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羽生ゾーンに銀打ち一閃! 永世竜王・羽生善治九段(51)竜王戦1組開幕戦で佐藤和俊七段(43)を降す

松本博文将棋ライター

 12月3日。東京・将棋会館において第35期竜王戦1組1回戦▲佐藤和俊七段(43歳)-△羽生善治九段(51歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は20時38分に終局。結果は78手で羽生九段の勝ちとなりました。

 羽生九段は2回戦に進出。丸山忠久九段-久保利明九段戦の勝者と対戦します。

羽生九段、今期も好発進

 第35期竜王戦は藤井聡太新竜王(19歳)の誕生で幕を閉じました。

 藤井竜王は本局がおこなわれたこの日、第6局開催予定地だった指宿を訪れていました。

 羽生九段は藤井現竜王と同じく、初めて竜王位に就いたのは19歳のときです。

 史上最年少竜王の記録は依然、羽生九段が保持しています。

 羽生九段にとって本局は竜王復位、そしてタイトル通算100期に向かっての新たなるスタートとなります。

 羽生九段と佐藤七段は前々期1組の決勝で対戦。羽生九段が勝って優勝を決めています。

 佐藤七段はそのときの思いをのちに綴っています。

 遅咲きで1組に昇級し、今期で3期目の佐藤七段。本局もまた期するものがあったでしょう。

 振り駒の結果、本局は佐藤七段先手。序盤から駆け引きがあったあと、12手目、佐藤七段は飛車先の歩を突きました。両者の過去の対戦はこれまですべて佐藤七段の振り飛車。本局は相居飛車の進行となりました。

 佐藤七段が現代風の雁木に構えたのに対して、羽生九段は速攻を仕掛けていきます。佐藤九段も反発し、盤上全体で戦いが起こりました。

 夜戦に入っての55手目。佐藤七段は角を切り、相手の攻めの銀と刺し違えました。ABEMA解説の島朗九段、佐々木大地五段が思わず声をあげます。

島「なんと! なんと!」

佐々木「これは『なんと』と言っていい・・・」

島「これは『なんと』ですねえ」

 驚きの勝負手に対して、羽生九段は冷静に対応。駒割はほぼ元に戻りましたが、羽生九段に歩得が残り、形勢は羽生九段優位がはっきりしてきました。

 74手目。羽生九段は相手の飛車の頭、2七の地点に銀を打ちます。タダで取れる銀ですが、取れば飛金両取りをかけられて困ります。

 2七、あるいは8三の地点は「羽生ゾーン」とも呼ばれます。

 過去の文献を引いてみましょう。

右図からの△2七銀が羽生の得意とする、いわゆるB面攻撃。羽生の将棋では、この銀や△3九銀など、絶妙なタイミングで飛車を責める手が繰り出されることが多い。『羽生の▲8三銀』という常用句もあるほどで、ニコ生の鈴木(大介八段)は『羽生ゾーン』と表現していた。

(2016年棋聖戦五番勝負第1局▲羽生善治棋聖-△永瀬拓矢六段、伊藤能観戦記『産経新聞』2016年7月9日朝刊)

 本局、羽生九段は佐藤七段の飛車を攻めながら、中央の居玉に向かって左右はさみうちの態勢を築きます。

 78手目。羽生九段は相手の金頭に歩を打ちます。どう応じても困る佐藤七段。4分考えて次の手を指さず、潔く投了しました。

 両者の対戦成績はこれで羽生4勝、佐藤1勝となりました。

 羽生九段は今期もまた1組で好発進。竜王ランキング戦で1回戦勝利はそのクラス残留確定も意味します。羽生九段はこれで竜王位7期を含め、来期で1組以上33期目となります。

 1組はこのあとも、好カード目白押しです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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