Yahoo!ニュース

「久保建英or堂安律」だけではない。森保ジャパンの”ぜいたくな悩み”

小宮良之スポーツライター・小説家
モンゴル戦で得点後の南野拓実。(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

ポジション争いの激化

「競争が激しくなることで、チームも強くなると思っています」

 カタールワールドカップ、アジア二次予選のモンゴル戦後、3本のアシストで6-0の大勝に貢献した伊東純也は語っている。

「二人とも(右サイドの攻撃的なポジションを争う久保建英、堂安律は)、左利きなので、中央にカットインし、コンビネーションを作るプレーに特徴があると思います。自分の場合は、(右利きで)縦、縦に行って、相手が嫌がる突破をできればと。(最近は)チャンピオンズリーグで強いチームともやっているので、そこは自信をもってやれていることにつながっていると思います」

 伊東はベルギー王者、ヘンクでUEFAチャンピオンズリーグに出場するなど、代表レギュラー候補に名乗りを上げるのに十分な立場にいる。そのプレーは海を渡ってから、成熟しつつある。縦に抜ける絶対的なスピードは、誰が相手でも武器になるはずだ。

もっとも、森保ジャパンでの同ポジションのファーストチョイスは、堂安(PSVアイントフォーヘン)、久保(マジョルカ)だろうか。他に、原口元気(ハノーファー96)も両サイドをこなせるオプションを持っている。また、コパ・アメリカに出場した三好康児(アントワープ)も、一つの選択肢だろう。

競争はし烈だ。

<高いレベルのポジション争い>

 それが、日本をさらに強くする。

ロシアワールドカップからの変革

 2018年のロシアワールドカップで、日本は華々しい戦いを演じ、ベスト16に進出した。ベルギー代表とも、互角に渡り合っている。当時のメンバーは、「史上最強」に近かったと言えるだろう。

 しかし、すでに急速な新陳代謝が進んでいる。

 長谷部誠、本田圭佑らが代表引退を表明。変わらずにレギュラーで定位置をつかんでいるのは、大迫勇也、柴崎岳、吉田麻也、酒井宏樹、長友佑都の5人。原口は準レギュラーという状況か。すなわち、半分の主力が入れ替わっている。

 中島翔哉の台頭は目覚ましい。今シーズン、移籍したFCポルトでは思うようにプレーはできていないが、ピッチでの存在感は出色。ボールと戯れるようにプレーする姿は、相手にとって脅威だろう。左サイドだけでなく、縦横にポジションを取って、ドリブルで切り込み、シュートが打てる。今や、日本をけん引しつつある。

 南野拓実も、変化の象徴だろう。とにかくシュートまで持ち込む強度が高く、反転のスピードと精度は群を抜いている。個人スキルだけでなく、コンビネーションで作るプレーもうまく、スモールスペースを一気に崩すパス交換からのシュートは卓抜。ザルツブルクでCLに出場し、屈強なディフェンスと対峙していることもあって、経験で技が成熟している。

南野を追う選手たち

 その南野でさえ、ポジションは安泰ではないだろう。

「こういう試合は点を取っておかないといけない。これから、どのポジションをやるにしても、結果が必要になる」

 モンゴル戦、南野に代わって出場した鎌田大地(フランクフルト)は語っているが、代表初得点を記録した。サガン鳥栖時代から抜群のプレービジョンで、局面を変えられるパスを放てる才能を見せていたが、豪快なシュートも持ち味の一つ。肉体的にも大柄で恵まれ、才能は飛び抜けている。

 また、U―22代表の食野亮太郎(ハーツ)も台頭目覚ましい。マンチェスター・シティが見込んだだけあって、ボールを持ってシュートする速さは圧巻。まだまだ経験は足りないが、一気に進化する可能性があるだろう。

 トップ下、あるいはトップの一角のポジションは、久保、中島も選択肢になる。あるいは、バルサBでプレーする安部裕葵も候補の一人。2トップの場合、永井謙佑のようなスピードスターが入る可能性もあるだろう。

 攻撃ポジションだけでなく、どのポジションも競争が高まっている。左サイドバックの長友、トップの大迫のバックアップは弱いが、それも二人の経験、実力が抜きん出ているからとも言える。安西幸輝(セルクル・ブルージュ)や上田綺世(鹿島アントラーズ)は、成長が期待できるだろう。

 2020年の東京五輪は、新鋭選手にとって士気を高める要素になる。彼らが東京五輪をスプリングボードにすることができたら、競争をさらに盛り上げる。ボランチの田中碧などは、飛躍の予感が匂う。

2022年のカタールワールドカップで、ロシアワールドカップのメンバーがほとんど残っていない――。それは十分にあり得る。熾烈な競争が、日本サッカーを発展させるはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事