田中将大のヤ軍入団契約が、与えるFA先発投手市場価格への影響。
新ポスティング制度を利用して大リーグ移籍を目指した田中将大投手が、22日(日本時間23日)、7年総額1億5500万ドル(約161億円)でヤンキースと基本合意に達したニュースが、日米のメディアを賑わせた。巷では、“100億円超え”は囁かれていたものの、実際に初年度から年俸2200万ドル(約23億円)という仰天の金額に驚いたのは、一般のファンだけではない。
「信じられないような金額だし、ビックリした。そりゃ、無関心でいることは難しかったよ」
一夜明けた23日、昨年のワールドシリーズを制覇したレッドソックスの左腕エース・レスターは、ボストン市内で行われた表彰式に出席し、田中の契約について、率直な感想を語った。
田中のヤ軍入団決定翌日に、レスターが番記者に囲まれたのには訳がある。09年オフに古巣のレッドソックスと5年総額3000万ドル(約31億円)を結んだ左腕エースは、2014年オフに満了(2015年は球団が年俸1300万ドルのオプションを持つ)となるからだ。その5日前となる米国時間17日には、ドジャースのエース・カーショーが7年総額2億1500万ドル(約224億円)という大型契約を結んだばかり。入札金に2000万ドル(約20億円)の上限が出来た新ポスティング制度は、複数球団の競合による争奪戦となるため、“実質的FA”と称される。先発投手のFA市場価格の高騰を証明する高額契約が、立て続けに締結された今、米メディアが“田中余波”で最も影響を受ける存在と報じていたのが、07年に続き、自身2度目の”世界一”に貢献し、球宴選出2度、ノーヒッターなど輝かしい経歴を持つレスターだった。
「市場価格が下落するより、選手にとってはいいことなんじゃないかな。テレビ放映権などの収入によって、球団に十分な利益が入るからこそ、こういう契約が成り立つ背景を考えれば、球界にとっても悪いことではないと思う」
レスターは一般論として歓迎の意見を述べた後、自身の状況を踏まえて、「でもね」と切り出した。「タナカの契約で自分の契約を推察しようとは思わないし、カーショーの契約を盾に、バー(基準)を設定しようとは思わない」と。
何故か。それは、レスターは2015年のオフにFA市場に出るよりも、レッドソックスへの残留を望んでいるからだ。
「僕はレ軍で育った。家族にとってもボストンは故郷。だから、残留が第一希望だ。残留交渉は、入札球団が1球団しかないのと同じ。当然、FAの市場価格より相場が低くなるのは理解している。ディスカウントを覚悟しているのかって? 勿論だよ。ビジネスがそうなることは、十分理解している」
“格安残留”を覚悟しているレスターは、同じく生え抜きの同僚であり、同じ代理人を抱えるペドロイア二塁手を例に挙げ、その心境を説明した。ペドロイアは、フランチャイズプレーヤーとなることに、意義を見いだし、6年契約の5年目だった去年のシーズン中に8年総額1100万ドル(約110億円)という契約でレ軍と合意した。同じ二塁手の元ヤンキース・カノが今オフ、マリナーズと10年総額2億4000万ドル(約240億円)という破格の契約を結んだことを思えば、“格安感”は否めなかったが、レスターは「彼は、彼のやりたいことを実現するために、札束を机に置いたまま、レ軍と契約した。その気持ちは僕には理解できる」と語り、オプションの最終年を待たず、今年の春季キャンプ中からでも、交渉の話し合いに望む準備がある意向を示した。
「タナカやカーショーには、彼らの選択がある。僕には僕の選択がある。僕は、僕と家族がフェア(公正)だと思える契約なら、それでいい。かといって、先発投手のFA市場価格を引き下げるようなヤツにはなりたくないけれどね」
価値観は人それぞれ。それでも、代理人が比較対象の駒をテーブルに置いて、交渉するのが、メジャーのビジネスであり、“前例”が次の契約に大きく影響するのが、市場原理ならば、マー君の襲来がメジャーの市場に大きなインパクトを与えたことは、間違いない。レスターが残留すれば、恐らく、平均年俸2200万ドル(約23億円)という田中の契約を上回ることはできないのではないか。それが、メジャーでまだ1球も投げたことのない田中の契約の大きさを改めて物語っている。