オンライン調剤薬局が現実に 「Amazonファーマシー」・「楽天ヘルスケア ヨヤクスリ」
調剤薬局に足を運ぶことなく、オンラインで服薬指導を行い、薬を配送してくれるサービスである「Amazonファーマシー」と「楽天ヘルスケア ヨヤクスリ」が登場しています。すでに運用が開始されていますが、実際の医療現場の評判はどうでしょうか。
オンライン服薬指導と薬の配送が可能に
私の外来でもすでに何人か、「Amazonファーマシー」あるいは「楽天ヘルスケア ヨヤクスリ」を使った患者さんがおられます。これらは正確は「オンライン服薬指導と薬の配送を行うサービス」であるため、タイトルの「オンライン調剤薬局」には少し語弊がありますが、実質的にはオンラインで調剤業務が完結できることになります。
結論から先に書くと、スマホに慣れていない高齢者などでは、従来のようにかかりつけ薬局に足を運ぶ方がシンプルで分かりやすいかもしれません。ただ、今後軌道に乗れば「化ける」可能性があると感じました。
「急がないから薬を自宅に配送してほしい」という人は、このサービスを試してみる価値があるかもしれません。
コロナ禍が後押し
2022年の薬機法改正により、ビデオ通話をおこなうことで初回の服薬指導や薬の処方がオンラインで可能になっています。コロナ禍では、電話のみでも特例で許可されていましたが、現時点では認められていません。
新型コロナの流行期では、処方された薬を薬局に取りに行くのが難しいシーンもあり、調剤薬局から配送するという仕組みも活用されました。薬局自身が配送を手配したり、帰宅途中に患者さんの自宅に届けたり、当時は大変だったと思います。
「Amazonファーマシーの」利用手順
Amazonファーマシーは、「ファーマシー」と名前がついています。繰り返しますが、厳密には薬局ではありません。こちらはオンライン服薬指導のプラットフォームです。
Amazonファーマシーを利用するためには、まず医療機関を受診して処方せんを発行してもらう際、「電子処方せんを利用したい」と伝える必要があります。このとき、引き換え番号が記載された「処方内容(控え)」の用紙を受け取ります。あるいは、6ケタの引き換え番号が伝えられることもあります。
この処方せん情報を、Amazonショッピングアプリ上にアップロードする必要があります。最寄りの提携薬局を選び、オンラインビデオ通話での服薬指導の予約を取得する必要があります。服薬指導なしに薬だけ受け取ることはできません。
予約時間になったら、アプリからビデオ通話で服薬指導を受けます。通話が終わると、注文が確定され、Amazonでの支払いが完了します。オンラインで完結したい人の利用が主体なので、基本的には自宅へ配送されます(直接取りに行くことも可能)。
「楽天ヘルスケア ヨヤクスリ」の利用手順
Amazonに先んじて、楽天は2024年4月から薬局で薬の受け取り予約ができるサービス「楽天ヘルスケア ヨヤクスリ」を開始していました。こちらは、処方せんをオンラインで受け付けるというサービスが発端です。
2024年8月から、オンラインで服薬指導を受けた場合、自宅に薬を配送してくれるサービスを開始しました。Amazonファーマシーの動きに足並みをそろえた形となります。
オンライン診療には現時点では対応していませんが、基本的な流れはAmazonファーマシーと同じです。ただ、電子処方せんだけでなく、医療機関から処方せんをヨヤクスリ薬局にFAX・郵送で送付し、それをもとに調剤・オンライン服薬指導・調剤を行うことが可能です。
さらに薬の配送は、楽天が運営する調剤薬局「ヨヤクスリ薬局」が実施するため、中央に調剤薬局を置いているという点が強みです(現時点ではAmazonには、一般用医薬品等の在庫はあるが、処方せんが必要な薬剤は在庫として置いていない)。また、ヨヤクスリの利用料・配送料は無料というメリットもあります。
サービスへの期待
①時間の削減
調剤に関するオンライン化は、調剤薬局が遠い人にとってはありがたいサービスになるでしょう。かかりつけ医や自宅から離れた場所に調剤薬局がある場合、立ち寄るだけで一苦労ということもあります。オンラインで完結できるため、待ち時間や移動時間の削減が可能です。
現状では楽天のほうが一歩踏み込んでいるように見えます。しかし、アメリカの場合、Amazonは独自の薬局を有しており、さらに自社の物流インフラを最大限に活用しているので、日本のAmazonもこのような体制にいつかシフトする期待があります。アメリカの一部では、ドローンによる薬の配送をおこなっており、同日どころか1時間で届くという驚異的な取り組みが始まっています。
②オンライン診療と連携可能
Amazonは、オンライン診療サービスである「CLINICS」と連携しているので、たとえばオンライン診療を受けて、オンライン服薬指導を受けたのち、配送をお願いすることができます。疾患や病態にもよりますが、家から一歩も出ずとも投薬まで完結できる可能性があります。
医療過疎地域に住んでいるが、薬を取りに行かないといけない高齢者や寝たきりの方には、こういった仕組みは重宝されるでしょう。
サービスへの懸念
①電子処方せんの普及率の低さ
電子処方せんシステムを導入しているのは、医療機関全体でも2~3%であり、経験がない医師のほうが多いでしょう。
楽天は電子処方せんでなくとも対応できるのですが、FAXや郵送まで一手に受け付けると、調剤薬局側の作業量が増えてしまうので、電子処方せんをもう少し普及させないと、このサービスを広めることは難しいかもしれません。
②配送の遅延
オンライン服薬指導を受けた後に調剤されて初めて発送されるため、日本の物流事情を考えると、当日配送は厳しいでしょう。Amazonは、薬剤を倉庫に保管しているわけではないので、基本的に調剤薬局が配送を手配することになります。
感染症やその他急性疾患の場合、内服開始が遅れてしまうリスクがあるかもしれません。利用は「薬の配送は急がない」という患者さんに限られるでしょう。
③薬剤師の業務負担
対面での調剤は、処方せんを受け付けて調剤し、服薬指導とともに手渡しする流れになります。オンラインも場合、処方せんを受け付けて、予約時間に合わせてビデオ通話で服薬指導をおこない、その後調剤して、自薬局で配送手続きを取らなければなりません。世の中の多くの人がオンラインで完結してくれれば作業の効率化が図れるかもしれませんが、現状だと調剤薬局の手間が増えてしまいます。
まとめ
代表的なオンライン服薬指導プラットフォームの期待と懸念を挙げました。配送をUberに委託して独自に類似のシステムを運用している企業もすでにあり、今後どのようなシェアになっていくのかが注目されます。
どの分野でも働き手が少なくなっていくことが決定的であることから、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」は大きなテーマになっています。
ユーザーが増えれば作業の効率化がすすむため、案外10年後・20年後には「オンライン調剤薬局」が当たり前になっているかもしれませんね。