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ジャパン、ウェールズに惜敗するも、史上最強への予感を漂わせる!

永田洋光スポーツライター
前半37分、山田章仁が相手パスミスを拾って60メートル独走トライを挙げる(写真:ロイター/アフロ)

武者修行で急成長したジャパン!

ジャパンが、ヨーロッパでの“武者修行”でどんどん力をつけている。

19日に行なわれたウェールズとの正真正銘のテストマッチは、そんなジャパンの充実ぶりを見事にアピールした。

終了数秒前に、ウェールズの途中出場のスタンドオフ、サム・デイヴィスにDGを決められて敗れたとはいえ、最終スコアは30―33。これは、ジャパンがカーディフに乗り込んで戦ったなかでもっとも競った試合であり、7万3千969人という大観衆に、昨年のW杯でジャパンが南アフリカを破ったことがフロックではなかったと、心の底から納得させた。

正直に告白すれば、私はジャパンがここまで善戦するとはまったく考えていなかった。

ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)率いるジャパンに、以下のような不安を感じていたからだ。

1.アルゼンチン戦、ジョージア戦と、粉砕されたセットスクラムがウェールズに通じるか。

2.相手が直線的なアタックに終始したジョージア戦で機能したディフェンスが、バックスにも力のあるウェールズに通じるか。

3.ジョセフHCが推進するキックを使ったアタックが、ジャパンにふさわしいのかどうか。

結果として、これらは杞憂に終わった。

スクラムはこれまでの3試合でもっとも良く、ジャパンが反則を取られたのは、レフェリーの合図より早く押し込んだアーリー・プッシュ1つだけだった。

ディフェンスも機能した。

外側が思い切り前に出てパスのスペースを消し、相手のランナーをグラウンドの中央に追い込む守り方――昨年のW杯でスコットランドにやられて痛い目に遭った――が機能し、前半37分に山田章仁の60メートル独走トライに結びついた。

防御の真ん中をウェールズの大黒柱アラン-ウィン・ジョーンズに破られ、そのままキャプテンのサム・ウォーバートンにトライを奪われる場面もあったが、昨年の南アフリカ戦だってこういうトライはあった。世界トップ10がガチンコで戦うテストマッチで、相手をノートライに抑えるのはほぼ不可能だ。それより、アタックの芽を1つひとつ丁寧につぶしたことで、ウェールズは、トライを狙うよりPGで確実に3点を刻む戦い方を選んだ。これが大接戦となった最大の要因だった。

キックを使ったアタックは、実は「そこで蹴るか?」と叫んだ場面が何度かあった。特に前半15分に、自陣22メートルラインを出た辺りでCTB立川理道がウェールズ防御ラインの裏側にゴロのキックを転がした場面では、「ギャッ!」と叫んだ。過去にこうした“裏チョン”からジャパンが大ピンチを迎え、トライを奪われる場面を何度も目撃しているからだ。

しかし、それが致命傷にならなかった。

トレーニングのときからキック後のディフェンスをしつこく言われているのだろう。習熟不足のところも見られたけれども、選手たちは懸命にボールを追い、大きな穴を開けなかった。遠征という合宿状態で日々練習を積み、課題を率直に指摘し合うことがチームの強化につながっている。非常にいいプロセスを踏んでいるのだ。

W杯戦士たちの貢献

こうしたチーム作りに寄与しているのが、堀江翔太、立川の共同主将以下、昨年のW杯を戦ったメンバーたちだ。

特に、山田、福岡堅樹の両ウイングにフルバックの松島幸太朗を加えたバックスリーは、スピードといい、タックルといい、上のボールに対するキャッチングといい、本当に非の打ち所がなかった。

いい形でボールを持てば一気にトライまで走り切れるスピードランナーが左右の両端にいるから相手はナーバスになる。アルゼンチン戦から連続トライを挙げたレメキ・ロマノ・ラヴァが負傷で離脱したにもかかわらず、純和製の両翼が世界に通じたのである。

堀江、畠山健介、田村優、立川といったリーダーたちが、初めての代表、初めてのヨーロッパ遠征という環境に飛び込んだ若い選手たちと上手くコミュニケーションをとり、チームをまとめているのも急成長の要因だ。

アルゼンチン戦では孤軍奮闘といった趣のあった立川が、それほど攻守で目立たなくなっている(といっても要所要所でムチャクチャ働いている)のがその証。相手のマークが立川に集中しても、違う選手が前に出られるから負担を減らせている。

ジョセフHCも、立川のリーダーシップを讃える。

「我々は他のチームと比べ、特殊なゲームプランを持っている。自陣を含め、どこからでも仕掛けること。そうすれば相手のディフェンスに混乱が生まれ、混乱のなかでプレッシャーが生まれる。自分たちにもプレッシャーがかかるが、そこで必要なのはリーダーがチームを引っ張ること。そこは立川がしっかりやってくれた」

代表にヤマハ発動機ジュビロの選手たちが、長谷川慎スクラムコーチとともに選ばれたことも、チームを短期間でまとめられた要因だ。

ジョセフHCが現在チームに落とし込んでいる戦い方は、グラウンドの中央にFWで攻撃の拠点を作る戦い方。これは、ヤマハが取り組んでいる戦い方でもあり、選手には適応しやすい。スクラムも、コーチの言わんとすることをすぐに理解できる選手たちがそろっているから、短期間で急速に強化できた。ヤマハの選手に限らず、堀江しかり畠山しかりで、それだけ選手の意識が高い。

堀江が言う。

「1人ひとりの意識が高く、試合を重ねるごとにそれぞれが何をしなければいけないのか、自分の役割が何かが明確になってきている。それを遂行すれば結果が出る、ということを選手も感じているので、そこをさらに詰めていきたい」

あとはセットプレーからトライを取れれば史上最強だ!

……とまあ、ここまではめでたいこと尽くしだが、「金星」に手が届かなかった背景には、細かい部分でのミスや経験のなさがある。

それが、後半34分にジャパンが田村のPGで同点に追いついた直後のキックオフで、途中出場のアマナキ・ロトアヘアが犯したノックオンであり、密集戦での横入りやハイタックルといった不必要なペナルティだ。

チームがいい状態で、試合を重ねるごとに成果が出ている今だからこそ、「では、なぜ勝てなかったのか」を細かく分析して、1つひとつはささいだけれども積み重なれば勝負を左右するペナルティやミスを減らすための努力が求められる。

善戦と金星を分けるのが、こうしたディーテイルだからだ。

繰り返すけれども、今のジャパンは非常に状態がいい。

だからこそ、ミスの追究がネガティブにならずに済む。

そんなアドバンテージを生かさない法はない。

最後に、直近の3試合でジャパンが挙げたトライの起点を記しておこう。

今のジャパンの方向性がよくわかるのだ。

●アルゼンチン戦

アマナキ・レレイ・マフィのトライ→松島のカウンターアタック

レメキのトライ→マフィがペナルティキックを小さく蹴って速攻

●ジョージア戦

松島のトライ→自陣ゴール前でのターンオーバー

レメキのトライ1→自陣ゴール前でのインターセプト

レメキのトライ2→ハーフウェイライン付近のラインアウトから連続

福岡のトライ→相手キックオフを確保してから蹴り合いを織り交ぜてノーホイッスル・トライ

●ウェールズ戦

山田のトライ→相手パスミスを拾って独走

福岡のトライ→キックオフ後にラックで相手ボールを奪取してノーホイッスル・トライ

ロトアヘアのトライ→松島のカウンターアタック

つまり、セットプレーを起点にしたトライはジョージア戦で1つあっただけ。あとは、いわゆる「アンストラクチャーな」つまり、プレーが継続するなかで生まれた偶発的な場面が起点なのである。

こうしたトライを奪えるジャパンは、かつてなかった。

ただ、これまでジャパンが得意としてきた、セットプレーから一発で取るトライがまだ見られていない。それが、ゴール前のラインアウトから一気にモールを押し込んだものであれ、カンペイのようなサインプレー一発で相手に触れられずに奪うトライであれ、今までの“得意技”がまだ出ていないのだ。プレーを練り上げる時間が不足しているのが、その最大の理由だ。

しかし、今のチームに、セットプレーからでもトライを奪う力が加われば、これほど頼もしいことはない。

そのとき、ジャパンは本物の「史上最強」となる!

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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