ゼロコロナに苦しむ医療機関 キーワードは「大部屋」
現在オミクロン株による第8波が医療機関を直撃しています。世間では全国旅行支援が再開され緩和ムードとなっている反面、連日医療逼迫が報道されています。現在の医療逼迫の構造について解説したいと思います。
地域全体でまとめて医療逼迫
新型コロナの療養を終えた後、いざ自宅や高齢者施設に戻ろうとしても、足腰が弱ってしまって自宅に帰れなかったり、食事が摂取できず高齢者施設に戻れなかったりすることがあります。
次の新型コロナ患者さんが待機している中、そのままコロナ病棟で療養を続けることは現実的ではありません。しかし、一般診療が圧迫されている中、院内の非コロナ病床に転出することもなかなか厳しいです。
となると、次に検討されるのは、後方支援的役割を持つ療養型病院などへの転院です。しかし、現在その受け皿でさえも院内クラスターが多発して、目詰まりを起こしている状況です(図1)。
このタイプの逼迫は当初コロナ病棟によくみられた現象だったのですが、第8波はあらゆる病院で同じような目詰まりが起こっています。
この医療逼迫が裾野へドミノ式に広がり、多くの医療機関に影響をもたらしているのが第8波の実状です(図2)。
どこの病院も入退院がボトルネックになっており、適切な医療を受けられる人の総和が減っている状況です。みなさんにとって一番問題なのは、入口である外来や救急医療が逼迫していることです。救急車を呼んでも搬送が困難な状態が続いています。
「A病院では処置できない急変があってB病院に転院をお願いしようとしても断られる」という事態も多くなっています。どこの病院も周辺病院の逼迫のあおりを食らって、地域全体でまとめて医療逼迫に陥っているという構図になっています。
「大部屋」が多い日本
上記以外に、医療機関の受け入れ制限が多くなる背景として「大部屋」の影響が大きいと考えます。
アメリカとは異なり、日本の病院は基本的に大部屋が主体です。全室個室の病院が増えている印象はありますが、それでも2人部屋・4人部屋をたくさん抱えている病院のほうが多いでしょう。
病院はコンクリート造で、柱を6メートルごとに建てます。たとえばこの36平方メートルの空間を4人で使って、1人あたり8平方メートル強を確保する構造が主流です。というのも、この8平方メートルというのは、「療養環境加算」という経営上メリットがある広さとなっており、同じ広さを1人で使ってもらうより経営効率がよいからです。
とにもかくにも、大部屋がたくさんあると、色々な問題が出てきます。たとえば、感染症というのは新型コロナだけではありません、現在流行期入りしたインフルエンザもそうですし、その他の耐性菌もできるだけ分けてベッドコントロールすることが望ましいのです。性別も分けます。
こう考えると、感染管理上は全室個室にしたほうがよいのですが、建物の構造は変えられませんし、今あるハードウェアで診療を続けるしかありません。
コロナ病棟がない医療機関では、新型コロナの患者さんだけを集めて管理していますが、それでもベッドコントロールのパズルをうまく組み合わせられないことがあり、「物理的に空床はあるが受け入れ不可」が常態化しています。
手術待機中の患者さんが入院している大部屋の空床に、新型コロナの患者さんを入院させるわけにはいきません。感染すれば手術は延期になりかねません。
そのため、基本的に病院ではゼロコロナを継続することになります。世間のように徐々に緩和がすすんでいないのが現状です。
「5類化」は快刀乱麻を断つか?
「5類感染症」にスイッチするというのは既定路線と思われます。第8波が収束したあたりで決定されるかもしれません。
「5類化」した場合、外来診療のキャパシティは底上げされる可能性はありますが、地域の中核病院に関しては、上述したような医療逼迫構造が根本的に解決されるわけではなく、診療業務がコロナ禍前のように回復するとは期待していません。
時期はともかく、国全体でウィズコロナをすすめていくことに異論はありません。しかし、インフルエンザですら院内に広げるわけにはいかないという感覚で診療していますので、医療機関は間違いなくゼロコロナ戦略を継続することになります。
まとめ
蓋を開けてみると、第8波の死亡者数は第7波の約1.5万人を超え、過去最大の波となっています。
大部屋が多い日本では、インフルエンザシーズンだけの短期間ならともかく、ゼロコロナを維持しながら一年中通常診療を続けていくことは難しいでしょう。
中長期的には「5類感染症」へのスイッチは妥当かもしれませんが、現在の医療逼迫構造を局面打開できるほどのインパクトがあるかどうかは議論の余地があります。