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なぜ中国人は重いランドセルを背負う日本の子どもを見て驚き、そばに保護者がいないことを不思議がるのか?

中島恵ジャーナリスト
小学校に通う子どもたち(写真:アフロ)

日本のランドセルを「お土産」に

 全国各地の小学校で新学期が始まりました。小学生といえばランドセル。日本人にとって、小学生がランドセルを背負い、数人が一緒に通学する姿は見慣れた光景ですが、こうした姿は海外では見られません。ランドセルは日本独自に発展したカバンで、江戸時代に兵隊が使っていた布製の背負いカバンが起源だといわれています。

なぜ日本では「ランドセル」を使うようになったのか

 かつての日本では、男の子は黒、女の子は赤いランドセルを使うことが一般的でしたが、現在では色やデザインが豊富になり、多機能で高品質、おしゃれになりました。

 日本でランドセルといえば「小学生が使うもの」ですが、2014年ころ、アメリカの女優、ズーイー・デシャネルさんが真っ赤なランドセルを颯爽と肩にかけている姿がメディアで紹介されたことをきっかけに、欧米では“ファッション”として注目されました。

 2015年ころになると、「爆買い」で日本に押し寄せた中国人観光客が、日本の百貨店や空港の免税店でランドセルを買い、それを「お土産」として中国に持ち帰る、ということもありました。

 中国人にとって、日本のランドセルは、アニメ『ちびまる子ちゃん』(中国語名は『桜桃小丸子』)や『クレヨンしんちゃん』(蝋筆小新)などでよく見たことがある馴染み深いものですが、中国人の大人から見ると、「高級品」「日本の匠(職人)が作った工芸品」といったイメージがあるようです。

日本人がランドセルを使っていることは、中国人もアニメなどで見て知っている(中国のサイト「日本物語」より筆者引用)
日本人がランドセルを使っていることは、中国人もアニメなどで見て知っている(中国のサイト「日本物語」より筆者引用)

 一方、中国の小学生が通学時に使っているのはリュックサックや手提げカバンです。中国には日本のような細かい校則はないので、カバンのサイズや色柄はさまざま。思い思いに、かわいいアニメのキャラクターがついたカバンを持っている子が多いですが、中にはブランドもののカバンを使っている富裕層の子どももいます。

日本人は教科書以外にも荷物が多い

 中国人から見て、日本の小学生の通学風景は、カバンが中国とは異なるということ以外に、不思議に思うところがあるようです。

 そのひとつは、子どもたちの荷物が重いこと。日本のランドセルは1000~1500グラム程度と、現在ではそれほど重いものではなく、軽量化が進んでいるのですが、教科書などを入れるとずっしりと重くなります。

 ランドセルメーカーのセイバンが2018年に行った調査によると、平均6キログラムほどであることがわかりました。子どもによっては10キログラム近くなることもあり、これは数年前に「重すぎるランドセル」として問題視されたこともありました。

 中国でのカバンの重さについて、平均値を示すデータは見つからなかったのですが、中国の小学校でも、カバンの中は教科書でいっぱいです。ただし、日本の小学生のように、体操着や楽器、絵の具、水筒などを別の袋に入れて持っていくということは中国ではあまりありません。そうしたものは学校に置きっぱなしのことが多いからです。

 荷物の量だけを比較すると、日本のランドセルのほうが重そうに見えますし、中国のSNSでも「日本人のランドセルのほうが重たいので、日本人は大変だ」と書いている人が多かったです。

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中国では保護者が一緒に登校する

 しかし、中国人がもっと不思議に思うのは、その重たいランドセルを、日本人の子どもは「自分自身で背負って」、かつ「友だち数人と一緒に」通学していることです。

 中国の小学校に行ってみて、逆に日本人が驚くのは、通学するのは子どもだけでなく、保護者が一緒であること。中国では現在でも、幼い子どもは誘拐される心配があります。とくに都市部では通学時間が日本の小学校よりも長く、交通量も激しいため、保護者が付き添って通学することが多いのです。

 付き添うのは父親か母親、あるいは祖父、祖母、お手伝いさんなどで、子どもたちだけ、あるいは子どもが一人で通学する、ということはほとんどありません。少し遠方の場合は、保護者が毎日クルマで送迎することもよくあり、子どもの通学のためにクルマを購入する人もいるほど。有名小学校の校門前には、クルマがズラリと縦列駐車していることもあります。

 徒歩の場合も多いのですが、徒歩で通学しているところを見ると、かなり高い確率で、子どものカバンは子ども自身ではなく、保護者が持っています。ときには70代の祖母が重いカバンを持ってあげて、5~6年生にもなる大きな子どもは手ぶら、ということもあります。

北京の小学校の校門前。下校時間になると、保護者が迎えに行くことが多い(2019年、筆者撮影)
北京の小学校の校門前。下校時間になると、保護者が迎えに行くことが多い(2019年、筆者撮影)

 なぜそうした行動を取るのかについて、中国人に聞いてみると、「中国の子どもはとにかく勉強が大変なんです。小学生でも宿題をやり終わるのは毎晩11時過ぎ。子どものプレッシャーが大きく、子どもはいつも疲れているので、せめてカバンくらいは持ってあげないと……」という答えが返ってきて、びっくりしたことがありました。

 日本でも、最近では、子どもを電車の優先席に座らせて、保護者が立っているという光景を見ることがありますが、「子どもが疲れているので」という理由で、代わりにランドセルを持ってあげる姿はあまり見かけないのでは、と思います。

 7~8年くらい前の話ですが、北京日本人学校の関係者が、「中国人(あるいは日中ハーフ)で、日本人学校に通っている子どもは保護者がカバンを持ち、日本人の子どもは自分でカバンを持って校門を入ってくるので、遠くから見ていてもすぐにわかる」といっていたこともありました。

子どもだけで登校できる日本人は幸せ

 日本では、登下校の際は、近所の友だちと誘い合って、あるいは近所の子ども同士でグループを作って、数人で一緒に通うことが多いと思いますが、中国では、ここまで述べてきた理由で、そういうことはできません。

 以前、日本に転勤してきた中国人の友人は、子どもを日本の公立小学校に1年間だけ通わせたことがあったのですが、そのとき、近所の子どもが声をかけてくれて、学校までの道のりを一緒に通学したことがあったそうです。友人はそのときのことを振り返り、「自分の子どもにとって、かけがえのない財産であり、よい思い出になった」としみじみ話していました。

 登下校の途中でちょっと道草をしたり、友だちと遊んだり、おしゃべりをしたりするという経験は、日本人にとってごく当たり前のことですが、それはとても幸せなことなんだと、この友人の話を聞いて感じました。新学期になり、子どもたちが元気に通学する姿を見ると、私はこのときの話を思い出すのです。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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