急性胆管炎はなぜ命を奪うのか、「時間との戦い」の理由 金田正一氏が敗血症で逝去
元プロ野球選手の金田正一氏が6日、逝去されました。
報道によれば、原因は急性胆管炎による敗血症とされています。
急性胆管炎は、消化器を専門とする私たちが扱う病気の中でも、一二を争うほど緊急性の高い病気です。
なぜなら、時に急速に重症化し、少し前まで元気だった患者さんの命をあっという間に奪うからです。
なぜなのでしょうか?
この記事では、急性胆管炎の原因や特徴について簡単に解説します。
なお、第三者が個々の症例について憶測で語るのは大変失礼なことですので、本記事ではあくまで、知っておくべき一般的な情報をまとめます。
急性胆管炎とはどんな病気?
急性胆管炎とは、胆管内で細菌が増殖し、感染症を起こす病気です。
胆管とは、簡単に言えば、肝臓から十二指腸までの胆汁(たんじゅう)の通り道です。
肝臓で作られた胆汁という消化液は、胆管を通って十二指腸に流出します。
十二指腸は胃のすぐ下流にある食べ物の通り道ですから、ここで胆汁が食べた物と混ざって消化を助ける、という仕組みですね。
ちなみに、胆管の横に「ため池」のように胆汁を貯めておく臓器がありますが、これが「胆のう」です。
胆のうはあくまで胆汁を貯めておく「貯蔵庫」であって、胆汁を作っているのは肝臓です。
さて、普段通り胆汁がスムーズに胆管の中を流れていれば、胆管内で細菌が増殖するようなことはありません。
では、どんな時に急性胆管炎が起こるのでしょうか?
急性胆管炎の原因
急性胆管炎の主なメカニズム。
それは、胆管の「通過障害」です。
「通過障害」とは、胆汁の通り道がなんらかの理由でふさがってしまい、胆汁が交通渋滞を起こした状態、と考えれば分かりやすいでしょう。
流れがせき止められた胆汁は、十二指腸に出ることなく胆管内にとどまり続け、そこで細菌が増殖してしまうのです。
想像してみてください。
蛇口から流し続けた水は、何時間たっても透明なままです。
しかし、同じ量の水を洗面器に入れて放置しておいたらどうでしょう?
時間とともに汚れ、濁ってくるはずです。
これと同じことが胆管内で起こると考えれば分かりやすいでしょう。
では、どんな時に胆管がふさがるのでしょうか?
その代表的な原因が、胆石です。
肝臓や胆のう内にある胆石が胆管内に落ちてきて、途中でつっかえてしまう、というわけです。
あるいは、胆管の腫瘍や、膵臓・十二指腸など胆管周囲の腫瘍によって胆管がつまってしまうこともあります。
胆汁の通り道がふさがり、そこで細菌感染症が起こると、激烈な症状を引き起こしてしまいます。
急性胆管炎の症状
急性胆管炎が起こると、発熱(高熱)、腹痛(右上のお腹の痛み)、黄疸、吐き気などが起こります。
すぐに胆管の「詰まり」が解除されないと、胆管内の圧が上昇し、急速に細菌(や細菌の持つ”毒素”)が血液中に入って全身をめぐり敗血症を起こします。
敗血症とは、簡単に言えば、感染症が原因で全身の臓器機能に障害が起こる状態のことです。
早急に治療を行わなければ、患者さんは文字通り命の危機に瀕します。
行うべき治療は、抗菌薬(抗生物質)を投与するとともに、胆管閉塞を解除すること(「胆道ドレナージ」と呼ぶ)です。
内視鏡(いわゆる「胃カメラ」)を用いて行う方法が一般的ですが、状況に応じて他の方法をとることもあります。
急性胆管炎は、文字通り「時間との戦い」です。
報告によれば、急性胆管炎の死亡率は2.7〜10%。
一方、胆のうに細菌感染が起こる急性胆のう炎(胆汁の通り道をふさがない)の死亡率が1%未満ですから、その差は歴然です。
急性胆管炎によって重篤な敗血症が起こると、どんなに優秀な医師がどれほど膨大な医療資源をつぎ込んでも、患者さんの命を救えないことがあるのです。
もちろん急性胆管炎の重症度は患者さんによって様々です。
どんな場合でも命の危険がある、という意味ではありません。
あくまで、上述のような症状が現れた時はすぐに受診が必要だということを、頭の片隅で覚えておいていただけると幸いです。
なお、急性胆管炎の最大の原因となる胆石について、詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
(参考文献)
急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018
専門医のための消化器病学 第2版/医学書院
(※本記事では、話を分かりやすくするため「肝外胆管」のことを便宜上「胆管」と書いています。胆管は肝臓内にも細かく張り巡らされ(肝内胆管)、肝臓で作られた胆汁の通り道となっています。また肝外胆管は、正確には左肝管、右肝管、総肝管、総胆管に分けられます)