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アジアカップ、オマーン戦に挑む森保JAPAN。直面する「世界」の正体とは?

小宮良之スポーツライター・小説家
トルクメニスタン戦、堂安律の得点後。世代間の融合は続く。(写真:ロイター/アフロ)

メンタルの難しさ

 UAEで開催のアジアカップ。その初戦、日本は伏兵トルクメニスタンを3-2と下したものの、思いの外、苦しんでいる。

 5-4-1と守備的な布陣を組んだ敵に対し、ボールを持って攻め懸かるものの、決定機を創り出せない。焦る必要はなかったが、全体が前がかりになってしまた。崩しきらず、シュートに直接つながるようなパスを狙いすぎた。必然的に、カウンターを浴びる流れになった。

 そして前半27分、左サイドから入ってきた選手への寄せが明らかに甘い。振り抜かれたシュートはネットへ。先制点を奪われてしまった。

 前半は0-1で、すべてが後手に回っている。

 相手を軽視した、とは言いきれないが、確実に油断はあった。例えば、ウルグアイと対戦したときのような強度はない。むしろ、トルクメニスタンの選手たちが最大限に集中を高め、日本に挑んできた。

 メンタルスポーツであるサッカーの難しさが出たと言えるだろう。

ポジション的優位を保てなかった日本

 日本はまず、攻め懸かる人数が多すぎた。7人前後の選手が敵ゴール前に殺到。攻めているときに守っている、というのが戦術の基本で、たとえ力が劣る相手であっても、そのロジックを崩したら、プレーは破綻する。

 選手同士の距離感が悪く、ポジションもズレていた。ポジション的優位を保つことができていなかった。前半35分、攻め込まれたシーンでは連続して守備で後手に回っている。倍の人数が陣取りながら、守備者の立ち位置が悪く、ボールを奪いきれない。ボランチは外に釣り出され、いるべきポジションを失っていた。その結果、相手アタッカーにスペースを突かれ、決定的なシュートを放たれている。GK権田修一(サガン鳥栖)のファインセーブで難を逃れたものの、0-2にされてもおかしくはないピンチだった。

 後半になっても、チームとしては精彩を欠いている。徐々に相手に疲労が見え始め、本来の力の差が歴然となったに過ぎない。後半11分、左サイドの原口元気(ハノーファー)のパスを、大迫勇也(ブレーメン)がエリア内で受ける。三方をディフェンスに囲まれながらも、卓抜したボールコントロールでシュートコースを作り、右足で叩き込んでいる。圧倒的な個人技だった。

 これで、トルクメニスタンの集中が切れ、日本は自信を取り戻した。

「世界」と直面する森保JAPAN

 後半15分、ディフェンスラインの吉田麻也(サウサンプトン)からのロングパスを、原口がヘディングでつなぎ、左サイドを長友佑都(ガラタサライ)が駆け抜け、中央に折り返す。最後はファーサイドで待っていた大迫が2点目を決めた。ロシアW杯を主力として戦った3人は、力の差を見せつけている。

 そして後半26分、パス交換からエリア内に入った堂安律(フローニンゲン)が反転からのシュート。ディフェンスをかすめながら、3点目。新鋭アタッカーが猛者たちの後に続いた。

「世代の融合」

 森保一監督が掲げているように、チームは変革期にあるのだろう。

 その点、トルクメニスタン戦の勝利は今後の試金石になる。代表選手としての独特の重圧。ホーム開催の親善試合とは違い、真剣勝負の大会はその濃度が一気に増す。強豪であれ、格下であれ、負けることは許されず、連続した緊張感と向き合うのは簡単ではない。たった一つのプレーで命運が決まるからだ。

 そこに「世界」はある。

 世界は、何も強敵だけを指すのではない。

独特のプレッシャー

 日本は2点をリードし、試合をクローズしたいところだったが、実際は危ない場面の方が多かった。DFとGKの連係では冷や汗をかいた。前半も含め、クロスボールの対処に不安を残している。

 そして後半34分だった。自陣で不用意にボールを失い、カウンターを浴びる。攻めに回ったときに守備のポジションが満足にとれておらず、センターバックは中央を突っ切られてしまい、完全な独走を許してしまった。この1対1をGK権田はファウルで止めざるを得ず、PKを献上。3-2と1点差に縮められた。

 結局、勝ちきったし、実力差が出たが、チームとしては改善の余地を残している。独特のプレッシャーの中で本来のプレーをできるか――。その精度を、個人としてチームとして、高めていくしかない。

 では、どこに改善点はあるのか?

最高のバランサーだった長谷部誠

 過去10年近く、日本代表にはポジション的なバランスをとれる選手がいた。

 2010年南アフリカW杯、2014年ブラジルW杯、2018年ロシアW杯とキャプテンマークを巻いてきた長谷部誠(フランクフルト)だ。

 長谷部は自らが立ち位置をずらし、角度を作ることで、周りをサポートし、生かすことによって、試合をコントロールすることができた。日本サッカー史上最高の戦術的プレーヤーだった。試合全体のバランスを俯瞰でき、相手の勢いを受け流し、盛り返す、という老練さに長けていた。チームに血を行き渡らせるようなポンプ機能というべきか。淡々と乱れを整え、活力を与える。ロシアでは、中盤でコンビを組んだ柴崎の天才的センスを十全に引き出していた。

 率直に言って、長谷部に代わる存在はなかなか見つからない。

 トルクメニスタン戦は、柴崎岳(ヘタフェ)、富安健洋(シントトロイデン)がボランチを担当していた。柴崎は鮮やかなパスを何度か打ち込み、才能の片鱗を見せるも、それ以上に一本のパスで崩そうと狙いすぎ、カットされて逆襲を受ける場面があった。富安は強度の高い守備からのミドルシュートなど奮闘も、そもそもセンターバックが本職だけに、長谷部のようにバランスをチームに与えることはできていない。

 二人とも攻め急ぎを加速させ、危機管理を失い、決定機を相手に献上していた。

 中盤でチームを動かすポジションは生命線だ。

長谷部に代わる存在

 第2戦のオマーン戦では、高熱で合流が遅れた遠藤航(シントトロイデン)が先発することになるか。遠藤は長谷部に近い働きができる。相手の攻撃を未然に防ぐポジションを取れるし、スペースに対する反応が鋭敏で、相手に好きなようにさせない。プレーがシンプル。攻守を回すような感覚で、目立たないときほど、効率的だ。

 昨年のウルグアイ戦は、それが顕著だった。前半、スローインのクイックスタートを感じ、前線でフリックパスに成功し、大迫にGKと1対1の場面を作っている。さらに2点目も、簡単(迅速)に右サイドの堂安律にさばいていたことで、得点につながった。

「(堂安)律や(中島)翔哉たちには攻撃で存在感を出して欲しい、と思っていました。前に仕掛けられる選手たちを、守備で消耗させないように。自分はリスクマネジメントをしながら、セカンドボールを拾えるか」

 遠藤はDFラインとFWラインをコンパクトに結びつけていた。単に下がったポジションを取るのではない。味方のパスコースを作りながら、敵のパスコースを消せるのだ。

 もっとも、長谷部の境地にはまだ遠い。遠藤以外にも、橋本拳人(FC東京)、三竿健斗(鹿島アントラーズ)などライバルの台頭が望まれる。森保JAPANは変革期にあるのだ。

 次のオマーンは実力的には格下と言える。しかし、それも「世界」である。簡単な勝負はない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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