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なぜ中国人は積極的にPTAの役員になりたがる? 日本人には想像できない驚きの理由

中島恵ジャーナリスト
北京の学校の校門前で、下校する子どもを迎える保護者たち(2019年、筆者撮影)

 新学期が始まって約2週間。子どもたちも新しい学校やクラスに慣れてきたところでしょう。新学期とは限りませんが、子どもを持つ保護者にとって悩みのタネのひとつ、といえばPTAの行事に参加することや役員の選出でしょうか。「役員になりたくない」「無理やり役員にされてしまって憂鬱……」といった声をよく聞きます。

 外で働いている保護者にとって、PTAの仕事をすることは大きな負担になりますし、外で働いていなくても、「余計なことはしたくない」「みんなに気を遣って疲れる」と思っている人は多いでしょう。

 しかし、中国ではそういう話はあまり聞きません。むしろ「ぜひともPTA(中国では家長委員会という)の役員になりたい」、「PTAの役員に立候補して、絶対に選ばれたい」といった声を聞きます。むろん、個人差がありますので全員がそう思っているわけではありませんが、日本のように「それだけは勘弁して……」といった感じはありません。それはなぜでしょうか?

PTA役員になるために仕事を辞めることも

 北京に住む知人女性には2人の子どもがいますが、上の子どもが小学校に入ったときに、勤務していた会社をスッパリ辞めました。理由は「子どものクラスのPTA役員を引き受けたいから」です。日本人には信じられないことですが、女性によると、「自分の周辺では、そういう人はけっこう多い。だから、ライバルも多い」とのこと。

 女性は子どもが幼稚園に通っていたときにも、幼稚園の活動に熱心に取り組んできましたが、「働きながらの片手間では無理。もっと全力を挙げてやりたい」と思ったそうです。

 なぜそんなにPTAの役員になりたいのか? と聞いてみると、女性は「だって息子がかわいいから。親が熱心にPTAの活動をやっていれば、子どもも学校の先生から目をかけてもらえるし、学校内のさまざまな情報や先生方の評判などもいち早くキャッチでき、先生とも親しくなれるでしょう? 学校内でうちの子が目立つことにもつながりますから」といっていました。

 つまり、我が子のためにPTA役員になろうと思っているのです。

 日本でもそういう人がいないわけではないと思いますが、日本では、親がPTAの役員だからといって、子どもが他の子よりも明らかに優遇される、というわけではないでしょう。

PTAの役員になるのにも競争激化

 この女性の子どもが通っているのは公立の中でも重点学校と呼ばれる「いい学校」。1学年は約40人で、役員は3人(私立学校の場合、役員は7~10人)選出されますが、この女性と同じように考える保護者が多いので、その3人に選ばれるのも大変なことだといいます。日本でも選出方法には自薦、他薦などいくつかの方法がありますが、中国では自薦が多く、保護者たちは自己PRに余念がないとか。

 この女性は北京の大学を卒業後、日本留学を経て再び北京に戻り、北京で結婚。日系企業に勤務していたのですが、それくらいでは目立った経歴とはいえません。しかし、夫が企業経営していて、かなり業績がいいため、「自分は専業主婦となって、この仕事に全力で取り組む所存です」とアピールしたところ、見事、役員に選出されたと喜んでいました。

 しかし、この女性によると、最近では保護者の高学歴化が進んでおり、「アメリカの大学院卒で英語ペラペラの保護者や富裕層の保護者もたくさんいる」とのことで、子どもの受験競争だけでなく、親のPTA役員競争も激化しているという話でした。

SNSの議論に1分でも遅れないように

 日本でもPTA間の連絡はメールやLINEのグループが使われたりしますが、中国でもウィーチャットなどSNSを利用して、学校側と保護者がコミュニケーションを図ることが一般的です。

 日本では業務連絡が多く、SNS上で活発な議論がなされないことも多いですが、中国では自分の意見を正々堂々と述べる親が多く、グループ内での議論が白熱したり、ときにはケンカ腰になることも多いといいます。

 仕事を辞めてPTAの役員となった女性も、議論に積極的に参加するひとり。会社勤めなどをしていると、昼間に会議などがあってSNSを見ることができず、議論に出遅れたりしますが、「専業主婦ならば、PTAの仕事を優先でき、素早く議論に参加することができる」ため、「1分でも遅れを取ることがなくてよかった」と話していました。

 日本以上にSNSが発達している中国では、もし議論に30分、あるいは1時間も遅れたら、チャットのやりとりが500や1000など膨大な数に上ってしまい「やりとりを読むだけでかなり時間がかかってしまう」ことも珍しくありません。

 議論に最初から参加し、そこで上手に意見を取りまとめたり、調整したりすることも役員の「力の見せどころ」だということで、女性はいつでも、どこでも議論に“参戦”できるように、子どもの学校の送迎時間以外はスマホを肌身離さず持っている、ということでした。

 日本人から見ると「何も、そこまでしなくても……」と思ってしまいますが、中国には「孟母三遷」ということわざがあります。

 孟子の母親が、子どものために3回も引っ越しをして、よりよい教育環境を整えようとした逸話からきていることわざですが、中国人の中には、我が子の教育のためならば、自分の全精力を傾けても惜しくない、という人が今も多いのです。

 生活環境や考え方の違いもあり、精力の傾け方が日本人のそれとは違うところがありますが、積極的にPTAの役員になりたがる中国人が多いというのには、こんな理由があります。「たとえどんなことであっても、できるかぎり我が子のサポートをしたい」という中国人的な親心の表れだともいえるでしょう。

参考記事:

なぜ中国人は重いランドセルを背負う日本の子どもを見て驚き、そばに保護者がいないことを不思議がるのか?

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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