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西山朋佳女流三冠、編入試験最終第5局で勝てば女性初の棋士四段に 蛸島彰子女流六段「いい将棋を」と期待

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2025年1月22日、大阪府高槻市・関西将棋会館において、棋士編入試験第5局▲柵木幹太四段(26歳)-△西山朋佳女流三冠(29歳)戦がおこなわれます。


 西山女流三冠はここまで2勝2敗。もし本局に勝てば、女性としては史上初めてとなる棋士四段の資格を得ます。負ければ不合格となります。

初の「女性棋士」誕生なるか?

 1961年、蛸島彰子現女流六段(78歳)が女性として初めて奨励会(棋士養成機関)に入会して以来、六十年以上の歳月が流れました。「女性の棋士四段」の誕生は男女を問わず、将棋を愛する多くのファン、関係者たちが思い描いてきた夢でした。

 1974年には「棋士」とは別枠の「女流棋士」制度が創設されています。先人たちの努力によって、女性の将棋人口は少しずつ増えていき、競技レベルもまた、少しずつ向上していきました。

 奨励会ではこれまで、女性としては里見香奈(現福間女流五冠)、西山、中七海(現女流三段)の3人が三段にまで進みました。しかし難関の三段リーグを抜けることはできず、棋士の資格を得る四段昇段の夢はかないませんでした。

 現在の将棋界では、公式戦で優秀な成績をあげた女流棋士とアマチュアに「棋士編入試験」を受験する制度が設けられています。こちらもまた、大変な狭き門。しかしそこをくぐり抜け、これまでに男性のアマチュア3人が棋士となっています。

 2022年には里見女流五冠が女性として初めて、棋士編入試験に挑んでいます。しかし結果は不合格でした。

 柵木四段と西山女流三冠は奨励会三段リーグで5回対戦し、いずれも柵木四段が勝っています。

 編入試験で対戦相手を務める若手棋士たちは、微妙で難しい立場です。しかし相手にかかっているものが大きければ、その分だけ全力を尽くすのが将棋界の流儀であり、美風です。柵木四段もまた、全力を尽くして勝ちにくるでしょう。その強敵を相手に、西山女流三冠はいかに戦うのか。

 将棋界という枠を超え、社会的な注目が集まる中で、歴史的な大一番の舞台は整いました。

第4局は西山勝ちで望みをつなぐ

 棋士編入試験第4局▲西山女流三冠-△宮嶋健太四段(25歳)戦は2024年12月17日、関西将棋会館でおこなわれました。

 結果は95手で西山女流三冠の快勝となりました。

 局後、西山女流三冠は次のようにコメントしました。

西山「(棋士編入試験は)やっぱり独特の空気感の中での対局かなと思っているので。その中で、できるだけ自分の全力が出し切れるように、日々を過ごすしかないのかなと思っています。(次戦への意気込み)そうですね、やっぱり大一番・・・。まあ泣いても笑っても最後っていう形なんですけれど。本局も要所でけっこう、あまりいい手を指せなかったかなというところはあると思うので。しっかり反省して、最後、悔いのないように挑みたいなと思います」

 第4局の翌日、蛸島女流六段からは、電話による取材にて、次のようなコメントをいただきました。

蛸島彰子女流六段談

 第4局の将棋は西山さんの玉が堅かったから、半分安心して見ていました。いつもの通り終盤がしっかりしてて、踏み込みが素晴らしかったですね。大きな一番で、勢いがあって、みんなが感動するような将棋を指せるのは、本当に素晴らしいと思います。

 私のところにも、記者の方々から連絡が来ています。しゃべりたいことはたくさんあるんですけれど、私の方が緊張してしまって、なんだかまとまらなくて。


 よく尋ねられるのは、西山さんのスケジュールが厳しすぎるのではないか、ということです。私もそう思います。藤井聡太さん(七冠)もそうですけれど、トップクラスというのは、体力も求められるのでしょう。女流の棋戦が増え、対局数が増えたことはもちろん、大変ありがたいことです。そうした中で西山さんは努力を続けてこられました。


 西山さんは「最後、悔いのないように挑みたい」と言われていました。西山さんが棋士にふさわしい実力があることはもう、多くの方が認めておられるのではないでしょうか。西山さんには、いままでの勉強を信じて、普段の実力を十二分に発揮して、最後もいい将棋を指していただけたらと思います。本当にもう、それだけです。


将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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