大舞台で輝く伝統の背番号「10」。ベレーザの若きFW、籾木結花が描く右肩上がりの成長曲線
【試合を決めた2ゴール】
小雨が舞うピッチで、小柄な背番号10が躍動した。
ピッチにはなでしこジャパンのメンバー5人(9月の代表候補合宿選出メンバー)が出場していたが、この日の主役は20歳の若きFW、籾木結花だった。
8月27日、なでしこリーグカップ準決勝。浦和レッズレディース(以下:浦和L)と対戦した日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)の籾木は、2ゴール1アシストの活躍で、4-0の勝利に貢献した。
1点リードで迎えた53分。右サイドでボールを受けると、鋭い切り返しで相手DFの逆を取り、すかさず右足を振り抜いた。
「あのコースに蹴られてしまうと止められない」
対面した浦和LのGK平尾知佳にそう言わしめたシュートは、逆サイドのネットを突き破らんばかりの勢いで決まった。
強烈なパワーを秘めた左足は、これまでにも幾度となく会場を沸かせてきた。その怖さは相手チームも当然知っていて、この試合でも浦和Lの守備陣は素早い寄せで左足を封じてきた。だが、このゴールに象徴されるように、今季は右足のゴールも増えている。
その5分後には、長谷川唯のゴールをアシスト。さらに、終盤の83分には有吉佐織のロングパスを裏で受けると、深い切り返しで相手DFをかわし、GKとの1対1を冷静に制した。試合を決定づけるこの4点目は、左足で決めた。
「1点目は相手の動きが見えたので、逆に切り返して右で打ちました。4点目は本当は右足のダイレクトで打とうと思ったんですが、相手がすべりそう(スライディングでブロックしてきそう)だったので、左足に持ち替えて、1対1は冷静に流し込むことを意識しました」(籾木)
相手の動きを見極めてギリギリで判断を変える、駆け引きの巧さが光る。
【背番号の重みを力にかえて】
籾木は2009年から、日テレ・ベレーザの下部組織であるメニーナで育った。育成年代のスペシャリストであり、多くの才能を育ててきた寺谷真弓監督の下で基礎技術を徹底的に叩き込まれ、トップチームの真骨頂ともいえるパスサッカーを日々追求してきた。そして2012年、世代交代の最中(さなか)にあったベレーザは、籾木を高校進学と同時にトップのベレーザに昇格させる(2014年まではメニーナとの二重登録)。
結果を出すのに、時間はかからなかった。
昇格初年度は控えに甘んじたが、翌年2013年には試合にコンスタントに出場して5ゴールを挙げ、3年目には二桁ゴール(10得点)を記録。そして、同年の皇后杯決勝で籾木は決勝ゴールの起点となり、チームは5年ぶりのチャンピオンに返り咲いた。翌年2015年は、トップに昇格して4年目にして、なでしこリーグでの念願の初タイトルを獲得した。
そして、20歳を迎えた5年目の今季、背番号はそれまでの「11」から「10」に変わった。
ベレーザの背番号「10」は、重い。
高倉麻子、野田朱美、澤穂希。代表の中心選手として活躍した、女子サッカー界のレジェンドが受け継いできた番号である。
「毎試合、自分が点を取ってチームを勝たせるという意識で試合に臨んでいます」(籾木)
籾木はその背番号10をモチベーションに代えて、これまで以上に充実したシーズンを送っている。リーグ戦は11試合を終えて、すでに昨年のゴール数(5ゴール)に並んだ。
【世界との距離を縮めるために】
だが、FWでありながら、ゴール以外の貢献度が高い選手でもある。
前線からの積極的な守備でカウンターの起点になり、スルーパスで味方のゴールをお膳立てし、セットプレーのキッカーとして、正確なキックでFKやCKからゴールを演出する。ポジションを流動的に変えることで、今季のベレーザは最終ラインの4人以外のすべてのポジションの選手がゴールを決めている。
「彼女は足元でも、(相手DFラインの)裏のスペースでも受けられる。囲まれてもボールを取られずに捌(さば)けるし、相手のディフェンスでフタをされても(ボールを)前に持ち出せる技術を持っています」(ベレーザ、森栄次監督)
相手に囲まれても奪われないキープ力と技術は、どのようにして培われたのか。
昨年8月に中国で行われたU-19アジア選手権後の籾木の言葉が蘇る。この大会でU-19日本女子代表は優勝したが、籾木は背番号10を背負いながら、無得点に終わっていた。帰国後、こんな風に試合を振り返った。
「自分の力を出し切れなかったことは悔しいです。アフリカの選手や身体能力の高い選手たち相手に自分たちのサッカーをするためには、圧倒的な技術の高さを持たなければいけないし、体力やフィジカルアップも必要だと感じました。私は身体が小さくて(151cm)細かいタッチが好きですが、ダイナミックな動きを入れれば相手にとって怖いと思うんです」(2015/9/6 リーグ14節ベレーザ対ベガルタ仙台レディース戦後、籾木)
大会後はチームの先輩に体幹の鍛え方を教えてもらい、トレーナーには自分に合った体幹のメニューを聞いた。
その努力が結実しはじめているのだろう。練習の取材をしていて驚かされたことがある。
それは、6月末に行われたベレーザのチーム練習のミニゲーム中のことだった。紅白戦で相手チームのディフェンスラインに入った男性コーチが、ドリブルで仕掛ける籾木に身体を寄せ、ボールを奪いにいった。だが次の瞬間、コーチが20cm近く身長が低い籾木に弾き飛ばされたのだ。コーチはその場面をこう振り返った。
「(籾木が)足を振ろうとしたから自分の足を前にぐっと出したら、身体をぶつけてきたんです。変なタイミングで身体を当てられて、飛ばされてしまいました」(男性コーチ)
ドリブルをする籾木の身体に、揺るぎない強さが宿っていた。
【1年間のイメージトレーニング】
各年代の代表に選ばれてきた籾木にとって、なでしこジャパン入りを目指すことは自然の流れだった。だが、その前に、大きな目標がある。それは、今年11月にパプアニューギニアで行われるU-20ワールドカップだ。育成年代で最後の大舞台である。
U-20日本女子代表には、同じくメニーナからの生え抜きであるMF隅田凜、DF清水梨紗、MF長谷川唯、MF三浦成美ら、同年代の頼もしいチームメイトもいる。8月中旬のドイツ遠征では、優勝候補のU-20ドイツ代表とトレーニングマッチを行い、1-0と勝利。籾木は決勝ゴールを決め、チームを勝利に導いた。
大会本番まで残り2ヶ月半を切った。大会への意気込みを聞くと、つぶらな瞳が輝いた。
「寝る前に、自分たちが優勝する姿を想像しちゃうんです。去年アジア予選(U-19アジア選手権)で勝ってから1年間、ほとんど毎日ですね。寝たいのにワクワクして眠れないこともあるんです」(籾木)
ピッチを出れば、試合中の厳しい勝負師の顔からは想像もできないほど、にこやかな笑顔と、落ち着いた話し方が印象的だ。普段は慶応義塾大学に通う現役大学生でもある。
2020年東京五輪は24歳で迎える。U-20ワールドカップで対戦する同年代の選手たちは、4年後のライバルでもある。
夢の中で、手強い国と対戦した時のイメージを聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「強い相手も、無理矢理にでも自分の技術でかわしちゃうイメージですね(笑)」
小柄な背中に大物感が漂う。未来への期待は高まるばかりだ。