五輪イヤー初の活動で好感触を得たなでしこジャパン。攻守の強度を高めてアメリカ遠征へ
【五輪イヤーの幕開け】
なでしこジャパンは、2月14日から19日まで6日間、福島県のJヴィレッジで2020年最初の候補合宿を行った。
ベスト16で終わった昨夏のFIFA女子W杯フランス大会の経験を糧に、東京五輪での金メダルを目指す。W杯は23名が出場したが、五輪では登録メンバーが18名になるため、否が応でも競争は激しくなる。
今回の合宿に選ばれたのは25名。W杯メンバーを軸に、昨年のリーグなどで実績を残した数名が加わった。昨年12月のEAFF E-1 サッカー選手権 2019 決勝大会で優勝したときのメンバーがそのままスライドした形(今回はケガのためMF長谷川唯とMF林穂之香が不参加)となる。
14日からの合宿に先立ち、11日から14日の午前中にかけては、なでしこジャパン入りを目指す選手18名による「なでしこチャレンジキャンプ」が行われた。
登録メンバーは代表候補25名の大枠から選ばれることが濃厚だが、なでしこチャレンジメンバーも自らの可能性をアピールしてチャンスを狙う。総勢40名強の大枠から、五輪の18枠をめぐる厳しい戦いが繰り広げられる。
今回、主将のDF熊谷紗希ら海外組は、シーズン中のため招集外となったが、森保ジャパンと異なり、なでしこのメンバーは国内組がほとんど。そのため、代表活動で主力を集めやすいアドバンテージはある。その中で、昨年の女子W杯では招集外となり、その後、五輪のメンバー入りへの強い思いを胸に環境を変える決断をした選手もいる。
ドイツ1部のフライブルクSCからなでしこリーグ1部の浦和レッズレディースに復帰したMF猶本光は、「(海外ではシーズン中のこの時期の合宿に参加できることは)日本でプレーするメリットの一つだと思うし、この合宿に参加したことで次に繋がるので、スタートラインに立てたと思います」と話す。
また、韓国1部の水原WFCから1部のマイナビベガルタ仙台レディースに加入したFW池尻茉由は、復帰について「代表に入るためには国内でプレーした方が自分の成長につながると思うし、プレーを見てもらえる機会もあると思ったからです」と明かした。
また、国内では久々の大型移籍があった。リーグ4年連続得点女王のFW田中美南が、日テレ・ベレーザからINAC神戸レオネッサに移籍。下部組織も含めると13年間プレーしたクラブを離れた決断について、田中はこう語っている。
「なでしこリーグでは点も取れていましたが、ベレーザの選手たちのおかげというのもありました。代表で自分の良さが出せないとなった時に、代表や五輪を目指したら今のままじゃダメということだと思いました。新しいチームで、味方の特徴もわからない状況でどうコミュニケーションをとって作り上げるか。新しい選手たちとプレーすることで自分が今までなかった引き出しを増やせるのではないかと。それが代表にも生きてくるのではと思いました」(1月/新入団会見)
【W杯の教訓を生かして】
この合宿から五輪本番に向けての代表活動の中では、周囲とのコンビネーションの中で個人の持ち味や強みを発揮できることが最大のアピールになる。
高倉麻子監督は、「W杯以降、攻守ともにやることは全体的に積み上がってきて、精度も上がってきています。テーマはコンディションを上げながらコンビネーションを作ること、守備の強度を上げていくことです」と、今回の合宿の狙いを語った。
女子W杯フランス大会では、4試合で3得点5失点とゴールが少なかった。だが、W杯後はカナダや南アフリカとの親善試合、E-1選手権のチャイニーズタイペイ、中国、韓国との3試合で、5連勝・19得点で失点はゼロ。相手によって強度の違いはあるが、メンバーの大枠が固まって最終ラインが安定し、試合の中での修正力や勝負どころでしっかりと決めきる場面が増えた。
今回の合宿では、3日目にいわきFC U-18(男子高校生)との合同練習、5日目には筑波大学男子サッカー部との合同練習を実施。フィジカルの強い海外選手を想定した強度の高いトレーニングを行った。
右サイドのレギュラーを務めるMF中島依美(INAC神戸レオネッサ)は、「男子選手はスピード感が海外の選手に似ているので、1対1の間合いの取り方は考えさせられます。自分の間合いを知って、どの相手に対しても通用するようにしたいです」と話し、左サイドを主戦場とするMF遠藤純(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)は、「去年に比べると、1対1の局面で相手に体をぶつけることができたり、(体が)ブレることが少なくなりました。周りと連係できるようになったので、思い切り(ボールを奪いに)いける場面も増えました」と、成長の実感を口にした。
守備面では、ドイツから復帰した猶本の強さが光った。11月の南アフリカ戦に招集された際は、「出てくるパスのタイミングとか、自分がボールを持った時に味方が動き出す位置がドイツとは違うので、慣れるのに時間がかかります」と、異なるスタイルのサッカーからなでしこジャパンのサッカースタイルに適応する難しさを口にしていた。
だが、今回は代表との共通点も多い浦和に復帰してから代表に合流したため、「あまり違和感は感じませんでした」と手応えもあったようだ。スピードのある男子選手に対しても鋭いスライディングでクロスをブロックし、正確で強い縦パスを通すなど、海外で培った強さを周囲との連係の中で発揮していた。
ミーティングでは、五輪出場国の情報も共有されたようだ。現時点では、開催国の日本を含めて、アメリカやブラジル、イギリスやニュージーランドなど、アフリカとアジア以外の8カ国の出場が確定している。
「オリンピックの対戦相手(出場国)の分析も入ってきています。相手によってどう戦っていくかを選手たちと話しながら、それに合ったトレーニングをしていきたいと思います」(高倉監督)
なでしこジャパンは今後、3月5日から11日にかけてアメリカ3都市で行われるシービリーブスカップでアメリカ(FIFAランク1位)、イングランド(同6位)、スペイン(同13位)の強豪3カ国と対戦する。4月には「MS&ADカップ2020」でニュージーランドと対戦が決まっている。スペイン以外の3カ国は東京五輪に出場するため、この4試合が本番に向けた試金石となる。
また、5月から7月にかけて3回の国内キャンプ、6月と7月には国際親善試合(対戦相手は未定)が予定されており、今回の合宿を含めると、五輪本番までの代表活動期間は2カ月近くに及ぶ。
「五輪までは残り150日ちょっとですが、代表活動は50日ぐらいなので、両方の数字を意識しながら、代表で集まることができる期間を大事にしていきたいです」
FW籾木結花は、本番まで1日も無駄にしない覚悟を言葉に込めた。
【コンディショニングへの意識】
フィジカル面の強化やコンビネーションの構築と並行して、高倉監督が強調するのがコンディショニングだ。
昨年の女子W杯では、大会期間中ケガ人が予想外に多く出てしまった。これについては、大会後にJFAの今井純子女子委員長から検証結果が発表され、その中で「チーム強化の期間(特に2、3月)から、W杯で軸となると予想された選手たちがケガやコンディション不良によって離脱していた」ことが報告されている。
各チームで主力としてリーグ戦やカップ戦、皇后杯をフルで戦ってきた選手たちの疲労の蓄積や、国内リーグとの強度の違いによる身体への負担もあっただろう。同じ轍を踏まないためにも、フィジカルトレーニングや入念なストレッチに加え、日常での取り組みについても様々な情報が共有されている。そのせいか、今回の合宿はオフ明けで各チームが始動して日が浅かったにもかかわらず、多くの選手が軽快な動きを見せていた。南萌華(浦和レッズレディース)もその一人だ。
「オフの期間はしっかりと体作りをしてきました。シーズンが始まってからは体を動かしてトレーニングしたものをしっかり生かしながら、最終的にオリンピックに良いコンディションで持っていきたいと思っています」
3月のシービリーブスカップのメンバーは近日中に発表される。女子サッカーが人気スポーツとして根づいているアメリカでの大会は毎年、大勢の観客の熱い声援のなか、素晴らしい雰囲気の中で行われる。昨年のW杯でアメリカが優勝したことを受けて、今年の大会はさらなる盛り上がりを見せそうだ。
これまで、高倉監督は勝ち癖をつけるためにとマッチメイクの相手のレベルを調整することなく、優勝候補や強豪国との対戦を望んできた。そのなかで頂点への道を探り続けてきたチーム作りもいよいよ最終段階に入ろうとしている。
なでしこジャパンは3月5日にスペイン、8日にイングランド、11日にアメリカと対戦する。試合はNHK BS1で3試合が生中継される予定だ。
(文中の写真はすべて筆写撮影)