まるで幼稚園児が運転する飛行機が空を飛ぶ現実について
またパイロットの飲酒問題が発覚しました。
お酒を飲んだら飛行機を運転してはいけません。
そんなことは小学校低学年生だってわかります。
ということはパイロットというのは幼稚園児並以下の人間の集まりなのでしょうか。
そして、そういう人たちが運転する飛行機が日本の空を飛んでいるのです。
昨年の年末に同僚がロンドンで逮捕されて実刑を受けたにもかかわらず、なぜ今でも乗務の前にお酒を飲むのでしょうか。
一つの航空会社だけでなく、いろいろな航空会社で同じように乗務前のアルコール検査にひっ掛かって乗務できなくなる事例がこの半年間だけでも「定期的」に報告されています。
小学校低学年生でもわかるようなことをパイロットという人種は理解できていない。
彼らは馬鹿なのでしょうか。
こういうことが続く現状を見ると、はっきり申し上げて、やはり馬鹿なんだと言わざるを得ません。
なぜならお酒を飲んだら飛行機を運転してはいけないという、小学生でもわかることを、大の大人ができないのですからね。
そういう社会的な常識すらない人たちは日本語で「馬鹿」と言っても非難されることはないでしょう。
つまり、自分自身をコントロールできない人たちが運転する飛行機がコントロールを失わずにきちんと飛んでいる。
これが日本の空の現実なのです。
今の飛行機は多少ボーッと生きているような人間でも飛ばせる乗り物だということです。
酩酊パイロットが起こした航空事故
乗務12時間前禁酒とか、24時間前禁酒とか、会社はいろいろ規則を提示していますが、まず、こういうことは時間で決めるものではありません。
時間は一つの目安であって、乗務の時点で呼気にアルコールが含まれていることがいけないことです。
12時間前まで飲んでも乗務前検査で出ない人もいるでしょうし、24時間前までに切り上げても乗務前検査で反応してしまう人もいるでしょう。
人によっては多少アルコールが入っていた方がシャキッとするという人もいるかもしれませんが、そういう問題ではなく、指標は乗務前検査でアルコールが残っていないことであり、それを求められるのであれば、それに従わなければなりません。
これが社会のルールというものですが、その社会のルールをなぜパイロットは守れないのでしょうか。
抜き打ち検査ならまだしも、乗務前に呼気検査があるということが周知されているにもかかわらず。
高度な特殊技能の能力を習得して、乗務中緊急事態が発生すれば瞬時に対応することが求められる訓練を積んできている人たちが、なぜ社会の基本的なルールを守れないのか。
実に不思議な現象が発生しています。
過去にも実際に飲酒していたパイロットが大きな事故を起こした経緯がありますが、その典型的な例をご紹介しましょう。
日本航空アンカレッジ墜落事故(1977年1月13日)
アラスカのアンカレッジ空港を離陸しようとした日本航空DC-8型貨物機が、離陸直後にコントロール不能に陥り墜落炎上。乗組員5名が死亡した事故。
死亡した機長の体内から多量のアルコールが検出されたことから、この事故の原因は機長の飲酒に起因すると言われています。
貨物専用機の墜落事故でしたから、当時多発していた旅客機の事故ほど社会的インパクトは大きくなく、今ではあまり話題になることもなくなりましたが、アメリカ人機長が飲酒によりきちんと操縦できる状況ではなかったこと、それを他2人のクルーが乗務前に抑止することができなかったことが問題視されました。
当時の日本の航空業界はまだまだアメリカ主導型で、パイロット不足をアメリカ人パイロットを雇うことで補っていました。
当時50代だった機長は当然アメリカ軍出身で戦争に勝った側です。30代の副操縦士やエンジニアたちにしてみたら、機長に意見を言うことなどできなかった時代です。そういう社会的なバックグラウンドがこの事故の真因にあると言われました。
それから40年以上の時を経て、昨年の暮れにロンドンでの日本航空副操縦士逮捕事件が発生しましたが、出発前に事務所でブリーフィングをした段階で2人居た機長は副操縦士が酒臭いのに気付かなかったはずはありません。そんな注意力もない機長が大型旅客機の操縦をしていたのでは危なくてしょうがありませんから。
つまり、操縦室内にはアンカレッジ事故当時の機長にモノを言えない不文律ではありませんが、何となく今でも「仲間をかばう」ような文化があるのかもしれません。
今回のロンドンでの事件はクルーの送迎バスのドライバーが副操縦士が酒臭いのに気付き、航空局に連絡して、出発前の飛行機に係官が乗り込んできて発覚したものですが、自社職員以外の第三者がみれば明らかであることが、自社内では発見できないということは、そこに危機管理が欠如している何かがあるのでしょう。
同じ仲間であるクルーをかばうにしても、例えば、副操縦士のアルコール臭に気づいた機長は、飛行機に入るなり副操縦士に業務をさせず、客席に座らせて「君は今日はデッドヘッド(回送扱いのクルー)で行きなさい。」と言えば、係官が乗り込んできても機長の口で「彼は今日はPositioningです。(イギリスではデッドヘッドのことをポジショニングと呼びます)」と言えばここまで大事にならなかったと筆者は考えますが、酒の匂いがする操縦士がコックピットにいて通常の出発準備作業を行っていた。これは日本人の常識よりも重い刑罰が待っている犯罪行為だったのです。
そう考えると常識人の頂点に立つと言われる国際線の機長にも、他のクルーにも、身内を非難しない、身内をかばうという考え方とともに日本人特有のお酒に対する甘さがあったのではないかということが考えられます。
だから、今でも飲酒行為が後を絶たないのでしょう。
お酒に対して寛容な日本という国
若い皆様方は御存じないと思いますが、30年ぐらい前には地方都市へ行くと居酒屋やスナックに駐車場がありました。
集落から少し離れた街道筋に居酒屋やスナックなどのお酒を出すネオンサインのお店がたくさんあって、お店の前には駐車場があり、お客は車でやって来て、お酒を飲んだ後、車で帰る光景がふつうに見られました。代行ではありません。飲んだあと自分で運転して帰るのです。
もちろん道路交通法では今と同じで飲酒運転は認められていませんでしたが、なあなあだったのです。
鉄道もそうでした。
宿直や深夜待機の時に乗務員詰め所で一杯飲むなどというのは、当たり前のことでした。
お酒に対するモラルが低かったんです。
ところが、そういう「文化」を放置しておいた結果、悲惨な交通事故が多く発生しました。
鉄道も衝突事故や脱線事故などが深夜に発生し、社会問題になりました。
そういう過去の悲惨な事故を教訓として、今のような飲酒に対する厳しい交通取り締まりが行なわれるようになり、鉄道の職場でも宿直時(勤務中)に飲酒をすることが禁止されました。
当たり前のことが当たり前に行われるようになったのです。
ところが、コックピットの中では、今でもその当たり前のことが当たり前に行われていない。
つまり、彼らの中では世の中の基本的な常識が通用しない価値観や世界観があって、コックピットという閉ざされた空間の中で、時代の流れに取り残されたかのように、今でも脈々と受け継がれている。これが度重なる飲酒問題発生の土壌として存在するのです。
【参考】1980年代の飲酒に起因する国鉄の列車事故
西明石駅寝台特急脱線事故(1984年10月19日) Wikipedia
クルーの乗務パターンについて
パイロットやアテンダントというのは離島航空路の会社など特殊な路線を除き、基本的には日勤者ではありません。
羽田や大阪などベースと呼ばれる自分が所属する会社の基地となる場所に出勤すると、国内線の場合は通常3~4レグ(区間)程度を飛行してベース以外のところに滞在し、宿泊をして、翌日また3~4レグを飛行してベースに戻れば勤務明けとなって退勤。ベース以外のところへ到着すればまたその場所で宿泊をするというパターンの繰り返しです。
国際線の場合は飛行時間にもよりますが、飛んで行った先で1~2泊宿泊をして戻ってくる、あるいは次の目的地まで飛んでステイするということの繰り返しのパターン乗務です。
今回の飲酒問題は国内線で発生していますが、国内線の場合、ステイするパターンは大きく分けて2つあって、1つは前日の最終便で到着して翌日の始発便で出発するパターン。もう一つは乗務の都合上、日中時間帯に交代するパターンです。
日本航空の時刻表を見てみましょう。
一例を挙げます。
羽田―出雲間の2019年6月の時刻表です。
この時刻表からわかることは、飛行機が一晩出雲空港で駐泊していることです。
287便として羽田から出雲空港に19:55に到着した飛行機がありますが、羽田行の286便は19:25にすでに出発しています。
287便の飛行機は一晩出雲空港に駐泊して、翌朝の276便となって7:55に羽田に向けて出発していきます。
ということはクルーも飛行機と一緒に現地に泊まるということです。
19:55に到着してから翌日の7:55に出発するまで12時間。空港と宿泊ホテルとの往復時間とフライト前の準備時間を除くと約10時間がクルーに与えられた休憩時間ということになりますが、こういうステイの形態をミニマムステイと呼びます。
ミニマムステイの滞在時間(ミニマムレスト)が何時間かはその前の乗務時間にもよりますし、労働組合との協約にもよりますが、だいたい8~10時間程度ということになります。
これに対して日中時間帯に乗務交代するパターンがあります。
今回問題となった羽田-釧路の時刻表です。
1日3往復の便があることが分かりますが、この時刻表を見る限り、釧路空港での飛行機の駐泊はありません。
羽田からの最終便で飛んできた飛行機が、折り返しの最終便となって羽田へ飛んで行って1日が終了します。
では、どういうステイがあるかというと、543便で飛んできたクルーが翌日の542便までステイするというパターンです。
ほぼ24時間ステイするミニマムステイに比べると長いステイパターンですが、今回釧路で副操縦士がビールを10杯飲んだというのはこのパターンのステイ中です。
乗務の12時間前禁酒と言えば午前2時ということになりますから、夕方からビール10杯飲んだというのもその時点での規則には違反していないことになりますね。ただし、乗務前検査で発覚してしまったのです。
前述のようにクルーというのは1日3~4レグ(区間)を乗務します。必ずしも飛行機と一緒に行動しているとは限りませんが、この釧路での場合は543便の飛行機というのは朝から3区間飛行しています。
6月の機材ローテーションでは543便はB767で運航されていますが、
JL551 羽田 7:55 → 旭川 9:30
JL552 旭川 10:15 → 羽田 12:00
JL543 羽田 12:45 → 釧路 14:20
JL542 釧路 15:10 → 羽田 16:55
JL557 羽田 17:50 → 旭川 19:25
JL558 旭川 20:15 → 羽田 22:00
飛行機自体の1日の運用はこのようなパターンになっています。
乗務員の乗務パターンは複雑で必ずしも飛行機と同一行動をするわけではありませんが、仮に乗務パターンが飛行機と同じだと仮定すると、朝551便で7:55に羽田を出たクルーが、3区間乗務して543便で14:20に釧路に到着して1日の乗務が終了することになります。
そして釧路にステイして翌日の542便から乗務を開始して、3区間フライトして22:00に羽田で勤務が終了するという乗務パターンになると考えられます。
朝7:55分から3区間パイロットもアテンダントも飛行機に乗りっぱなしですが、国際線の長距離便に比べれば大した時間ではありません。国内線はフライト中は大忙しですが、クルーは折り返しの機内清掃時間に飛行機の中で立ったまま食事をするなど、皆さん時間と戦いながら勤務していますから、そういう意味で片道90分程度の区間でも3区間も乗務すればくたくたになります。朝から飛んで午後2時過ぎに勤務が終了となるのは理解できるところです。
なぜパイロットは酒を飲むのか
では、なぜパイロットは酒を飲むのかというお話ですが、最終便で到着して翌朝の始発便で出るミニマムステイの場合は滞在時間10時間程度。翌朝ホテルを出るのが便出発の1時間半前。そのさらに1時間前にはモーニングコールがあります。ということは、ホテルの部屋に入ったらすぐに睡眠をとらないと翌日のフライトに差し支えます。
でも、最終便で到着したということは、さっきまでコックピットで緊張状態にあったわけで、すぐに眠りにつける精神状態でもありません。そういうストレス状態にあるのがパイロットです。
国際線の場合はそれに時差が加わりますからまだ外は明るくてもカーテンを閉めてベッドに入らなければなりません。
どこの都市でもそうですが、クルーが滞在するホテルはクルー専用のフロアを設定してあり、昼間ガタガタと清掃をすることもありませんし、一般客が酔っ払って大騒ぎをするような環境ではないところに部屋を設けているところがほとんどです。
パイロットというのはそういう環境に置かれているというのは事実ですから、人によってはお酒の力が必要になることもあるというのも事実なのです。
パイロットというのは毎日のように各地を飛び回って宿泊滞在をしていますから、一般の旅行者のように「せっかく北海道に来たのだからおいしいビールとおいしい料理を楽しもう。」などという人はいません。
今回のように24時間近く滞在するような場合は、ちょっと開放的になることはあるかもしれませんが、それは何から解放されるのかというと、勤務のストレスから解放されることなのです。
乗務員に必要なのはメンタル指導
最初にも記しましたが、パイロットという人たちはある程度優秀な人たちが長期間の厳しい訓練を積んで特殊技能を身に付けた集団です。
そういう人たちが、乗務前にお酒を飲んではいけないという基本的なルールを守れないということはその背景に何か大きなものがあるはずです。
12時間とか24時間とか時間的ものさしで解決するのではなくて、本当ならば真因というものを探って、そこを解決しなければならないと考えます。
それがストレスとどう向き合い、どう上手に対処するかということではないでしょうか。
多大なる責任感。厳しい訓練。健康管理。乗務スケジュール。
いろいろストレスはありますし、人によっても違うでしょう。
日本航空の場合、40才ぐらいの副操縦士は皆さん経験していると思いますが、会社が経営危機になった時たくさんパイロットを解雇しました。解雇されなかった人たちでも訓練が中止になり、何年間も足踏みをした人たちがいるはずで、それがこの年代の副操縦士です。
本当だったら機長になっている年齢でも副操縦士として昇格試験の順番待ちであったり、あるいは後輩に先を越されたり。
副操縦士であれば組合員であるという精神的甘えもあるかもしれません。
詳細は個人個人のことですからわかりませんが、まあ、いろいろあるはずです。
一番重圧に感じる6カ月に1度の身体検査や定期的な技量チェックが無事に終われば開放的な気分にもなるでしょう。
そういう時の自分自身の気持ちのコントロールの仕方については、もしかしたらそのコントロールする方法を知らないのかもしれません。
何百人もの乗客を乗せて大空を飛ぶジェット旅客機は操縦できても、自分自身の内面をコントロールする術を知らない。
だから小学生だってわかるようなことが守れないのです。
今、彼らに必要なのはそういうメンタルなトレーニングであり、対処法なのだと筆者は考えます。
「大人なんだから、パイロットなんだから、そんなことは自分で考えて何とかしなさい。」では済まされないのです。
それでも飛行機は飛んでいく
今、実際にどれぐらいの飛行機が飛んでいるのでしょうか。
昨日6月28日21時過ぎの日本の空を飛ぶ飛行機です。
21時過ぎと言えばそろそろ最終便が到着する時刻ですが、それでもこれだけ飛んでいます。
同時刻、東南アジアに目を向ければこの状態です。
これだけの飛行機が空を飛んでいて、それぞれの飛行機には厳しい訓練を積んだ優秀なパイロットが乗務しています。
ということはどういうことかというと、LCCをはじめ航空が飛躍的に発展すると言われているこれからの時代、全世界的に見てパイロットがどんどん不足するということです。
業界では2030年問題と言われていますが、2030年以前にパイロット不足は深刻化します。
事実、日本国内でもエアドゥーやジェットスター、スカイマークなど各社ですでにパイロット不足による定期便の運休、欠航が数百便単位で発生しています。
そういう人材不足の中で、底をさらうように人材をかき集める時代になると、必ず出来が悪い者も引っかかってきます。
そうなると今まででは考えられないようなことが起きるようになるのです。
航空業界はそういう状況にあるからこそ、今のうちにメンタル面をサポートする制度をきちんと準備しておく必要があると筆者は考えます。
そしてこのところ連続するパイロットの乗務前飲酒事件は、次の時代へのヒヤリハットである。
なぜならば自動車でさえ運転中に制御不能に陥ればあれだけの悲劇を生むのですから、ひとたび飛行機が制御不能に陥ったとすれば自動車の比ではなく、指導管理を含めて会社の社会的責任は免れないからです。
もし、社会的問題としてそういう対策を取ることをしないのであれば、AIの力を借りて幼稚園児でも運転できる飛行機を作る以外に無いと思いますが、それには最低でもあと20年はかかるでしょうから、間に合わないのです。
ボーッと生きているような人間が飛行機を操縦してはいけません。
私たちが過去の経験から学ぶこと。それは航空機事故は未然に防がなければならないということなのですから。
※本文中に使用した写真は筆者撮影です。
※▼本文中で紹介した1980年代の寝台特急の事故に関しては数年前に杉山淳一さんが別記事のなかで取り上げていますのでご参照ください。