【インタビュー】スキマスイッチ ”アナザ―ベスト”は、二人からしか生まれない自由かつ緻密なポップス集
ポップス職人が放つ名曲の数々
今年に入って、1月末から「全力少年」(‘05年)がCMで使用され、最近では「フレ!フレ!」が『ミニストップ』のCMソングに起用され、また’04年発売の「奏(かなで)」は今も人気で、幅広い年齢層から支持を得、聴き継がれている――そんな色褪せないエバーグリーンな作品をこれまでも数多く残してきた、まさに“ポップス職人”という呼び方がピッタリのスキマスイッチ。そんなポップスの名曲を作りながら、カップリング曲では自らが“実験”と呼び、様々な音楽にチャレンジしてきた。さながら“ポップス職人の実験室"から生まれる作品たちは、やはり良質なポップスで、そんな曲達を集めたベスト盤『POPMAN’S ANOTHER WORLD』が4月13日にリリースされ、好調だ。2013年にリリースしたベスト盤『POPMAN’S WORLD~All Time Best 2003-2013~』と対をなすベスト盤で、二人の実験室から生まれた、カップリング曲の数々を集めたこのベスト盤について話を聞いた。そしてセルフプロデュースならではの、自由かつ緻密に構築していく楽曲の制作秘話、新たなスタイルのツアーについてなど、改めてスキマスイッチというアーティストの実像を探ってみた。
二人の実験室から生まれた作品を集めた『POPMAN’S ANOTHER WORLD』
――『POPMAN’S WORLD-ALL TIME BEST~2003-2013~』から3年後に今回のベストアルバムです。このタイミングは当初から決まっていたんですか?
大橋 いえ、むしろ決まっていなくて今回『POPMAN’S~』が3年前だったということに気づきました。いわゆるカップリング集なので、Bサイドという要素をタイトルに入れられないかと考えて、アナザーワールドというタイトルが出たぐらいなので。
常田 これまでシングルもたくさんリリースさせていただいたので、カップリングも増えてきて、これを一枚にまとめたいなという気持ちはありましたが、タイミングは全然考えていませんでした。
――気がつけばシングルはもう23作。二人が積み上げてきたシングル曲と同じようにカップリング曲も増えてきて、資料によるとカップリングは「より実験的な部分が大きかった」とありますが、シングル曲よりもカップリング曲の方がエピソードが多いというアーティストも少なくありません。デビューの時から、カップリング曲はシングルの表題曲では出来なかったこと、やらなかったことをやろうという姿勢だったんですか?
大橋 デビューのときはそういう発想ではなくて、そもそもシングルというものを出したことがなかったのでとにかく憧れていました。デビュー曲「view」は、シンプルに表題曲とデビュー前からライヴでよくやっていた「小さな手」を入れようという感じでしたが、2枚目からは実験的要素が入ってきていました。
常田 やっぱり表題曲の場合は、自分たちだけの純粋なクリエイティブな気持ちに加わえて、色々な要素を加味して創作しなければいけない側面もありましたので。
大橋 コラボレーションという感覚で作るのが僕らはすごく好きで、そこは自分たち二人からしか生まれないものが入ってくる面白さを、最近また感じています。タイアップ曲のように、僕たち以外の人達とやりとりしながら創っていく作品のキャラクター、逆に二人だけで創った作品のキャラクター、それとアルバム曲は前に作った曲がこういう感じだから、今回はこういう感じでという、曲同士の相互関係を考えたキャラクター、曲のキャラクターって全部違うんです。タイアップ曲=表題曲は、いただいたテーマから入っていきますが、カップリング曲に関してはクリエイティブありきで、お互いノッてきた時にできるというイメージなので、そういう部分で話しが盛り上がるのかもしれませんね。
「まず相方を”おお!”といわせるものを作りたい」(大橋)
――シングル曲も当然最大限の力を発揮して、良いものを創ろうとやっていると思いますが、逆にカップリング曲のほうが余計に力が入るというか、楽しめるからこそ逆に力が入ってしまう感じもありますか?
大橋 ありますね。まず二人のなかで相方に対して「おお!」と言わせるものを作りたいというがありますね。カップリング曲がよりそれが強いですね。こんなアイディア持ってきたぞ、みたいな。表題曲になると二人で立ち向かっているようなイメージになりますね。
――でも本当に色々な曲にチャレンジしていますが、やっぱり心にスッと入ってくるのは大橋さんのボーカルと常田さんのピアノですよね。もちろん考え抜いたアレンジ、素晴らしいミュージシャンが弾き出す音の数々も、スキマスイッチの音楽だと思いますが、やっぱりスキマスイッチの音楽って二人で作っている音楽なんだなという感じを、このアルバムを聴いて再認識しました。
常田 2人というのは最小形態というか、一番小さい“かたち”ですからね。それに楽器を重ねて飾っていけばいくほど、何かが欠けていくというか。その感覚は表題曲でもあって。昔は音数をとにかくたくさん入れていたので、そうすると隙がなくなっていく分、ある種クオリティが高くなっていくのかもしれないですけど、聴いていて面白くなくなっていったり、伝わるはずのものが逆に伝わり辛くなったり。サウンドとしてはいいんだけど、そうすると歌詞が届きにくくなるとか、そういう意味でいうとピアノ1本というのは一番シンプルで好きですよね、聴いている人たちもそうだと思います。
――確かにそうかもしれません。
常田 色々なとこに耳を傾けなくていい分、余計なこと考えなくていいのかもしれないですね。
大橋 本当に言われた通り感覚が違いますね。二人でやることも楽しいですし、アンサンブルの中で、楽器がたくさんある中でやっている時は、バンドのボーカルのようなイメージで歌っていますし、バンドの時にはライヴでもそうなんですけど、楽器の音圧に負けない歌を歌わなきゃと思うこともあります。ピアノ1本の時は、トーンを押さえて歌っても聴こえるので、表現の仕方が違いますね。
――スキマスイッチのライヴにまだ行ったことがない人は、こういうピアノの音色を弾く人と、きっちり歌ってくれる人がやっているんだ、ということを再認識できそうですね。
大橋 「スキマって何人なの?」ってよく言われますし、楽器が色々入った楽曲が多いので、それでいうと「あ、そっか」って感じもあるかもしれないですね。
「一発録りは好き。その場の空気ごと聴き手に届けたい」(常田)
――カップリング曲、一発録音っていう曲が多いですよね。
常田 そうですね、一発録音好きですね。
――やっぱり、その緊張感がいいんですか?
常田 色々あるのですが緊張感も面白いですし、一発録りでしか出ない空気感は、ライヴで聴くものがCDで聴く音源と全く一緒だというのも凄さのひとつで。でもライヴになるとCDと全然違うというアーティストも多いと思うし、僕らどちらかといえば後者ですし。ライヴはCDを再現しない、その場の一瞬の空気をみんなで楽しむのが好きです。だからレコーディングも一発録りにして、その場の空気ごと聴いている人に届けて、その時の空気感を感じてもらえると面白いのかなと思って。あとライヴテイク、僕らライヴアルバムもずっとリリースしていて、単純にライヴが好きなんですね。
――参加しているミュージシャンも腕のみせどころですよね。
大橋 便利なものが増えれば逆行したくなる、ミュージシャンの意地みたいものがあって。今はもう、あとからどれだけでも音をいじれますからね、その真逆をやってやろうという。
――「夕凪」、いいですよね。
常田 アナログですしね。でも僕は実は昔は一発録りが嫌いでした。打ち込みで音楽を始めたということもあって、当時は自分が弾くというイメージがなかったんです。でも弾かないとライヴができないという状況で、必死で練習をするんですけど、練習する暇があったら打ち込みの研究したいと当時は思っていました(笑)。鍵盤はスイッチだと思っていましたから、音が出るスイッチ。だからデビューして何年かは、ライヴは発表会みたいなイメージがあって、CDの音を再現しなきゃって思ってたんです。でも卓弥に「やっぱりライヴ感でしょ」と言われ、だんだん感化されていきました。
大橋 逆にいうと、ライヴ感をいかにCDに落とし込むかいう意味では一発録りはすごく良い方法ですし、多重録音とはなにより“間”が違います。多重録音は計算しながら、一緒にディレクションしながら作っていく、構築美としては楽しいことですから、その上に僕のボーカルが乗って完成という、そういう意味では車を作るのとあまり変わらないんですよね。でも一発録りはスポーツっぽくて、一つのものに全員で向かっていくみたいな感じがあって。空気感、やっぱり“間”ですかね。一つの音楽に対して全員で走り出して止まって、また走り出して、誰かが早かったり遅かったりしてもそれがグルーヴになりますし、歌がどう変わってくるかということを考えると、一発録りでやったほうが、言葉を活かした歌い方をしているんじゃないかなと思いますね。一方でとつとつと歌うような曲は、敢えて一発録りはやめて、構築美を見せるということも手法としてやるようになりました。
気がつくとセルフプロデュースでやることに!?
――プロデューサーを立てずに自分達で曲を作って、アレンジを考えてというところがスキマスイッチの大きい部分だと思いますが、プロデューサーと呼ばれている人たちとやりたいと思ったことはあったんですか?
大橋 僕らが自分たちで、セルフプロデュースでやりたいですって言ったわけではないんです。最初はプロデューサーがいて、僕らの楽曲に美しい洋服を着せてくれるんだろうなぁ、デビューってそういうものだよなぁ、くらいに思っていたので(笑)。でも気がつくと二人でやっていて、だから最初は探り探りですごく悩みました。よく「なんかプロっぽくないよね。デモ感が抜けないよね」って話をしていました。レコーディングの仕方なのかアレンジなのかなんなのか、今考えれば色々な要因があって、でもそのやり方でしかできないのでずっと続けてきて。お客さんもそういうものとして聴いてくれるようになったので、結果論にはなりますが、これがスキマスイッチのカラーになったというか。
常田 プロっぽいか、ぽくないかという話を最初の頃は本当によくしていました。
大橋 最初どころじゃなくて、ここ2、3年ですよ、その言葉が出なくなったのは。何をもってプロっぽいのかはよく分からんないですけどね(笑)。
――もともとプロデューサー気質の2人だからこそ、スキマスイッチは成立しているってことなんでしょうか?
大橋 気質というか、曲に関して気になるところがたくさんあるんでしょうね。それがプロデューサー気質っていうのかもしれませんが、こうしたい、でもそうならない、じゃあどうするかって考えるのは嫌いじゃないとういうか、むしろ好きなほうですね。
――1曲1曲ミュージシャンにこだわっているじゃないですか。これは2人で話し合って決めているんですか?
大橋 シュミレートしてる地点で「このドラムは○○さんぽいね」とか話しています。デビューの時から憧れのミュージシャンの方にお願いをして、お願いするだけならタダだし、ダメだったまた次また考えよう、というノリでオファーをしたら皆さんやってくださって、夢が叶いました。そのやり方は今も変わっていません。
常田 スケジュールが合ってOKだったときは、普通に嬉しいですから(笑)
二人組の良さとジレンマ。バンドへの憧れ…
――二人組というスタイルについてはそれぞれ思うところはありますか?バンドへの憧れとか、やっぱり二人組が最強とか、話がこじれた時はもう一人いたほうが楽なのにとか、そういう事を考えることってありますか?
大橋 ありますね。やっぱりバンドには憧れますし、ただバンドではできないこともありますし、ないものねだりになってしまいますけど。二人だから色々なミュージシャンと一緒にできるというのもあるし。バンドだったら常に同じメンバーですからね。シュミレートしながらミュージシャンを選んでいけるのは二人組の特権ですし、でも二人じゃ解決できないという劣等感もありますし、誰かに助けてもらわなければバンドサウンドは出来ないですから。そうなると、スケジュールが合わずに断られるかもしれないという恐怖はずっとつきまとってきますよね。その楽曲のドラムはこの人ってイメージしていたのに、違う人となると、そこで少しだけ違う、自分たちのイメージから少しだけ離れてしまうんです。
――意外ですね、スキマスイッチくらいのキャリアのアーティストからそういう話が聞けるのって。
大橋 やっぱり山下達郎さんは憧れますよ、レコーディングもツアーも常に同じメンバーでやっているのは。
常田 しかも最強の布陣ですからね。
大橋 それは音楽の力なのか、何なのかは分からないですけど、一番最初に選んでもらえて、常に同じメンバーでやり続ける凄さ、良さはありますよね。バンドに限らずスタッフもそうです。
常田 エンジニアさんしかり、もっというとスタジオしかり。
大橋 その悩みはもうずっとつきまといますね。自由度が高い良さもあれば、二人組ならではの悩みもつきないです。
意見がぶつかった時の回避方法とは?
――今回のアルバムのキーワードになっている「実験的」という部分で2人がぶつかるシーンというのは、レコーディングでは多々あることなんですか?
常田 どこまでがぶつかりあいかということによりますけど、「あ、そうなの?でもこっちじゃないの?」っていうことは多々あります。そんな時はひと呼吸おいて冷静になって、AだBだってなったら、じゃあCを作るかみたいな感じで、新しいものを生み出していくこともあります。でも中にはごり押しのものもあって。変わったはずなのに変えてないというものも時々あります。僕が付けた仮タイトルがだんだん気に入ってきて、でも卓哉が変えたがって「こんなのどう?」ってアイディアを出されるんですけど、ずっと仮タイトルのまま押し通すという(笑)。
大橋 多数決で決められないので、ぶつかりあったときはひく場合もありますね。でも「いやこっちのほうが良い」という時もあって、この前は譲ったからここは譲らない、みたいなことは存在しませんし、それはたぶん楽曲単位で考えてるからでしょうね。
常田 いいね、それ(笑)。
大橋 その楽曲の一番いい方向性を考えてお互いぶつかっているので、AもBもそれを混ぜることが難しいなら、全然違うC案でやってみようよって。で、C案を聴いてみてやっぱりこっちのほうが良くない?とか行ったり来たりしていると、やっと見えてくることがあるんです。そう考えるとシンタくんが言っていたように最終的にはB案が良いのかな、でも簡単には譲りたくないなぁという気持ちがあったり(笑)、色々やっているうちにB案かもねって落ち着くんですけどね。
――CD一枚には色々なストーリーがつまっているんですよね。
大橋 特にうちは全て二人でやっている分、歌詞一つ一つについて「ここはこうで」というのがあって、それが話せますが、ただあまり話しすぎると、聴いた人の曲についての思い入れが変わってくると思うので、そこのせめぎ合いが面白いところですよね。
――でも今回のアルバムのセルフライナーノーツ、詳しすぎますよ(笑)。
大橋 そうなんですよ。でも全然まだ書けるんですよ。全然言えるんですけどね(笑)。
「「ためいき」でのスタジオミュージシャンとのセッションは忘れられない経験」(大橋)
――ボーナストラックも合わせて27曲。全部自分の子供のようでかわいいとは思いますが、この中で特に思い入れがある曲を教えていただけますか?
大橋 それぞれの実験の仕方が違うので、かわいいというよりはこの実験結果はこうなったなという感じです。そういう意味でいうと僕は「ためいき」という曲はすごく実験的な手法で作ったんですけど、レコーディングも普段やっている順序とは違う流れで、ギターとボーカルをライヴテイクのようにしました。僕は曲を作る時はまずギターの弾き語りをボイスレコーダーに入れてデモを作るのですが、この曲はそこに音を重ねていくとどういう形になるか試したくて。独特な“ゆらぎ”が出ますし、ライヴ感があるスタジオ録音物ができるというか。一発録りとはまたちょっと違っていて、一発録りよりも精度が高くなって、独特な感じになるんですよね。
常田 ミュージシャンの方たちも凄腕ばかりなので、呼吸もぴったり合うんですよね。この時ドラムの江口信夫さんに言われたことですごく覚えているのが「(呼吸が)合わなくてもいじらなくていいです、僕がやれば直るので」って言って、そうしたらベースがずれてるのかなと思ったら、江口さんが叩き直すと戻るんですよ。江口さんの中では見えているんですよね、全体が。そういうのを見ることができたのも経験だったし、おもしろかったです。
――ホーンもかっこいいですよね。
大橋 ホーンもおもしろかったですね。あとから重ねていく度に、自分のデモに良い洋服を着せてもらっているような感じで
――それ分かりやすい例えです。ミュージシャンのクレジット見ながら聴くと、すごく楽しいです。
大橋 ベストものって、クレジットがパッケージに入らなかったりするんですけど、今回は1曲1曲全部入れました。すごく大切なことだと思っていまして、それが繋がって僕らの作品だけではなくて、「スキマで弾いてるこの人はここでも弾いてるんだ」とか、そういう聴き方、発見が音楽のおもしろいところですよね。
「20年前、全て一人で作った「電話キ」が、卓弥の声で生まれ変わる新鮮さ」(常田)
――常田さんの1曲を教えて下さい。
常田 「電話キ」ですね。全曲そうですけど、この曲に関してはこういう形で出せる日がくるんだな、僕が一人で作ったものが世に出るんだなという感慨深い感じです。この曲は結果的に六重奏まで作って、歌詞も何を言ってるかわからない内容で、それに全部手をほどこして意味を持たせられる日がくるんだなと。20年前はこうやって作ってたんだよっていう一つの証明になりますよね。自分の声じゃなくて卓弥の声で生まれ変わるというところが面白いです、スキマスイッチを結成する前の曲ですから。
――ベスト盤は大橋さんの声の変遷を聴くのも楽しみですよね。
大橋 どう変化しているのか、明らかに昔の歌は歌えないって思ったりしますね。どうやって歌っていたのか分からないです(笑)。
――声にザラッとした感覚がプラスされて、それが味になっています。
大橋 自然とそうなったというか……ギターの木と同じかもしれないですけど、体に馴染むというか、そういうのはあるのかなと。それがザラつきだったり、年を取って色々劣化していく部分もあるでしょうけど、そこが歌に出るというのは人間味があっていいなと思います。
ベスト盤に対する考えかた
――アーティストによってはベスト盤に対してあまりいいイメージを持っていない人もいます。お二人はいかがですか?
大橋 その気持ちわかります。だってオリジナル作品を全部持っている人にしてみると、必要ないものという捉え方もできて、そうすると一部の人に対しては必要のないものを創っているということになります。でもそういう人達には、便利グッズと思ってもらえればいいなと思っています。もちろん手にとってもらいたいので、リマスタリングをしたり、何かしら付加価値を付けて、変化を与えたいと思っています。エゴと言われればそうかもしれませんが、便利グッズとして手にとってもらおうと。僕もベスト盤ってそんなに買うほうじゃないんですよ、オリジナルの方が好きなので、でも便利だなと思うことがたくさんあって。特にカップリングはシングルを入れ替えないと聴けないじゃないですか。それって23枚分ディスクを入れないといけないわけで、そういう意味ではカップリング曲をまとめる意味の方が、普通のベスト盤よりあるのではないでしょうか。
常田 僕はもうちょっと前から前向きですけどね、それはベスト盤の向こうにオリジナルが見えているから買いますね、あくまでダイジェスト的な意味で。最初どれを買っていいかわからないので、とりあえずベスト盤を買ってみようと。
最新アルバムを引っ提げない、新しいコンセプトのツアー『POPMAN’S CARNIVAL』
――まもなく『POPMAN’S CARNIVAL』という新しいコンセプトのツアーがスタートします。
大橋 ツアーってオリジナルアルバムを引っ提げてやることが多いと思いますが、そうではなく、いつでもできるツアーを作りました。オリジナルアルバムを作るのって結構時間かかりますから、1年かかるかもしれなくて、そうするとその年はツアーはやらないことになって、でも僕らはライヴが好きなので続けていきたいなと思っていて……。あとやっぱり生の強さというものを発信し続けたいなと思い、今回のアルバムは“引っ提げないで”、たまたまツアーと同じ時期に出るアルバムという捉え方で、その中から何曲かはやろうと思っています。「カーニバル」というツアータイトルの時は、セレクションツアーと思って欲しいです。今自分たちが演奏したい曲を勝手に選んで、リアレンジしたり色々なことを施して楽しんでもらおうと。そういう意味ではまだ僕達のライヴを観た事がない人も、逆にオリジナルアルバムを引っ提げてのツアーより観やすいかもしれません。オリジナルのツアーってやっぱりそのアルバムからの曲が中心になってくるので、知らない曲が多いという人もいると思うんですよ。それに比べるとこの曲も知ってる、あれも知ってるという可能性が高くなるのではないかと。
常田 知らない度合もみんな同じという。リアレンジも派手にやったりするので、普段来ている方も知らない曲になっているかもしれませんし。
大橋 自分たちが楽しんでいるところを観てもらうのが、一番いいと思いますので、自分たちが楽しめるセットリストを作って演奏したいです。それといい意味でお客さんを驚かせたいというのをいつもテーマにしているので、例えばイントロでは分からない曲を増やしていきたいですね。
CDと配信のステキな関係を目指して
――配信が伸び、CD逆風時代と言われて久しいですが、お二人はこの状況をどう感じていますか?やはりCDにこだわりたいですか?
大橋 そうですね、データを所有するというよりは、パッケージそのものを持ってもらいたいです。今はデータという形のないものにお金を払っていて、それで所有しているという感覚、今はもうCDもデータも同じ感覚だと感じている人も多いかもしれませんが、僕らのなかではどうも同じではないというか。
常田 満足度が同じなだけで、全然違うことをしているんじゃないかなと思っていて。自分たちがCDで育ってきたというのもありますし、レコードもCDもちゃんとリアルな重さを感じますよね。でもデータは全部一緒ですし、ともすれば小さなハードの中に何万曲も入っちゃいますからね。何万曲を持ち運ぶというのはどういうことなのかという感覚、CDで何万曲というと相当な枚数になります。でもそれが所有ということなのではないでしょうか。例えば友達にCDを貸すときに、これいいから聴いてよって渡すのが、僕らは楽しかったので。僕のイメージとしては、逆に手段として使えばいいと思います。生産するほうが、同じものだと思っていなければ、聴く方はいつか気づいてくれるはずです。例えば昨日作ったものを、明日聴いてもらえるというスピード感の良さってあるじゃないですか。そこは配信を使ってもいいと思います、昔ラジオを録音して次の日みんなで聴いていたようなイメージで。デモを作っていち早くファンの人に聴いてもらって、でも完全版はCDで、全然違う感じになります、みたいなことができたとしたら、手段として変わると思います。配信はレスポンスの速さをわかったうえでやるのはいいのかなと、漠然とですが思います。例えば僕たちのライヴでいえば、アリーナツアー、ホールツアー、ライヴハウスツアーみたいな感じの違いを、きちんと提示していけば、CDはCDとして生き残る道はしっかりあるのではないかと、思っています。出すほうがCDも配信も差別化せず、何も考えず出してしまうと、今の若い人達は配信の方を選ぶと思います。なんでCD持っていないのか聞くと、ただかさばるからという理由だったりします。もともと持っていなかったら仕方ないですよね。改めて重いものを持たせようってしても持ってくれないので。
――色々な可能性を探っていくべきですよね
大橋 これからのような気がしますけどね。あんまり偉そうなことは言えませんが、出すほうとしてもまず作品を聴いてもらいたいので、配信で聴いてもらってうまくCDにつながればいいなと思っています。個人的にCDが好きですし、もちろんアナログも持っていますし。ジャケットから取り出す、パッケージから出してプレイヤーに入れる、音楽を聴くまでのその“手間”がいいなと思っている派なので。
<Profile>
大橋卓弥、常田真太郎のソングライター2人からなるユニット。1999年結成。2003年7月9日シングル「view」でメジャーデビュー。’04年にリリ―スした2ndシングル「奏(かなで)」がロングセールスとなる。'05年、5thシングル「全力少年」が大ヒット、2ndアルバム『空創クリップ』で初のランキング1位を獲得。同年、「NHK紅白歌合戦」に初出場し、3年連続出場を果たす。'13年にデビュー10周年を迎え、初のオールタイム・ベストアルバム『POPMAN’S WORLD~All Time Best 2003-2013~』をリリース。同年10月、11月には全国アリーナツアー、更に12月には豪華フルオーケストラとの競演した自身初の日本武道館公演を成功させた。'14年、10周年記念ライヴ作品(CD/Blu-ray&DVD)の4か月連続リリースとともに、7月には人気テレビアニメ『ハイキュー!!』のOPテーマに起用された、2014年第一弾シングル「Ah Yeah!!」をリリース。これに続き、11月には21stシングル「パラボラヴァ」(ヨコハマタイヤ「アイスガード ファイブ」CMソング)を、12月には22ndシングル「星のうつわ」(『THE LAST-NARUTO THE MOVIE-』主題歌)と、前作から約3年振りとなるオリジナルアルバム『スキマスイッチ』をリリース。昨年行った全国ツア『スキマスイッチTOUR2015 “SUKIMASWITCH”』(全国28か所32公演)は、日本武道館2DAYS &大阪城ホール追加公演を含め全公演即日完売。11月には23rdシングル「LINE」(TVアニメ『NARUTO-ナルト- 疾風伝』OPテーマ)でNARUTOと二度目のタッグを組む。カップリングには「第95回全国高校ラグビー大会」大会テーマソング「ハナツ」を収録。'16年、新曲「フレ!フレ!」(「MINISTOP」 CMソング)を収録したアナザー・ベストアルバム『POPMAN’S ANOTHER WORLD』をリリース。4月22日千葉・市川市民文化会館を皮切りに、新コンセプトの全国ツアー『スキマスイッチTOUR2016“POPMAN’S CARNIVAL“supported by MINISTOP』がスタート。ライヴアーティストとしても定評がある。