【ライヴ・レポート】サマーソニック2018/夏の終わりを彩る音楽の祭り
サマソニは毎年の夏の終わりを告げる、最高に楽しく、そして寂しい祭りだ。
フジ・ロック・フェスティバルと共に、日本を代表する夏の音楽フェスティバルとして愛されてきたサマーソニック。1997年に第1回が開催されたフジロック、そして1999年に前身フェスといえるBEAUTIFUL MONSTERS TOURが行われ、2000年から本格スタートを切ったサマソニは、共に“夏フェス時代”の扉を開け放った2大イベントだ。
世界のトップ・アーティストや円熟のベテラン、将来の音楽シーンを背負うブライテスト・ホープまでが集うという点で共通する両フェスだが、幾つもの大きな相違点がある。
苗場の山中で大自然に囲まれながら音楽に浸るフジロック、アイドルやヘヴィ・メタルまでを網羅するサマソニという個性に加えて、開催時期の違いもコントラストを成すものだ。
フジロックが開催されるのは毎年7月下旬で、学生さんだったらまだ夏休みの宿題に手をつけていない時期だろう。3日間のフェスが終わっても、まだ夏は続いていく。それに対してサマソニは毎年8月中旬から下旬、夏の終わりに開催される。至福の2日間が終わってしまえば、もう秋も近い。祭りが華やかであるほど、その後の切なさ・寂しさも大きい。
そして2018年のサマソニは数々の輝ける星を散りばめた、歴代最大級の華やかさのイベントだった。
例年、東京(幕張)+大阪会場でのべ15万人を動員、東京では7ステージ同時進行というサマソニ&SONICMANIAゆえ、観客の数だけ異なったサマソニがある。本記事では筆者(山崎)の視点からレポートしたい。
●SONICMANIA
8月17日(金)22:00~
サマソニ本編の前夜、8月17日(金)夜からのオールナイト・イベントSONICMANIAから、出し惜しみ無しの豪華なアーティスト陣が登場。4ステージ同時進行でライヴが行われるため、バッティングも多く、サマソニ本編やフジロックでヘッドライナーを務めたことのあるナイン・インチ・ネイルズがジョージ・クリントン&パーラメント/ファンカデリック、中田ヤスタカと丸被りという事態が生じた。3アーティストをハシゴしたファンもかなりいたのではないかと思われるが、筆者(山崎)はライヴの出来は起承転結の展開で決まると考えているため、どれかひとつを選ぶしかない。さんざん苦悩したあげく、NINをフルで堪能するべく“マウンテン・ステージ”に向かった。
「ウィッシュ」「マーチ・オブ・ザ・ピッグス」「ゲイヴ・アップ」による轟音の襲撃、「クローサー」「ピギー」のメランコリックな世界観は、外界から遮断された終電後の幕張メッセでさらに異形の効果を生み出していた。
NINのリーダー(というか元々彼のワンマン・バンドだった)トレント・レズナーがミュージック・ビデオに出演したデヴィッド・ボウイの「アイム・アフレイド・オブ・アメリカンズ」も披露されたこの日のステージ。トレントに「尊敬するマイ・ブラッディ・ヴァレンタインと一緒のフェスに出ることが出来て嬉しい」と言われてしまったら、続いて“マウンテン・ステージ”に出演するマイブラを見ないわけにはいかない。
そのおかげでサンダーキャットとフライング・ロータスのライヴをそれぞれ最初と最後しか見ることが出来ず、後者の3Dメガネも配布終了してしまったが、2018年の“旬”アーティストである彼らの勢いあふれるステージは、断片であっても凄まじい昂揚感を伴うものだった。もちろん全編彼らのショーをエクスペリエンスしたかったものの、マイブラも深夜に近所迷惑な爆音炸裂ライヴで魅了してくれたし、文句のあろう筈がない。
クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・ホーミがUNKLEの作品をプロデュース、ゲスト参加していたこともあり、もしやUNKLEのステージに飛び入りも?...と淡い期待をしていたが、さすがにそれは実現せず。ただジョシュの参加した「レストレス」で彼の声がサンプリングで使われ、スクリーンにタバコを吸う彼の姿が映し出された。もちろんそれを抜きにしてもUNKLEのライヴは午前5時の電車始発タイムまで観衆を盛り上げっぱなしだった。
●SUMMER SONIC 初日
8月18日(土)10:00~
東京から通うことが出来る“都市型フェスティバル”のサマソニだが、前後にオールナイト・イベントを含むことを考えると、会場近辺の宿泊施設を押さえておくのがベストだ。
都内からの“通勤”だと、SONICMANIA明けで帰宅、仮眠を取ってから午前10時に会場に戻るのはけっこうハードである。
ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズがスタジアムの“マリン・ステージ”ヘッドライナーを務めたサマソニ初日。屋内最大の“マウンテン・ステージ”はハード&ヘヴィ・デイだった。マーモゼッツはヴォーカリスト、ベッカ・マッキンタイアの体調不良でライヴが中止になってしまったが(翌日の大阪公演では回復、ライヴは無事行われた )、マストドン→ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタイン→クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジという3連打は、コンテンポラリーなハード・ロックの最高峰といえるラインアップだ。
マストドンはヘヴィな音楽性と独自のアートでプログレッシヴな感覚で、観衆を異世界へといざなう。最新アルバム『エンペラー・オブ・サンド』の「サルタンズ・カース」からスタート。床が抜けそうに重いサウンドに対して浮遊感を伴うトリップ感、ファイン・アートとカートゥンの境界線を漂うスクリーン映像など、すべてを超越し逸脱したライヴ・パフォーマンスを披露した。
ライヴ盛り上げ必至バンドとして世界中のフェスから引っ張りだこのブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインはサマソニの常連でもあり、2005年・2013年・2016年に続いて4回目の参戦。さらにラウド・パークやオズフェスなどのヘヴィ系フェスで来日、単独ツアーも何度も行うなど、日本のオーディエンスを知り尽くしたバンドだ。発売されて1ヶ月ちょっとのアルバム『グラヴィティ』からの楽曲は早くも観衆の身体に馴染んでおり、「ドント・ニード・ユー」「オーヴァー・イット」のオープニングからステージ最前方は沸点に達する。そのヒートアップぶりからヘヴィなロックとフェスの相性の高さを再確認し、世界にメタル系フェスが多い理由を納得することが出来た。
クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジは昨年(2017年)フジロックで14年ぶりの来日を果たし、同年のハイライトといえるライヴで鮮烈なインパクトを残したが、何とわずか1年で日本に戻ってきてくれた。2日前の木曜日には“SUMMER SONIC EXTRA”と銘打った単独公演も行われたが、サマソニではセットリストがかなり異なっており、「フィート・ドント・フェイル・ミー」「ザ・ウェイ・ユー・ユースド・トゥ・ドゥ」から一気に場内を手のひらに乗せる。80分と、単独公演より若干短めのセットだったが、観客を翻弄する怒濤の展開でグイグイ引っ張っていった。単独公演ではプレイされなかった「ミリオネア」「バーン・ザ・ウィッチ」はひときわ大きな声援で迎えられた。
単独公演と同様に、ステージ上にはLED柱が林立。フレキシブルに作られているようで、ポーンと蹴っても戻ってくる。昨年(2017年)アメリカで、ジョシュ・ホーミがライヴ中に何を思ったかステージ前のフォトグラファーに蹴りを入れるという不祥事があったが、何かを蹴りたくなったらこのLED柱があれば大丈夫だ。バンドも観衆も興奮に包まれ、サマソニ初日の“マウンテン・ステージ”は大団円を迎えた。
●MIDNIGHT SONIC
8月18日(土)22:00~
初日のショーが終わっても、サマソニは終わらない。2017年は別料金でHostess Club All-nighterが行われたが、今回はサマソニのチケットでそのまま見ることが出来るオールナイトのMIDNIGHT SONICが開催された。これを見ないというのは敗北を意味する。
水曜日のカンパネラ、女王蜂といった日本勢やイギリスのウルフ・アリスなど、現実とファンタジーの狭間をたゆたう演奏に、自分が起きているのか夢を見ているのか判らなくなってくる。そんな状況下、深夜組の目をパッチリ覚ましてくれたのがスパークスだった。
1960年代から活動、グラム・ロックもエレクトロ・ポップも通過して、フェイス・ノー・モアやフランツ・フェルディナンドとも共演するなど、スパークスはあらゆる外的要素を取り込みながらそれ以上の、唯一無二のアイデンティティを確立させてきた。この日も弟ラッセル・メイルのファルセット、普段は仏頂面の兄ロン・メイルが突如満面の笑みで踊り出す“スパークショー・ダンス”(勝手に命名)などに歓声が上がり、「ディス・タウン」では二十代から五十代まで世代を超えたファンの合唱が場内に響きわたった(SONICMANIAは20歳未満、MIDNIGHT SONICは18歳未満の入場不可)。
なおスパークスのステージは『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ベイビー・ドライバー』で知られる映画監督エドガー・ライトが撮影していた。彼の次回作はスパークスのドキュメンタリーなのだとか。
●SUMMER SONIC 二日目
8月19日(日)10:00~
オールナイトが明けて、サマソニは二日目に突入。午前の太陽光線以上にまぶしい若さ溢れるアーティスト達が次々と登場する。
2006年デビューのポルトガル・ザ・マンは夕方、ハードな演奏と裏腹にユーモアも持ち備えたステージで魅せたが、ライヴ前に流した映像で1990年代初頭を風靡した『ビーヴァス&バットヘッド』を使用。「ポルトガル・ザ・マン...ビートルズよりも偉大。ローリング・ストーンズよりも偉大。シルヴァーチェアより偉大。あと少しでパンテラに手が届く...」と、引き合いに出すバンドは、2006年デビューの彼らの年齢を感じさせた。さらにライヴ中にもメタリカ「フォー・フーム・ザ・ベル・トールズ」、ピンク・フロイド「アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール」、Tレックス「チルドレン・オブ・ザ・レヴォリューション」、ブラック・サバス「黒い安息日」、ビートルズ「アイ・ウォント・ユー」などの“ロック・クラシックス”を挿入させるなど、おっさん魂を揺さぶるスパイスをまぶして楽しませてくれた。
セント・ヴィンセントはフジロック、Hostess Club Weekender、昨年(2017年)のサマソニではHostess Club All-nighter出演と、日本のフェスを総ナメにして、遂にサマソニ本編に降臨することになった。エキセントリックに走るわけでないが強烈な個性を持つ彼女のヴォーカル、ライヴ演奏とスクリーン映像が一体化したステージ、赤レザーのミニ・コスチューム、ミュージックマンのシグネチャー・ギターから弾き出されるリード・プレイの“カッコ良さ” は、その場に居合わせた者のハートを鷲掴みにするマジックを持っていた。
さて、いよいよサマソニも終わりに近づいてきた。各ステージのヘッドライナーはベック、ニッケルバック、パラモアといずれも豪華なものだが、 “ビーチ・ステージ”のジョージ・クリントン&パーラメント/ファンカデリックは夏の“祭り”のフィナーレを飾るに相応しいビッグ・パーティーで迎えてくれた。ステージ上は多人数のメンバーが入り乱れ、クリントン御大はステージ上を歩いてみたり、合いの手を入れたり、肉体的な横ノリ・グルーヴで観衆の腰骨を突き動かす。何人いるのか判らないメンバー達が極彩色のライトに照らされ、パーラメントもファンカデリックもクリントン御大のソロもグニョグニョと一体化した“揺らぎ”を生み出すが、そんなユルいライヴにも拘わらず、たまに複数人のモーションがビシッと一致して決まることがあるのが快感中枢を刺激せずにいない。ステージの左前には高層ホテル、右には海。「マゴット・ブレイン」「アトミック・ドッグ」などに揺さぶられていると、この夏が永遠に続くような気分になってくる。
花火が上がり、夏は終わる。だが季節は巡り、我々は2019年、サマソニで再び相まみえるだろう。どんなアーティストがステージに上がり、どんなドラマが起こるか。夏の終わりを彩る音楽の祭り、次回が早くも楽しみでならない。
THANK YOU
AND