岸和田市長、500万円を支払い和解 本人尋問で明かされた「被害内容」
大阪府岸和田市の永野耕平市長(46)から「強引な誘いを受け、性行為を強要された」として、大阪府内に住む女性が損害賠償を求めた民事訴訟が11月14日に和解となったことを受け、28日に女性の代理人弁護士が大阪市内で記者会見を開いた。和解内容には市長から女性へ500万円の支払いと謝罪が含まれる。
5月に大阪地裁で行われた本人尋問では、女性と永野市長の双方が遮蔽措置の中から証言した。女性が「人ではなくモノでもなく奴隷のような扱いを受けていると思いました」「一人の人生をめちゃくちゃにしてきたことを謝罪していただきたいです」などと語った一方で、永野市長は同意があったと主張していた。
裁判所の和解条項には異例とも言える前文がつき、優越的な立場に立つ公人であり既婚者でもあった市長が原告女性と性的関係を持つことは「よくよく自制すべきであったとの非難を免れることはできない」と指摘されている。
代理人弁護士によれば、訴訟記録は閲覧制限の対象となっているが、和解にあたって口外禁止条項はついていないという。
「ただ手を握るだけ」
「なんでしてくれへんの」
※(注意)以下に性被害の具体的内容が含まれます。
※記者会見は女性の特定につながる情報は伏せて行われました。本記事でも被害につながる経緯の一部などを伏せています。
本人尋問などで女性側から明らかにされた内容は次のとおり。
永野市長と女性は2019年に知り合い、女性の訴えによれば同年6月から2021年1月まで継続的に被害に遭った。市長と女性の間には社会的な上下関係があり、女性が断りづらい状況があった。また、拒む女性に対して市長からの行為は巧みに行われた。
たとえば、車の中で市長から手を握るように言われ、断ると「ただ手を握るだけ」「なんでしてくれへんの」などと繰り返し迫り、女性が仕方なく握ると「慣れた?」「慣れてない?」と返答を求め、どう答えても手を握り続けたという。女性は、市長が精神保健福祉士の資格などを持っていることから心理的に抵抗を封じる術に長けているのではないかと感じた。
その後、市長の行為はエスカレートし「(女性も関わる内容について)ホテルで話したい」と要求があった。人目がある場所では話せないなどと言われ断ることができない状況に置かれ、ホテル内で性行為の強要があった。
「こんなこと嫁にはできない。ありがとう」
→市長「絶対にしていない。心外」
その後も行為は継続し、中には第三者からの加害行為もあったという。
(本人尋問の一部抜粋)
代理人弁護士:第三者からの加害行為について教えてください。
女性:シャワーのあと、ベッドに横にならされて布団をかぶされた。耳にかける薄いもので目隠しされた。誰かが部屋に入ってくるのがわかったので「いやや」と言った。
代理人弁護士:その人と性行為をさせられた後、被告から何か言われましたか?
女性:「もう一人来るから待ってて」と言われた。手に何か乗せられた。
代理人弁護士:あなたは何か言わされましたか?
女性:「またしてください」と言わされた。手に乗せたものは被告がゴミ箱に捨てたと思う。
代理人弁護士:この日は被告からも加害がありましたか?
女性:あった。帰りに「こんなこと嫁にはできない。ありがとう」と言われた。
内容を要約すると、この日女性は目隠し状態で市長以外の2人から同意のない性行為を行われ、その後、市長からも性行為を強要された。手に乗せられたものを視認してはいないものの、使用済みの避妊具だったのではないかと推測している。
女性には当時婚約者がいた。しかしこの被害の後で決定的に「汚れてしまった」「人格が破壊されてしまった」と感じ、婚約者には理由を言わずに距離を置いたという。
永野市長は本人尋問で市長本人の行為について、同意があり、女性とは2019年6月から2021年1月まで交際している認識だったと主張。また、第三者の行為については「絶対にない。心外です」と全面的に否認した。
「交際」については、裁判長から市長に以下のような質問があった。
(本人尋問の一部抜粋)
裁判長:(実際に交際関係だったのであれば)お互いの誕生日を教え合っていた?
永野市長:彼女は知っていたと思う。
裁判長:あなたは彼女の誕生日は知っていた?
永野市長:必ずおめでとうと言っていた。
裁判長:プレゼントのやり取りは?
永野市長:サプライズでケーキを送り、彼女も喜んでいた。写真も残っている。
裁判長:彼女からプレゼントをもらったことは?
永野市長:ないです。
女性側の主張では、コロナ禍の緊急事態宣言下では行為がなかったものの、宣言が解除されると再開。女性は一時記憶の一部をなくすなど解離状態となり、その後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。
2022年7月に大阪府警に被害届を出し、捜査が行われたものの、同12月に大阪地検が不起訴に。女性の代理人を務める雪田樹理弁護士は「当時は(2023年にあった)刑法改正の前で、暴行・脅迫要件があった。抵抗できないコントロール下にあった被害を立件するのは難しく、不起訴となった」と話した。
女性コメント
「改正後の刑法が、もっと早く施行されていれば」
女性は記者会見に出席しなかったが、代理人を通じてメッセージを発表した。以下が全文となる。
(原告からのメッセージ)
本日は、お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。
会見に同席し、直接お話しするべきですが、事件のことを話すのはとても辛く、言葉に詰まり、うまく伝えることができないと思われましたため、書面にて失礼いたします。
11月14日に和解が成立しましたが、私は、本心では、和解などしたくはありませんでした。ですが、私は、警察に被害届を提出してから、とても長い期間、戦ってまいりました。この裁判でも、判決をいただく選択肢もありましたが、私は、もう、心身ともにぼろぼろです。この春に、裁判所から、和解勧試を受け、半年近く協議をしてまいりましたので、ここから、再度戦っていく気力を奮い起こすことができない状態です。
もうこれ以上、被告と関わりたくありませんし、裁判を早く終わらせたい思いが強く湧くようになり、諦めたというのが実情です。裁判上の和解をしたからといって、被告を許した訳ではありません。今でも本当に悔しいです。
警察へ被害届を提出した当時は、強制性交等罪から不同意性交等罪への刑法改正は、まだ施行されていませんでした。
もしも、改正後の刑法が、もっと早く施行されていれば、被告は不起訴にはならなかったのではないかと考えることもあり、無念でなりません。
被告は、最初から最後まで、同意があったと主張していました。
被告は公人である市長であり、私はただの一般人ですので、私から見れば、明らかに立場の差があります。
泣きながら拒絶する私を、立場(地位)や権力を乱用し、恐怖でおさえつけ、人格否定などの言葉の暴力で精神的に支配し、逃げられないようにすることが同意なのでしょうか。
私は、被害に遭い始めてから、普通の精神状態ではいられなくなり、心が壊れ、嫌だ・怖い・逃げたい・気持ち悪いといった感情がなくなってしまったかのようで、拒絶する気力すらなくなってしまいましたが、これが同意なのでしょうか。
私は、せいいっぱい拒絶しようとする度に、被告から罵詈雑言を浴びせられ、「自分は、被告の言うことを全て聞かないと、生きる価値など無い人間なんだ。」と思うようになってしまいました。
今思い返せば、本当に異常な状況ですが、誰にも相談できず、助けを求めることもできなかった私は、被害を1人で抱え込み、被告の思うままに支配されていたのだと思います。何でも言うことを聞き、言いなりになっていきました。
被告は、LINEでメッセージを送信する際、私が既読にすると、すぐに送信取消をするなど、証拠を残さない卑怯な方法で、私を脅してきました。
私は、せいいっぱい拒絶してきました。それは、被告自身が一番よく分かっているはずです。被告は、人の気持ちが本当に分からないのか、分かっていてあえて無視しているのか、拒絶されることに興奮を覚えるのか、私には、どれが正解か、あるいはそのどれでもないのか分かりませんが、被告の言動は、何も理解できませんし、普通の考え方ではないと思います。
私は、被告から、異常な執着をされていると感じていました。それから逃れるためには、自ら命を絶つしかないという極端な選択を考えるまでに追い詰められました。
私には、このような加害行為に及んだ人物が、責任ある立場に相応しいとは思えません。ですが、私が辞職すべきだと言ったところで、被告は、自分の非を認めないでしょうし、真に反省し、その反省をもとに行動してきたのであれば、裁判を通じて同意があったと主張することはないと思います。
被告の進退に関しては、これから、政党や、有権者である岸和田市民の皆様が判断なさると思います。
被告にも娘さんがいらっしゃいますが、大事に大切に育てた子どもが、このような目に遭ったらどう感じますか。私と同じような被害に遭わないと、私の両親の気持ちは分かりませんか。
被告によるあまりにも身勝手で愚かな行動によって傷つけられた人は、私1人だけではありません。
私が、自分の言葉で、皆様にお伝えしようと決意したのは、次の被害者を出さないためです。
私が知っているだけでも、被告からの被害に遭いかけた方が、他にもおられます。
上記で述べましたとおり、私には、被告が反省しているとは思えませんので、このまま終わらせてしまえば、今後も、同様の被害者が出る危険性があるのではないかと思っています。私は、何としても、それだけは防ぎたいのです。
私には、被告は、自分の目的を達するためには手段を選ばないように見えました。今回の和解でも、逆恨みされたらどうしよう、今後、何かされるのではないかという恐怖に、ずっとつきまとわれています。
私の願いは、被告に、今後、二度と私に関わらないでほしい。私の新たな人生の邪魔をしないでほしい。被害に遭う前の元気だった頃のような普通の生活を取り戻したい。
ただそれだけです。
裁判所「男女として純粋に対等な関係にあったとはいえず」
和解条項には前文がつき、被告である永野市長に対して「非難を免れることはできない」とする内容だった。雪田弁護士によれば、このような前文がつくことは珍しいという。
以下は前文の一部。※改行は筆者による。
被告の年齢・地位や日頃の言動から窺われる影響力、原告の(略)を考慮すると、原告と被告は男女として純粋に対等な関係にあったとはいえず、(略)両者の間には社会的な上下関係が自ずと形成されていたと認めるのが相当である。
このような原告と被告の関係性に加え、被告は公人であるとともに配偶者を有する身であることも考慮すると、被告において原告と性的関係を持つことはよくよく自制すべきであったとの非難を免れることはできない。そして、原告は、被告との性的関係が続く中で精神的な失調を来し、最終的には訴訟の提起にまで至ったものである。
永野市長は11月28日朝の朝日新聞による報道を受け、Xで「11月28日の朝日新聞の私について記事では、性的な加害案件があったかのようなタイトルがつけられていますが、事実ではありません」などと投稿している。