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安倍政権「3期9年」で2025年の日本暴落シナリオは防げるか

木村正人在英国際ジャーナリスト
「世界に勝つ」 成長戦略を発表する安倍首相(写真:ロイター/アフロ)

首相の花道

自民党は25日、党総裁任期を現行の「連続2期6年」から「連続3期9年」に延長することを決めました。2018年9月末に任期満了を迎える安倍晋三総裁(首相)が次の総裁選に勝てば21年9月までの長期政権になる可能性が出てきました。

これまで日本では1年ごとに首相が変わり、首相の写真を間違って掲載する英メディアもあっただけに、政権の長期化は評価できるでしょう。G7(先進国)首脳会議でも米大統領とフランス大統領が交代すれば、安倍首相より古顔はドイツのメルケル首相だけになります。

安倍首相としては北方領土返還交渉、憲法改正、2020年東京五輪・パラリンピックで花道を飾りたいところでしょうが、高齢化が急速に進む日本の財政がどうなるのか心配で仕方ありません。

大量定年を迎えた団塊の世代が25年には後期高齢者(75歳以上)になります。ご承知の通り、日本の年金、医療など社会保障給付費は下のグラフのように恐ろしい勢いで増えています。10年から16年にかけて年平均約2.2兆円のペースで増えています。

出所:財務省資料
出所:財務省資料

アベノミクスの恩恵で税収は増えているとは言うものの、とても社会保障給付費の伸びには追いつきそうにありません。日本の政府債務残高は国内総生産(GDP)の240%を上回っています。政府債務を減らすのは難しいかもしれませんが、対GDP比で増えるのを抑えるなど少なくともコントロールする必要はあります。

消費増税を二度先送り

これまでの安倍政権の足取りを振り返ってみましょう。

2012年6月、自公民3党が5%の消費税率を14年4月から8%、15年10月から10%に引き上げる社会保障・税一体改革で合意(3党合意

12年9月、自民党総裁選で安倍氏が総裁に返り咲き。日銀の異次元緩和を軸にした経済政策アベノミクスがスタート

12年12月、総選挙で自民党が圧勝し、安倍氏が首相に再登板

13年7月、参院選

14年4月、消費税率を8%に引き上げ

14年12月、アベノミクス解散で総選挙。消費税率10%は17年4月に先送り

15年9月、安倍首相が自民党総裁選で無投票再選

16年5月、消費税率10%は19年10月まで先送り

16年7月、参院選

18年9月、自民党総裁選

18年12月、衆院の任期満了

19年7月、参院選

20年7~8月、東京五輪・パラリンピック

21年9月、自民党総裁「3期9年」満了

参院が強い拒否権を持つ日本の議会制度では、衆院選に加えて参院選も政権運営に大きな影響を与えるため、政権は短命に終わる傾向があり、政策は大衆迎合的になりがちです。

安倍首相はアベノミクス解散で政権の長期化に道を開きました。消費税率8%への引き上げで消費の落ち込みがひどかったという事情はあるものの、安倍首相は選挙のたびに消費税率10%への引き上げを二度も延期しています。三度目の正直は本当に来るのでしょうか。

超円安シナリオ

団塊の世代が後期高齢者になる25年に社会保障給付費がどれだけ増えるかと言えば、12年の109.5兆円から148.9兆円に増えるそうです。安倍政権は同じ時期にGDPを479.6兆円から610.6兆円に増やす青写真を描きますが、過去20年、日本のGDPは500兆円前後をうろつき、デフレから脱却できませんでした。

同

人口が減少する中、GDPを600兆円以上に増やそうと思ったら、相当な円安に持っていかなければなりません。しかし、そうなるとインフレになって社会保障給付費の負担も膨れ上がる恐れがあります。国際金融街シティーでは25年以降の日本の財政発散を見越して、現在1ポンド=127円が800円になるという超円安シナリオがささやかれています。

輸出企業や海外事業比率を増やす企業にとって「1ポンド=800円」は朗報かもしれません。株価も高騰するでしょう。しかし急激な輸入インフレをもたらし、庶民の台所を直撃します。日本暴落シナリオを避けるにはどうしたら良いのでしょうか。経済協力開発機構(OECD)加盟国の社会保障支出と国民負担率の相関関係を表したのが下の散布図です。

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政府の社会保障支出(対GDP比)はうなぎのぼりに上昇しています。これに対応するには、AI(人工知能)やビッグデータ、ロボット技術を駆使して医療・介護サービスの効率化を進めるとともに、租税負担率と社会保障負担率を合計した国民負担率(対GDP比)を増やしていくしか解決策がないのは明らかです。利益団体の反対を押し切り、国民に負担を求めて改革を進める覚悟が安倍政権には求められています。

いずれも財務省主計局の資料なので財政規律を強調する内容になっています。が、収入は増えないのに支出が膨れ上がるのは必至なので青くなってしまいます。経常収支が黒字の間は大丈夫という楽観論がありますが、経常黒字だから財政発散が防げるという保証はありません。

安倍政権が3期9年に及ぶのなら、GDP600兆円という大風呂敷ではなく、プライマリーバランス(基礎的財政収支)健全化と経済成長を両立させ、デフレを完全に克服する明確な道筋をそろそろ国民に示すべきではないでしょうか。21年に安倍首相が花道を飾ってさようならでは、それこそ「一将功なりて万骨枯る」というものだと思います。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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