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欧州遠征最終戦でフィジーに敗れた、ラグビー日本代表の課題と収穫

永田洋光スポーツライター
初采配の4試合は1勝3敗だったジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(写真:FAR EAST PRESS/アフロ)

相手の土俵に上がって完敗した最終戦!

有終の美は飾れなかった。

ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)率いるラグビー日本代表のテストマッチ・シリーズ“秋の陣”は、課題と収穫をくっきり明確にして終わった。

5日のアルゼンチン戦が20―54。

12日のジョージア戦が28―22。

19日のウェールズ戦が30―33。

短期間の準備でテストマッチに臨んだチームは、試合を重ねるごとに少しずつ問題点を修正し、国内のゲームとはまったく違うプレッシャーへの慣れもあって、ヨーロッパ遠征に出てから調子が上向いた。

しかし、最終戦となったフィジーとのテストマッチは25―38と完敗だった。

キックを使ってアンストラクチャーな状況を作り出し、そこからボールを動かしてトライを奪うというHCのプランは、同じような戦い方を、生来の資質を生かして長年継続してきた先輩格のフィジーには通用せず、細かいミスをトライに結びつけられて、後半早々に勝負がついた。

ジャパンも、後半18分にスクラムから仕掛けたサインプレー一発でFB松島幸太朗がトライを奪い、その後も、ラインアウトからフェイズを重ねてFLマルジーン・イラウアが、そして松島がふたたびペナルティキックの速攻からと、遠征最終戦にしてようやくセットプレーから3トライをたたみかけたが、フィジーをパニックに陥れるには至らなかった。

前任者のエディー・ジョーンズは、南アフリカやスコットランドといった組織で戦う相手には「カオス・プラス」というゲームプランを用意し、相手がパニックを起こすようボールの継続を指示。逆に、サモアのような個人技に優れたチームには、「ストラクチャー・プラス」という言葉でセットプレーを多くして組織で対抗するプランを指示し、W杯イングランド大会で3勝した。

しかし、それから1年経ってリセットされたジャパンは、フィジーFLペゼリ・ヤトが前半32分に二度目のイエローカードで退場となり、以後50分近くを15人対14人で戦いながら、ラインアウトからのモールでトライを奪えず、スクラムでもフィジーを圧倒できなかった。

フィジーを“自分の土俵”に引きずり込んで、セットプレーに縛りつけるような戦い方をするところまでチームを築けなかったのである。

外側の選手が前に飛び出して相手のボールキャリアを内側の防御の厚いところにおびき寄せる防御システムも、フィジーの選手に“フィジアン・マジック”と形容されるパスを頭上に通されて2つ目のトライを失い(前半22分)、内側に追い込んだときには、しばしば個人技で突破された(特に前半35分に奪われたトライ!)。

つまりディフェンスも、取り組んでから1か月では細かい意思疎通が図れず、ジョージアやウェールズのように組織でアタックするチームには個々の頑張りと献身的なタックルで通じたが、アルゼンチン、フィジーという、超絶的なランニングスキルに長けた相手には届かなかった。

新しい体制のもとで強化を始めてまだ1か月ちょっと。

準備期間が不足していたことは確かだが、それは今春のスコットランド戦までの戦い方をリセットしたのがそもそもの理由だ。

そこに、有終の美を飾れなかった原因がある。

「基本問題」より「応用問題」から強化を始めた?

一方で、ジャパンがアンストラクチャーな状況からトライを奪えるようになりつつあるのは、今後に向けた収穫と言えるだろう。

特に相手キックに対するカウンターアタックは、これまでなかなか成果を上げられなかった部分。松島の驚異的な成長もあって、日本のバックスリーは生き生きとプレーしていた。

ラインアウトからのモールやサインプレー一発でトライを奪うのは、実は細かい意思疎通が必要で練り上げるのに時間がかかる。いわば、地道に練習を数多くこなす、「基本問題」のような分野だ。

対してアンストラクチャーな状況からのアタックは、「応用問題」。こちらは、アタックに適した能力があれば、個々の選手のセンスや才覚で一気に上達する。

限られた準備期間のなかで格上と4試合を戦うことを考えたとき、ジョセフHCは、時間のかかる基本問題をコツコツと解くより、いきなり応用問題に取り組ませることで選手たちの能力を最大限に引き出そうとしたのではないか。

前回のコラム『ジャパン、ウェールズに惜敗するも、史上最強への予感漂わせる!』にも書いた、セットプレーからのトライの少なさは、こうした背景が生み出したように思える。だからこそ、「ワンチーム」として長い時間を過ごした最終戦では、セットからのトライが見られたのだ。

である以上、これからはセットプレーをはじめ、そこからの仕掛けといった基本問題に取り組みながら、応用問題を与えて選手の才能を伸ばすといった方向性で、強化は進むだろう。

フィジー戦を終えたジョセフHCはこんなコメントを残している。

「しっかり準備をしてそれぞれが自分の仕事をしたらこのレベルで戦えることを、今回の遠征で学んだ。19年W杯までが長い道のりだということも学ぶことができた。残念ながら次の代表戦まであと半年待たなければならないが、毎週試合があっても同じパフォーマンスができ、同じ強度を保てることが必要だと思う」

なんというか……そんなことは昨年のW杯が終了した段階でわかっていた。だから、それから1年経って“振り出しに戻る”みたいに感じられた、コメントだった。

「ジェイミーが春に来日しなかったことでジャパンの強化は1年遅れる」とは、6月のスコットランド戦終了後にエディー・ジョーンズが語った言葉だが、その予言を現実にしないために残された時間は非常に短い。

19年9月に開幕するW杯まで、直前のウォームアップマッチを除けば、ジャパンがテストマッチを戦える機会は、17年6月、11月、18年6月、11月、19年6月の5か月だけ。アジア勢を除いた試合数はおそらく17~18試合程度だろう。その試合数で、グループリーグを突破してファイナル8に残れるだけの力を蓄えなければならないのが、ジャパンというチームが背負う定めなのである。

始動してまだ1か月のチームを、あれこれあげつらうのは公正さを欠くと言われそうだが、残された時間が本当に少ないことを考えれば、早急に今遠征での戦術を総括し、整理して、来年に向けての指針を固め、その戦術にあったスキルを徹底的に落とし込む必要がある。

いつ、どこでセットプレーを集中的に強化するのか。

来春からのサンウルブズをどう活用するのか。

そして、そもそもアンストラクチャーな状況を作り出してアタックを仕掛ける今のスタイルが、本当にジャパンに向いているのか。

検証すべき問題は、山積しているのだ。

果たしてジョセフHCは、この4試合の総括を、どういうラグビーで来春にフィードバックするのか。

来年2月25日に秩父宮ラグビー場で、ニュージーランドのハリケーンズ戦と開幕戦を戦うサンウルブズのメンバー編成や戦いぶりと相まって、フィジー戦完敗のもやもやは、期待と不安をない交ぜにしながら、来年6月まで続きそうだ。

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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