それも直下点軌道でない傾斜側面撮影を基本にしながら撮影機の運用指令に対する管制実験と、地上観測の場で画像資料と各種測定データを受信、分析するのを実験の基本目的に設定している。」
※傾斜側面撮影により、東倉里から真東に向けて発射しても南方向のソウルと仁川が撮影可能となった。
金与正「写真と報道内容を見ても分かるだろうが、われわれが衛星開発のための実験でなければ何の必要もなしに屑鉄のような旧型ミサイルをなぜ打ち上げたのか。また、われわれが「挑発」するためにミサイルを発射したと言うつもりなのか。」
※偵察衛星試験機材の打ち上げに使用した試験ロケットは屑鉄扱いの旧型ミサイルの転用品であり(推定:ノドン準中距離弾道ミサイル)、新型ミサイル開発のための発射試験などではなく純粋に偵察衛星開発のための発射であるというアピール。
※ただし、国連安全保障理事会による北朝鮮に対する制裁は「弾道ミサイル技術を用いた発射の禁止」なので、旧型の弾道ミサイルだろうと衛星打ち上げ用のロケットだろうと関係無く、発射は全て違反行為。
屑鉄のような旧型ミサイル(推定ノドン)を転用した試験ロケット